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読み合いの始まり

「さて、砲撃はここまでじゃな。次の段階に移行するとしようかの」


 和尚は「左翼の部隊と合流するぞい」と命じ、砲撃部隊を引き連れて左翼に展開していた艦艇8千隻と合流しました。


「再配置、完了しましたけれども……和尚様、敵艦隊がどんどん星系外縁部に降りてきますよ。2万隻を軽く超えていそうです」


「ほっ、予想よりも数が多いのぉ」


 星系内に降り立ったメカロニア艦隊は2万を大きく超える大軍勢となっていました。現在トクシン和尚が直率しているのは約1万5千に少し足らない戦力ですから、不利な状況です。


「敵の艦隊、陣形を構築していますね」


「一直線の横陣か。平押しに攻めて来る気じゃな」


 スターライン航法を終えたメカロニアの軍勢は小集団を形成し、小集団は中集団となり、それらが横並びになるような幅の広い陣形を組み始めていました。それはメカロニア特有の大戦力を背景にした機械的な陣形であり、柔軟性に欠けるものの攻撃と防御のバランスが取れたものです。


「ふぅむ。あれはちと厄介じゃ……共生宇宙軍の正規軍でも手を焼きそうじゃ。真正面から当たるのは得策ではないの」


 そこでトクシン和尚は少しばかり「ニャゴニャゴ」と考え込み、このようなことを告げます。


「やはり、ここは逃げの一手じゃな」


「ふぇ、逃げるんですか?」


 和尚は「ほっほっほ」と笑みを浮かべてこう続けます。


「ワシらの配下は傭兵ばかり、メカどもの正規軍とバカ正直に殴り合う根性はあるまいて。ならば、逃げまくるしかあるまい」


 元とは言え共生宇宙軍の中将が「逃げろ」と言えば、和尚の言うことはもっともなことに聞こえますし、基本的に命令に従うのが当たり前な龍骨の民であるデュークは否応もありません。彼は通信回線を開いて全艦艇に後退信号を伝えました。


「和尚様、全艦に信号を――――うわ、速い! すごい勢いで後退してます!」


「傭兵とは逃げ足が速いのが通り相場じゃからのぉ」


 そう言ったトクシン和尚は「ワシらも逃げるぞ」とデュークにも後退を命じます。


 推進器官にダメージを受けているデュークですが、もともと鬼のような比推力がある上に、装甲と生体兵装のほとんどを喪失しているため、通常時と同じような加速が可能な状態であり、スルスルと着た道を遡り始めました。


 そして数時間後、星系最外の惑星軌道まで後退し再集結を行ったところで、デュークは後ろを振り返りながら、気になっていたことを口にします。


「和尚様、敵が追ってきませんけれど?」


「ほっほっほ、敵さん警戒して動けんようじゃのぉ」


「どういう意味ですか?」


「ワシらがあまりにも早く逃げとるから、罠でもあるかと誤解してくれたのじゃ。まぁ、無いわけではないから、間違いでもないが」


 トクシン和尚は星系外縁部から現在の位置までに仕込んでおいたステルス爆雷などの配置図を見つめながら「見えるのと見えないのを組み合わせた嫌がらせじゃ」とニンマリとしました。機雷というものはそこにある可能性があれば、あるものとして考えなければならない代物であり、敵の動きを封じる効果が高いのです。


「では、敵の動きはこのままですか?」


「いや、啓開するか、迂回するかしてくるだろう。だが、どちらにせよ時間をかけてもらうとしよう」


 その時、デュークの量子レーダーに強い反応が現れます。


「高速飛翔体を確認! これって対艦ミサイルです。数10万――機雷原に突っ込んでいきます!」


「むぅ……対艦ミサイルを啓開器具にするというのか? 時間を惜しんで、物量で押し通すつもりじゃな」


 メカロニア軍は対艦ミサイルを投入し、機雷ある宙域を啓開する作業に入ったようです。ミサイルは専用の器具ではありませんが、その破壊力を転用すれば機雷原に穴を開けることも可能です。


「ま、お高い対艦ミサイルを惜しげもなく使ってくれれば、それはそれで御の字」


 縮退炉から得られるエネルギーを転用するレーザーと違って、対艦ミサイルは大変に高価であり、その製造には小艦艇なみの資源を必要とするものです。


「だが、こちらの手に対して的確に対応してくるのぉ。相手は玄人、それもかなりのやり手だわい」


 和尚は顔をなでながら敵手に賛辞を送りながら「これは読み合いになるかもしれんのう」とため息を漏らしたのです。


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