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突入

 バジジジジジジジジ……ッ! っとしたプラズマアーク溶断機の煌めきが放たれると装甲板の一点が赤熱化を始め、やがて金属は赤から橙色に移り、鮮やかな黄色を過ぎれば白熱化して融点を迎えます。


「融点はそれなりに高いけれど、手持ちの溶断機だけで貫通できそうだよ」


 デュークは共生宇宙軍制式のプラズマカッターを駆逐艦サイズのフネの装甲板に押し付けながら、順調に穴が開いてゆくのを確かめています。ギョリギョリギョリ! とせん断が進む装甲板は、あと数分で貫通しそうな手ごたえでした。


「事前の探査では厚みが240ミリってところだったか? 前時代的な戦車の装甲板と同じくらいだぜ。この厚みでよく船体が持つもんだ」


「隔壁や内部骨格で支える部分が大きいのかもしれないね。でも、船体の大きさからして、それはあまりなさそうだけど」


「ふむ、サイキック能力で補っている可能性はあるやもしらん」


 240ミリとはげんこつを二つ合わせたくらいの長さであり相当な厚みであり、前宇宙時代の重戦車――ネズミの愛称を持つそれが持っていたものと同等クラスなのでした。でも、恒星間宇宙で戦闘を行う共生宇宙軍からするとコルベットクラスにも劣る装甲厚しかないようです。


「よし、貫通したみたいだ、あとはこれを四角く切り抜いてゆけばいいんだよね」


「穴の大きさは、カラダが入る位でいいぞ」


「装甲宇宙服を着た君が入れるくらいの大きさだね」


 デュークはバチバチとしたプラズマトーチをフネの装甲に向けているものですから照りかえる火花は大変なものですが、彼はそれをクレーンで覆いながら作業をしているので、周囲にはそれほどの影響はありません。


「じゃあ、こんな感じかな。こんな感じにすると素早く、無駄なく切れるんだ。スパッとね!」


「おおぅ……お前さん、随分手慣れているじゃないか」


 デュークがトーチを振るうと装甲板にズバリとした切れ目が入り込みます。それはまるで金属ではなく、お餅を切り開くようなたやすさでした。


「まるで熟練のエンジニアみたいだぜ。こんなこと、どこで覚えたんだ?」


「故郷にいた時だよ。オライオじいちゃんに教えて貰ったんだ」


 デュークはオライオのようなネストを修理する老骨艦から様々な溶断技術を学んでいました。それはある意味日曜大工的なものだったかもしれませんが、彼らは生きている宇宙船でありそのレベルは下手な技術者のそれを超えています。


「じいちゃんは言ってたなぁ……出来る限り静かに素早く装甲板を貫くのじゃ。潜り込んで破壊工作するための技術じゃ……みたいなことをね」


「おいおい破壊工作ってな、随分と物騒な事をする爺ちゃんだったんだな」


「うん、現役の時は海賊狩りをするのがご飯より好きだったって言ってたよ。共生宇宙軍で特務艦をやってたんだって」


「ん? 海賊狩りの特務艦、オライオだって?」


 スイキーはそこで「もしかして、その爺ちゃんは魔船(ザ・デビル)みたいな二つ名を持ってなかったか?」と尋ねました。デュークは作業の手を止めることなく「うーん、そんな二つ名をもってたような気がするけど」と答えます。


「おいおい、”ザ”が付く二つ名のフネってな最上級の――お前の爺ちゃんは相当にヤヴァイフネだったんだぜ」


「えっ? でも、オライオ爺ちゃんは、普通のお爺ちゃんだと思うけれどなぁ。ザ・なんとかって他にもいたし」


 デュークは「ザ・スピードとかザ・マジックとか、ザ・インサイトとか、ほかにも――」などと言いつつも、今は装甲板の溶断にかかりっきりなものですから、細かいことは考えずに集中して作業を続けます。それを聞いたスイキーは「やはりテストベッツってな、やべぇネストなんだな……」などと呟くほかありませんでした。


「っと、大体これでいいかな。あとは一押しで穴が開くはずだよ」


 デュークの優れた溶断技術により、装甲板には綺麗な四角形を描く破断口ができていました。


「よし、あっち側には誰もいないな」


 手元の探査機を確かめたスイキーは「だが、手順通りにいくぞ」と言い、デュークが「アイアイ」と答えるのを確認してから、おもむろに右足に力を溜め――


「うおりゃぁぁぁぁ!」


 と、装甲板にゲシッと蹴りをいれました。


 ペンギン族である彼の脚力はなかなか大したものである上、今の彼は倍力装置付きの装甲宇宙服を身に着けているため、ペンギンキックにより装甲板はバガン! と外れて中に落ちてゆくのです。


「突入――――!」


 それと同時にスイキーは機関短銃を手に穴の中に入り込み、素早くクリアリングを行いました。デュークも、活動体の背中に着いたミニチュアレーザー砲塔を伸ばしながら、スイキーをフォローする形で穴に入りました。


「……やはり無人か」


「そうじゃなかったら困るよ。傍から見ていたら、やっていることはただの押し込み強盗みたいなものなんだもの」


「ふむ、言いえて妙だが、確かにそうだ。だが、これむお勤め、さっさと中に入ってみるとしようぜ」


「あんまり気乗りはしないんだけどなぁ……任務だからね」


 と、二人は駆逐艦の残骸の中に入っていったのです。

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