初めて見る戦艦
「ははは、こんなに大きな子どもだとは思わなかったぞ」
「存在感だけで押しつぶされる思いだ」
二人のリクトルヒは、呆れたような思いでデュークの姿を眺めました。
「横向きになれるか?」
「はーい」
デュークはリクエストに応えて、カラダの位置を調整し、ツルリンとしたフネの船体の姿をあらわにしました。
「つるっとしてるな……フネというよりクジラみたいだ」
「構造物がすくないからな……うーむ、お前さんは、なんのフネなんだ?」
「まだ決まってないんだ」
プリニウスはデュークの巨体から、どんな種別のフネなのかを判別することができませんでした。デュークは「もうしばらくしたら決まるんだって」と説明します。
「ううむ、大きさだけなら連合の標準戦艦サイズと同じだから……」
「標準戦艦って?」
プリニウスが「標準戦艦」という単語を口にすると、デュークが初めて聞くそれに反応しました。
「軍艦の中でもとびきりデカイやつだぜ。見たことないのか?」
「うん。見たこと無いよ」
デュークは、テストベッツにはそもそも戦艦がいないと言いました。
「戦艦――と言えば、今、この上空にはそれがおるな」
「あ、そういえば、そうだな護衛のフネが戦艦だ」
ガイウスは白銀の指を上に上げ、プリニウスは顔を上げて「コンスルフリートの護衛戦艦がいるぞ」と言いました。
「え、戦艦がお空にいるの?」
それを聞いたデュークはパタパタとクレーンを振るって、「見たい見たい!」と言いました。
「そうか見たいか……そうだな、ちょっと待てよ――――コード27、こちら執政護衛官プリニウス――」
興味津々の様子のデュークに苦笑したプリニウスが、無線を使って上空に向けて交信を始めました。
「マギス少佐、フネの子どもが、戦艦を見たいといってるぜ。ああ、デュークという子どもだよ。ものすごくデッカイやつだ」
プリニウスはしばらく交信を続けます。
そして、彼はおもむろに親指を立てたのです。
「お前が良けりゃ、見学していいってさ」
「うむ、気が変わらんうちに行ってきなさい」
二人のリクトルヒはデュークに、戦艦見学に行って来いと言いました。
「わーい! じゃ、いってきまーす!」
二人の後押しを受けたデュークは、期待を龍骨に躍らせながらお外へと続く出口へ向かいます。しばらくすると、ドーン! という轟音とともに、カタパルトの方から、ズバッとした轟音が鳴りました。
「ははは、でかいフネだったなぁ……で、ガイウス、念押しするが……」
「うむ、紹介してやろう……ちょっと漏らしたことは、誰にも言うのではないぞ?」
二人は、ちょっと湿った股間を感じながら、誤魔化すように呵々大笑したのです。
◇
「あ、あそこだ!」
ネストの上空で、上空待機する艦船がシグナルを放っていました。
デュークはその位置を確かめてから、|ヴォォォォォォン! という重力波の汽笛を使い、「並航許可求む」と尋ねます。
すると、「フォォォォォォン」と、華やかな重力波の返答がデュークの龍骨を震わせました。
「あれ、この汽笛……」
汽笛の音色の主を確かめるために、はっきりと見える位置へと向かった彼の視覚素子に――
「やっぱり龍骨の民(同族)だ!」
大きな口、キュルリとした眼を持つ、生きている戦艦の姿が映りました。
「うあぁ、なんて綺麗なフネなんだ!」
デュークは視覚素子をクリクリと動かし、体長500メートルほどもあるフネのシルエットを眺めます。
フネの外殻が形作るシルエットは、鍛えられた太刀のごとき雰囲気を持ち、艦首は鋭い切っ先を持った刺突剣の匂いを漂わせています。
白銀を基調として、透き通るような桃白色が乗った装甲板が恒星の光の下で輝き、フネの側面には共生宇宙軍を示すマークと、連合執政府(RIQS)の文字が描かれています。
「あれは、砲塔というやつかな?」
戦艦には白銀に輝く砲塔が四つ装備――いえ、重ガンマ線レーザー砲塔が、カラダの一部として生えているのです。
「強そうだなぁ……」
デュークは、四つの砲身が天を突くように伸びあがるのを見て、なぜか龍骨がドキッとします。
「ええと、挨拶しなきゃ……こんにちは、見学に来ました!」
デュークは戦艦に向け、挨拶をしました。
すると軽やかな電波の声が返ってくるのです。
「あなたが、テストベッツの幼生体ね。連絡は受けているわ」
楕円形で切れ長の視覚素子がキュルリと動き、デュークを見つめます。
テストベッツネストのフネに多い、大きな丸いものとは違っていました。
「私は、アームドフラウ氏族のマジェスティック。よろしくね」
戦艦マジェスティックの声は、しっかりとした強さを持ちながら、どこか甘やかな匂いを漂わせています。それは、透き通るような柔らかい電波の声でした。
デュークは、女の戦艦なんだ! と本能的に理解しました。
龍骨の民はシルエットや声色が男女でハッキリと別れているのですが、他の氏族のそれもうら若い女性に初めて出会ったデュークは、龍骨が少しドキドキするのを感じました。
「ぼ、僕はデュークです!」
「デュークというのね。それにしても随分と大きな子どもだこと。今の子たちは皆、こうなの?」
自分よりも大きな子どもの姿を確かめたマギスは、切れ長の眼を見開いて興味深そうに言いました。
「うーん、どうなのかな。テストベッツには子どもの数が少ないし。他の氏族とは交流がないし」
「ああ、まだ宇宙に出たばかりなのね」
マジェスティックは納得したように、そう言いました。
マザーにすむ龍骨の民は、幼生体が大きくなりある程度の分別を持つまで、他のネストの子どもたちと混ぜる事はありません。暴走して衝突したり、喧嘩したりすると困るからです。
「それで、私を見学? 戦艦を見るのは初めてだって聞いたけれど」
「ネストには戦艦がいないから……それがどういうものか知りたかったんだ! ねぇねぇマジェスティックさん。戦艦がどういうフネなのか教えてよ!」
「それはいいけれど、私のことはマギスと呼んでね。マジェスティック(威風堂々)って名前はあまり好きじゃないの」
「うん、わかったよマギスさん。じゃぁ――――」
デュークはそれから、小一時間ほど、戦艦の事について、「戦艦って、なに? 凄いの? 強いの?」と尋ね続けることとなります。
それはまるで、子供らしい好奇心の速射砲でしたが、マギスは丁寧に答えを返してくれます。
「へぇぇ、弩級戦艦とか、装甲艦って呼ばれる艦種の事を、戦艦って言うんだぁ。マギスさんは、どんな戦艦なの?」
「私はね艦型分類で、高速戦艦というものなの」
「高速戦艦?」
と、初めて聞く言葉に、デュークは龍骨のコードを確かめました。でも、そこにはなんの情報もないのです。
「あれ? 龍骨の中に情報がないや」
「これは共生知性体連合の新基準だから、あなたの龍骨にはまだ入っていないみたいね。私のような速度を重視したフネのことをそう呼ぶようになったわ」
マギスは、フネの後部に付いた推進機関をスラリと伸ばしました。その船足は実に効率がよさそうです。
デュークは「このフネは間違いなく速いぞ!」などと、”韋駄天”の二つ名を持つアーレイおじいちゃんを思い出しました。
「あとね。マギスさんは女のフネでしょ。戦艦って女性の方が多いの?」
「半々だと思うわ。でも、私のネストのフネは、ほとんどが女なのよ」
「へぇ、女のフネばかりのネストがあるんだ」
そこで、デュークはマギスを改めて見つめます。
「ベッツにも現役船が来たりしない? おんなのフネの」
「うん、でも、ネイビスさんも女のフネだけど、昼寝ばかりしてるし……」
彼は若い女性のフネをほとんど見たことはありません――正確にはネイビスがいるのですが、実家でゴロゴロするオヤジめいた姿は参考になりません。
「だから、現役船のお姉さんなんて、初めてなんだ――」
彼の龍骨に、純粋な想いが湧き上がります。彼は大きな眼にポヤァァァとした色を乗せながら、子どもらしい率直さで、それを口にします。
「僕、こんなに綺麗な女のフネ、初めて見たよ!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわねぇ」
子どもらしい賛辞を受けたマギスは、切れ長の視覚素子を細め、フフっと軽い笑みを浮かべたのです。




