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異種族コミュニケーション

「お前、話を振っておいて、そりゃ無いぜ――!」


「ううむ」


 プリニウスがプリプリと怒るのですが、ガイウスは「確かに振っておいてなんだが……」などと言った時――


 デュークのミニチュアが、スルスルと重力スラスタを吹かしながらやってきます。


「おっと、フネのミニチュアが近づいてくるぞ……」


「おい、そこで止まれ!」


 リクトルヒ達は、そこで止まれと、手を挙げて制止しました。


「真っ白いフネだな。こんなの見たこともないぞ。ヘイ、どうした?」


「これはフネの子ども、幼生体だろう。何用かな?」


 目から赤外線の光を放ちながら、二人のリクトルヒが尋ねます。


「――――! ――――!」


 デュークは放熱板(翼)とクレーンを振るって、なにかを訴えかけるような素振りをみせました。でも、リクトルヒの耳には何も聴こえてきません。


「なにか言いたそうにパクパクと口を動かしているな。おや、無線に変なノイズが入ってるぞ」


「電磁波で喋っているようだが、周波数が合わないから、よく聞こえん。すまんが、話がしたいなら、別の方法でたのむ」


 すると、デュークは今度はライトを使ってパシパシと光を放ちました。


「うぉ、まぶしっ――! 光信号(モールス)かっ⁉」


「ははは、まったく生きている宇宙船らしいな。しかし、さすがにそれは読めんから、音――空気を震わせて声を出してくれ」


 それを聞いたデュークは「あ、わかったよー」と言う風に翼を掲げました。

 彼はミニチュアの船首をフリフリさせ、口の中をモゴモゴとさせました。


 すると――


 キィ――――ン!


「うぉぉぉぉ、耳がっ⁈」


「その音はらめぇ~~!」


 金属質の歯がキリキリ合わさり、ガラスをひっかくような高い音が飛び出します。


 甲高い音が良い感じに耳に突き刺さり、リクトルヒらは耳を押えて悶え、肩に持った2メートルほどの棍棒を取り落してしまいます。


 ドン! 


 超重量の棍棒が地面に落ちると、デュークは「あわわ」と驚き、舳先を何度も上げ下げしてジェスチャーで「御免なさい」と謝罪を伝えました。


「もう少し低い音で頼めないか? 俺たちの可聴域はそんなに広くはないんだ」


「うむ、超音波は使わないでくれ」


「……ピ!」


 デュークは、金属の歯のこすり合わせを慎重に行い始めます。


「ピィピィピピピピィ――」


「そうそう、その位の音でたのむ」


 ミニチュアの口から小さな音が鳴り始め、段々と調律され、言葉に変わってゆくのです。


「ピィピィピィ……こ、こんな感じでいいかな……

 あ、こんにちは! 僕は龍骨の民の幼生体デュークです!」


 調音がほどよいところに落ち着いたところでデュークは改めて頭を下げました。


「ほぉ、デュークというのか。俺はプリニウス。こいつはガイウス。よろしくな。で、何をしに来たんだい?」


「教えて欲しいことがあるんです!」


「ふむ、異種族コミュニケーションの練習ということか?」


「はい!」


 ガイウスが金属質の顔をわずかに頷かせました。


「で、教えて欲しいことってなんだい?」


「ええとね、リクトルヒ――あなた方の種族は、僕らとは産まれ方が違うと聞きました。それって本当ですか?」


「うん? そりゃ、俺達は星からは産まれんからなぁ。たしかに違うね」


 プリニウスの回答に、デュークは「へぇぇやっぱりそうなんだぁ」と頷きます。


「じゃぁ、どんな感じで産まれてくるの?」


「私達は――母親が産むのだ」


「おかあさん……それは、マザーみたいな星ですか?」


「ちょっと違うな、我らの母は我らと同じリクトルヒなのだ」


 ガイウスは、リクトルヒはリクトルヒが産むと言いました。それは龍骨の民でいえば、フネがフネを産むということです。


「ふぇぇ……」


「俺たちには父親と母親がいてな。それがこう――良い感じにくっついて、あれこれすると、母親の中に子どもができるんだよ」


 プリニウスは白銀の相貌に苦笑いを浮かべながら、デュークに父親と母親の事について四捨五入して過不足ない表現で教えました。


「へぇぇ、龍骨の民と随分違うんだね。父親っていうのは良くわからないけれど」


 マザーと幼生体、現役船に老骨船というような分類しかないのですから、龍骨の民にとって、父親の概念は理解が難しいのです。


「まぁ、わからんでも、気にしないでもいいさ――それにな、宇宙には自己分裂して増える変な種族もいるからな。ところで、デュークはまだ子どもなんだろ? 産まれてから何歳だい?」


「何歳? ええと――」


 デュークは、クレーンの先の指を折りながら、産まれてからの日数を数えました。


「ええと100日くらいだったかな」


「おっと、100日って、冗談だろ⁈ 俺たちだったら、まだ赤ん坊じゃないか」


「ほぉ、龍骨の民の成長は早いと聞いたが、わずか100日で、これほど話が出来るようになるのか」


 二人のリクトルヒは「これは、おどろきだ!」と顔を見合わせました。


「変ですか? 普通の事だと思ってたけれど……」


「いや、変でもないかな。産まれた時から大人な種族もいるからなぁ。共生知性体連合には、そんな奴らもいるんだ」


「それも種族のあり方の一つ……

 ではこちらから問うが、デュークには兄弟はいるのかな?」


「えーと、こないだ妹が産まれたよ」


 デュークは、ネストの家族構成を説明しました。


「ははぁ、マザーが母さん。老骨船がじいちゃんばあちゃんで、現役の船が、おじさんとか兄貴とか、お姉さんになるんだな。年が下だと妹とか弟だな」


「ふぅむ……ところでデュークという名前は、誰につけて貰ったのだ?」


「僕、すごく大きく産まれたから、お爺ちゃんたちが、昔ネストにいた大きな戦艦みたいに大きくなるだろうって――そう名付けてくれたんだ」


「大きな戦艦デューク……どこかで聞いたような……まあいいか。

 それで、今のデュークはどれほどの大きさだ? 100メートルくらいかな?」


 プリニウスは、様々な龍骨の民を知っていますが、フネの子どもの大きさは知りませんでした。

 子どもとはいえ、生きている宇宙船だから「100メートル位ではないかなぁ」と当たりを付ける他ありません。


「ええと、それは――あ、そうだ! 本体を見てもらった方が早いよ!」


「お、その方がわかりやすいな!」


「うむ、そうだな、デュークの本体を見せてくれ」


 リクトルヒ達が「それは良い」と言ってくれたので、デュークは「待っててね!」と、白く艶々とした活動体を翻して、自分の本体に向かったのです。

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