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文化の違い

 ネストの発着場にフネのミニチュアが集合していました。

 

「おっと、じぃさんたちが、戻ってきたわね」


 天井の梁に掴まったネイビスが、半透明の素材を通して、ゴルゴンらが戻ってくるのを見つけます。


「整列整列――! 気圧の変化に備えろ――!」


 ネストの面々は小さなカラダを並べ、綺麗に整列しました。


 それに合わせて発着場の天板がゆっくりと開いてゆき、ネストに満ちている不活性ガスが外に吹き出して、発着場は真空状態になりました。


「おーい、皆の衆。お客人を連れてきたぞい!」


 オライオとゴルゴンが降りて来て、するりと降着スペースにカラダを固定しました。その後から、シャトルが降下してくるのがわかりました。


「あれが異種族のフネかぁ! 目測で100メートルもないな」


 シャトルは降下速度を調整しながら、龍骨の民たちに側面を見せ、ゆるりとした着陸態勢に入りました。


「”共生知性体連合”の紋章――僕らの世界を意味する印だね。RIQSという文字はなんだろう? 何だかヘンテコなシンボルもついてるなぁ」


「RIQSは、連合執政府を示しているのよ。天秤のシンボルは執政官様って覚えておけばいいわ。

 で、執政官は、超偉い人なの。

 航路(みち)で出会ったら、脇によけて土下座しないと艦首を刎ねられるのよっ――!」


「え、そうなのっ⁈ ひぇぇぇぇぇぇっ!」


 デュークをからかったネイビスは、「冗談よ」と笑いました。


 発着場では、着陸用の足を延ばしたシャトルがするりと降り立ち、エンジンをシュウシュウとさせて、熱を落としてゆきます。


 発着場の天板が閉まると、床に備わったパイプラインから、ブワリと気体が噴き出しました。


「なんだろ、このガス――? いつも空気と違うよ」


「酸素と窒素と二酸化炭素の混合物よ。お客様が呼吸するための特別な人工大気なの。私たち龍骨の民と違って、酸素とかがないと死んじゃう種族は多いから」

 

 発着場の気圧が高まり、シャトルのエンジンが完全に停止して落ち着くと、乗降口の開放用装置がガチャリと音を立てて、開放(ディスアームド)へ移行しました。


「さぁ、お出ましよ」

「異種族か、どんなだろうね!」


 異種族の姿を想像するデュークの龍骨がブルっとします。


「あ、出てきたぞ……」 


 すっと乗降口から顔を出し、白銀の輝きを持つ金属質の鎧を纏った二足歩行の生き物が降りてきます。

 顔もまた白銀に輝き、何かをうかがう様に紅い目がクルクルと放っていました。


「二本の足を交互に揺らして歩いてる! へぇ、あれが足のある種族かぁ。頭に目や耳とか感覚器官が配置されてるね。スッゴイ変な生き物だなぁ!」


「そうね、たしかに私たちとは全然違うわよねぇ。でもあれが、一般的なヒューマノイド型ってやつなの。種族はなんていったかしらねぇ?」


 ネイビスが船首を傾げていると、活動体に入ったゴルゴンがスルスルとやってきて、このように教えるのです。


「あれは機械生命体の一種のリクトルヒという種族だ。種族の多くが護衛やら傭兵やらメイドとして、執政府に仕えておる」


「へぇ~~リクトルヒって言うんだ」


 その後も続々と、白銀の鎧をまとったリクトルヒたちがスロープを降りてきます。


 総数11名――デュークには、その顔や体は全く同じように見えました。


「11個も同じ顔が並んでいるね。僕たちでいうところの同型艦(兄弟)みたいなものかなぁ? それとも個体差がないのかな?」


「異種族の顔は大体同じに見えるのだ。近くで見たら、微妙に違っているはずだ」


 スロープを降りたリクトルヒ達は2列に並んで隊列を作り、手にした棒状のものを高く掲げました。

 周囲を見定めて赤い目の光が落ち着くと、突然リクトルヒのカラダから音楽が沸き起こります。


 デーン、デーン、デン、デデデーン! 


 それはなにやら恐ろし気であり、随分と重厚で、荘厳な感触のある音楽でした。


 パパラパーン!


 とした管楽器やら――


 ドドーン!


 とした打楽器の音が鳴りあがり、弦楽器は実に不穏なメロディーを奏でます。


「うわぁ、なんだこれ」


「これはリクトルヒが歌っているのよ。儀仗用の音楽ね」


「シャトルから、お偉いさんが出てくるときのお約束だな」


 プワァーン!


 と、ファンファーレが鳴り響くと、シャトルの中からトーガのような衣服を身に着け、フードを被った人物が現れ、タラップの上からゆったりと降りてくるのです。


 トーガの端から覗くサンダルがグッと地面を踏みしめ、ヒューマノイドとしては随分と長身のカラダがスゥと逸らされ、たくましく伸びた手が上がると、フードが巻き上げられました。


 フードの中から現れたのは、鋭い光を打ち出す三つの眼でした。

 頭部全体を包むような二本の角が伸びてもいます。

 口元には立派な顎ヒゲが伸び、白い面をスラリとさせていました。


「三眼の視覚素子だ! それに頭になにか生えてるよ! あれはアンテナかな?」


「あれは角というのだ」


 三つ目の人物がその大きな角を振り上げました。

 そして何かを探るように眼光を右に左にゆっくりと横切らせ、長く伸びた耳をピンと尖らせると、大きな角を高らかに掲げるのです。


「ヤギ? なんだろうこのコード……?」


「種族を判別する情報が浮かんだか。あれはヤギ型種族だからな」


 ヤギは、口元に蓄えた白い顎ヒゲをさすりながら一つ頷くと、しずしずと歩を進め、リクトルヒたちがずずいと付き従いました。


 歩みを進めるそのヤギの様子は、護衛されるのが当たり前という自然体――


「うわぁ、なんだか凄いぞ! あれが元執政官かぁ」


「滅茶苦茶、偉そうなヤツだわねぇ」


 デュークとネイビスは、辺りを払うような威圧感や威厳というものをヒシヒシと感じるものでした。


「ふむ、前執政官だから、偉そうなのは当然だ……

 だが、私にとってはただの古い友人でしかない」


「え、友達なの?」


 ゴルゴンは、あの人物はただの旧友だと言うのです。

 そのゴルゴンに向けて、ヤギが重々しい足取りで近づいてきます。


「70年来くらいだったかな? まあ、何にせよ久しぶりではある――では、挨拶に行ってこよう」


 ゴルゴンは何の気負いもなくスルスルと前に出ます。それを認めたヤギの前執政官は、口元を上げて満面の笑顔を浮かべました。


 ゴルゴンの古い友人と言うからには、とても素敵な挨拶が行われる。

 デュークがそんなことを考えていると、前執政官がおもむろに開いて――


「薄汚れたゴミ屑の大地に潜む忌まわしきガラクタが首を並べて我を迎えている!

 なんと(おぞ)ましく烏滸(おこ)がましく不遜(ふそん)であることだと理解しているのかポンコツども!

 貴様らの用意したこの瘴気の忌むべき匂いは激しい反吐を催すほどの嫌らしさ!   

 至高の高みにある悪魔の眷属がこのような汚染地に入らなくてはならないとは!

 怒りを持ってお前たちの龍骨を物理的に精神的に激しく確実に打ち据えてやる!

 知性体に備わる魂を真逆に捻曲げ足蹴にして宇宙の超重力源に叩き込んでやる!」

                                  

「ふぇ?」


 デュークの聴覚素子が捉えた前執政官の言葉は、呪詛そのものでした。

 

 それに対して、ゴルゴンはクレーンを広げてこう応えます。


「その生臭い野生動物のような知性の欠片も微塵も感じられない汚らしい山羊面!

 宇宙中から集めた放射性廃棄物により禍々しく歪んだ気分の悪くなってくる角!

 空虚な光を周囲に撒き散らしながら世界を汚染する外道な力を持った3つの目!

 宇宙の片隅で生きながら腐るのがお似合いのバケモノが持つ矮小すぎる汚い翼!

 外法をもたらす忌み嫌われた破壊の象徴のような激しく切り裂きたい汚れた髭!

 共生種族が等しく認める悪魔じみた名前であり呪詛に満ち満ちている前執政官!」


「ふぇぇぇぇ?! ゴ、ゴルゴン爺ちゃんまで変な事言ってる!?」


 ゴルゴンも前執政官を呪い殺すような言葉を放っていました。

 古い友人たちの間で行われた挨拶は――罵りあいにしか聞こえません。

 前執政官はともかく、ゴルゴンが同じような言葉を漏らすので、デュークは驚きを隠せませんでした。


 そこで、これはどうしたことだろうと、周囲の老骨船を見回すと皆一様に――


「いつもながら、あの種族は」

「笑える、笑える、笑っちゃいかんが……」

「ぷ、ぷぷぷぷ……我慢するのが大変だわ」


 ……笑いをこらえていたのです。


 そして場をわきまえないネイビスがこう告げます。


「あっはっは――びっくりしたでしょ。あれが、あのヤギ型種族の正しい挨拶の仕方なのよ。”言葉の意味を逆にするのが礼儀"ってメンドくさい種族なの」


「えっと、それはつまり――」


 つまり、汚物がどうたらというのは最上級の賛辞ということでした。前執政官は、なんともメンドクくさいコミュニケーションを取る種族なのです。


 呪詛の応酬は続きます……


「偉そうにするなこの連合の寄生虫め! お前、税金無駄遣いしてたろ!」

「ええぃ、何を言うか、お前だって税金泥棒だったろうが! お互い様だ!」

「あれは昔のこと……ええい、この愚かなヤギめ!」

「お前こそ、愚かなフネだ、ほれ、この前執政官様に跪け!」

「てめぇ……龍骨の民に喧嘩売ってんのか?! 母星ごとヤギを焼くぞ、コラ!」


 などと……。


「えーと反対の意味になるということは――

 凄い誉め合いをしたり、そんなことしないよってこと?」


「そうね、酷い言葉を使えば使うほど礼儀正しいことになるみたい。彼らの惑星は罵倒や呪詛で満ち溢れた素晴らしい所なんだって――

 共生世界観光ガイドブックに書いてあるわ。よっぽどのひねくれ者じゃないと、バカンスで行くのはお勧めできないけれどねぇ」


 旧友たちの罵り合いが続きます。


「ゴルゴン、お前、新兵時代、寝小便たれてただろ! えんがちょえんがちょ!」

「ちょ、まて、それはホントのことじゃねーか!」

「うるせ――!」

「ぼけ――!」


 などと……。 


「あは、ゴルゴン老の言葉が、若いころの口調になってるわぁ。

 あの二人、新兵訓練所の同期だったのね」


 とは言え、外交儀礼としてはゴルゴンの振る舞いは完璧なものでした。

 最後は旧友同士の真実の言葉が漏れていたような気がしますが……


「ゴルゴン!」

「チェフォ!」


 ともかく、ヤギとフネはがっしりと抱き合い、久しぶりの再会を祝いました。


「ふわぁ……こんなメンドクサイ種族が宇宙にはいるんだね。共生知生体連合にはあんな種族ばかりがいるのなのかなぁ?」


「大丈夫よ、あんなのはあの種族くらいものだから。まぁ、もし出会ってしまったら、”このボケナス(こんにちは)!”って言ってやると喜ぶのよ」


 デューク達がそんな会話をしている中、ゴルゴンはフッと排気すると旧友に向かって、このように言うのです。


「チェフォデラー、すまないが、ここからは普通に話させてくれ」


「ふむ――わが友が言うのであればしかたがない。そうするとしよう」


 チェフォデラー元執政官はちょっとばかり眉根を上げると、普通の言葉で話し始めました。彼は文化的な感覚を長年の経験と訓練で抑え込むこともできるのです。


「へぇ、普通に話すこともできるんだ……」


 チェフォデラー前執政官は、長いこと別の種族と接触していたこともあり、相手の文化に合わせるだけの努力ができるのです。


「お互いの理解には努力が必要なのよねぇ。そういう努力が、種族をも越えた友達を作る秘訣なのよ。デュークもそれを学びなさい」


「うん……理解と努力かぁ。そうすれば、異種族と友達になれるんだね」


 デュークは、異種族との交流が楽しみになるのでした。

サライ → リクトルヒに名称変更しました。

全編を通して、どこかにサライの名称があるかもですが、おいおい直します。

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