白銀の護衛たち
ゴルゴンがチェフォデラー元執政官をネストへ招き入れた後、デュークは発着場に残ったシャトル警護のリクトルヒを眺めています。
「リクトルヒの“顔”って、龍骨の民でいえば舳先と目と口だよね?」
リクトルヒの顔は、のっぺりとして白銀に輝く機械的なもので、龍骨の民とは全く違うのです。
「何かの棒を持ってるね?」
「あれはね、執政府の高官を警護するための重棍なのよ。超重金属の棒を200本ほども重ねたもので、重量は100キロ以上はあるらしいわ」
ネイビスは「頑強な種族なの」と言いました。
棍棒を肩に担ぎながら、目を光らせて周囲を警戒するリクトルヒの姿は、いかにも警護の武士と言う感じで近寄りがたい雰囲気をもっています。
「あの人たちも僕らと同じように、星から産まれてくるのかな?」
「彼らは私たちとは全然違う形で産まれてくるのよ」
ネイビスが苦笑いを浮かべてから、こう続けます。
「そうね、これも良い経験だから、直接あの護衛さんたちと話をしてきなさいな」
「え、いいの?」
デュークが舳先をピョンと上げました。
異種族とお話をするのは初めてなのです。
「これも勉強ね。宇宙に出たら様々な種族とつきあうのだから。いい? ゆっくりと近づいて、しっかり挨拶するのよ」
「うん、行ってくる」
デュークらの会話を他所に――
「なぁ、生きている船って不思議な生き物だよなぁ。話のわかる気のいい奴らではあるけれどさ」
リクトルヒたちが、硬質の金属でできた唇を僅かに震わせ、音波を使って会話をしています。
重棍を抱えたリクトルヒの一人、少しばかりほっそりとした顔を持つプリニウスが、僅かに首を傾げながら「フネの生き物とはね」と言いました。
「我らと同じ知性体だが、根本的なところで我らとは違う。男女の別があり、仲の良いフネ同士で番になるようだが、生殖に繋がらぬ」
相方――ごつい作りの風貌をしたガイウスが、「彼らは星が産むのだからな」と言いました。
「この足元にあるマザーか。ううむ、星が母親か……なるほど、理解できん」
「ふむ、龍骨の民ですら、”マザーは何も教えてくれない”と言っている。産み出された子ども達自身ですら分からぬのだから、我らにわかるはずもない」
ガイウスは苦笑いをしながらこう続けます。
「我らは男女で結婚し子どもを作る。フネは星が産み老骨が育てる――やり方は違えど、どちらも先祖より受け継がれた生き物としてのあり方。ふむ……結婚といえば、今度の任期が終わったら私は結婚するのだ」
「おっと! そいつは初耳だな。相手は何者だ?」
「執政官のところでメイドをやっている。白金の装甲を持つ可愛い……子だ。二期前の休暇で出会ってな」
ガイウスは少しばかり恥ずかしそうに言いました。
「執政官付きのメイドか、ううむ羨ましい」
「ふむ……では、私の従姉妹でも紹介しようか? リクトルヒ王室の女官をやっている高値の華だが、お前だって執政府付きのエリートだし、名家モンタギューの出身であるものな」
「おお、そうか。ふぅむ……女官か」
プリニウス・モンタギューは顎を擦りながら「女官……」と改めて言いました。口の端が釣り上がっているから、満更でもないようです。
「ぬ、女官というところに反応したか……貴様、職業フェチと言う危ない性癖を持っていたな。ううむ、やっぱ紹介はなしと言う事でいいか? キャピュレットの者たちから、何を言われるかわからん」
「おおい、それは無いぜ――!」
白銀の装甲を持ち、剣呑な視線を投げかけ、超重の棍を構えて、直立不動でシャトルを守る彼らの間では、重いような軽いようなそんな会話がなされていたのです。




