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大きな子ども

「さて、デュークの本体はどれほどの大きさだろうか?」


 デュークの後ろ姿を見つめながら、ガイウスが言いました。


「だから、100メートルぐらいだろ」


「ううむ、大きな宇宙船である龍骨の民ではあるが、子どもだから50メートルくらいではないか?」


「んじゃ、賭けをしようぜ。100メートルを超えていたら、お前、従姉妹を紹介してくれよ。女官の」


「……ふむ、まあ一興ということか」


 ガイウスは「わかった」と言いました。

 プリニウスは、「はっ! 約束だぜ」と念押しをします。


「さて、様々な星の子どもを見てきたが、子どもというものは、どこの星でもあんな感じだな……」


「ま、子どものいない種族もいるしな、人工知性《AI》とかな」


「いやいや、AIにも場合によって親子関係があるらしい。首都星にある図書館――ライブラリの管理AIとは、123代目ということだ」


「ほぉ、初耳だ。AIにも子どもがいるんだなぁ――

 俺も早く結婚して子どもを……

 ん? なんだこの揺れは?」


 プリニウス達の足元が振動し始めていました。


「あそこだ、壁が動いているぞ!」


 ガイウスが壁を指さすと、発着場の壁面にポコリと穴が開いたのです。


「なんだあれは? 巨大なハッチか扉か?」


「フネの出入り口だろ。あそこから、デュークが出てくるんじゃないか?」

 

「……むぅ、随分と大きなフネの舳先がでてきたぞ」


「なんてデカい舳先だ! 

 さすがにあれはデュークじゃないな。遠近感がおかしくなるくらい、大きいもの」

 

 隔壁に空いた扉から大きな舳先が入ってきて、重力スラスタが鳴らすズゴゴゴとした重低音が発着場を満たしました。


「しかし、随分とデッカイフネだなぁ……」


 プリニウスが赤外線を放つ眼を擦ります。

 彼の目には映るその舳先は、高さ100メートルはある大きなもの。

 

 舳先がヌゥっと進み込むと、船腹がズイっと現れます。


「おお、目測で300メートルもあるぞ!」


 ズズズと入ってくるフネのカラダは、300メートルほどを超えても後ろの船体が穴の中に残っていました。

 

「……おいおい、まだ後ろがあるぞっ?!」


「500メートル級宇宙船だな……む」


 山のように大きなフネのカラダは、もう少し続きがあるようです。


「あれが船尾ってことは、おい、600メートル級スターシップじゃないか。連合の戦艦級の大きさだ」


 600メートルを超えたところで、漸くのことでフネの全容がわかりました。


「老骨船の誰かだろうか? だが、これまでに見たことのない色をしている。しなびておらん……綺麗な白い外皮をしているな」


「ありゃ……こちらに来るぞッ!」


 白くて大きなフネが、舵を切ってゆっくりと回頭を始め、舳先をリクトルヒらに向け、彼らに向かって進み始めるのです。


「えっと……すごく怖いんですけど……」


「同感だ……ああ、どんどん、こっちに――」


「……うおおおおお! 止まれ、止まれぇ!」


「――れ、連合執政府の名において命ずる! そこのフネ止まりなさい!」


 巨大なフネに向けて二人のリクトルヒは慌てて停船命令を放ちます。


 100万トンを優に超えるであろう物体が、自分の方へ寄ってくるのです。

 たとえ微速前進だったとしても、その威圧感は迫力満点! 精鋭たるリクトルヒの肝を冷やすにだって十分でした。


 大きなフネは速度を落としましたが、巨大なカラダはズズズと、少しずつ前に出てきます。


「うぉぉぉ、押しつぶされるぅぅぅ――――⁈」


「母上、先立つ不幸をお許しください……」


 プリニウスが絶叫しました。

 ガイウスは、死を決した兵士が残す遺言のようなセリフを漏らします。

 目の前に100万トン――いや、1000万トンを超えるであろう物体が迫れば、致し方のないことです。 


「しゃ、シャトルは――? 退避、退避させろ!」


 遅まきながらガイウスがシャトルに警告を与えました。


 コクピットの中では――

 パイロットたちは白くて大きなフネを眺めながら、なにやらおしゃべりをしたり、カメラを回して撮影などしています。


「パイロット共はなにをしてやがる!」


 プリニウスが絶叫すると、シャトルの中のパイロットたちが「ほらほら、前、前」とハンドサインで振り返るように伝えてきました。


「「う、お……」」


 彼らがクルリと振り向くと、目の前に巨大な船首が壁のように立っていました。

 巨大なフネが彼らの少し手前でピタリと一時停止していたのです。


「「お、おおおお、止まったぞ!」」


 ホッとした二人の前で、10メートルほどの視覚素子がパチクリとしていました。

 それはまるで大きな鏡のような潤んだ瞳で、中にプリニウスとガイウスの姿が映り込んでいます。


 そして、二人を眼の中に入れたフネが、大きな口を開いて声を放ちます。


「これが僕の本体だよ――――!」


 その声はとても大きくて、空気をズゴゴゴと震わせるほどでした。

 

「え……デューク? こ、これがデュークなのかっ⁈」


「こ、これがあの子どもだとっ⁈」


 プリニウスとガイウスは、驚愕の声を上げました。


「「600メートル級の……”子ども”だというのかっ⁈」」


 デュークが初めて異種族に対して見せた、本当の姿でした。


「冷や汗三斗……だ。賭けは……お前の勝ちだなプリニウス……」


「賭けに勝ったはいいが……汗だけなら御の字だよガイウス……」


「大丈夫、実は俺もだ……しかし、大きな子ども、だな……」


「ああ、でも……眼がクリクリしてて、可愛いもんだな……」


 共生知生体連合の精鋭、リクトルヒたちがビックリ動転です。

 

 それを眺めた大きな子どもは――


 ちょっと満足げに、ほんのり恥ずかしげに「脅かしてごめんよ」と謝ったのです。

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[気になる点] 「異種族コミュニケーション」と「大きな子ども」が同じ内容になっている
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