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舳先の先は

「おーほっほっほ! さすが合体戦艦プロメシオンだわぁ!」


 戦艦プロメシオンの艦橋では、グレゲル伯爵アレクシアが金髪縦ロール型貴族令嬢式の高笑いを継続していました。従姉妹の哄笑を傍目にしているデュランダル男爵は呆れた面持ちで「もの凄いドヤ顔だ……」と嘆息します。


「気にしない気にしない、勝ってるんだから、良いじゃない」


「ふむ、まぁ、それはそうだなアレクシア」


 彼らはメカロニアの超大型戦艦の力を十全に引き出し、対手たる共生宇宙軍の生きている宇宙戦艦をボコボコに叩きのめしていました。それに対して彼らの乗艦は比較的少ないダメージを受けただけであり、戦場における優位は間違いのないものに成りつつあったのです。


「しぶといが、最早戦力差は覆らん」


「そうじゃなきゃ、降伏勧告なんてしないわよぉ!」


 メカの貴族達が余裕鑠鑠な様子を見せているのもしかたがありません。メカロニアの最新鋭艦である合体戦艦プロメシオンの戦力値は、想定の2割増しの性能を示し、1.5キロ超級の龍骨の民と殴り合いを行い、それを圧倒していたのです。


「これもプロメシオンの合体メカニズムのおかげだな」


「合体システムってば、最高ぅ――――!」


「ううむ、熱血根性合体システム……か」


「そうよ、気合を入れないと合体できないのよっ!」


 戦艦プロメシオンの合体システムは、搭乗者である指揮官やら副官やら乗組員が気合を高ぶらせ「いくぞ! 超絶変形! 戦艦合体プロメシオーン!」などというセリフを放ち、中央電算メカが「合身変体――ショーニィン!」と野太い声で応える必要があるのです。


「うむむ……なんだかなぁ……」


「おにーちゃん好みじゃないのは知ってるけれど、私は気に入ってるわ」


 グレゲル伯爵アレクシアは手元のモニタで「聞いて驚け、見て叫べ! 轟き示すわっ、新たなる合体の境地!」などと叫んでいる自分の映像データを眺め、「もう少しキメキメのポーズの方が、映えるかしら?」などと嘯きました。


「だが、なぜ合体するのに気合とか、根性が必要なのだろうか?」


「気にしない気にしない、メカロニアのトンデモメカニズムは宇宙一なのよっ!」 


「おいおい、自分でトンデモというなアレクシア。ふむ、しかしだな――連結した縮退炉の干渉負荷が始まっている。連結部にもすでにガタが来ている……こんなムチャはあと数時間が限度だな」


 プロメシオンの艦橋に映し出される、艦体の各所データを眺めながらデュランダル男爵は「武人としては、好みではない」とため息をつきました。彼は、戦場ではシンプルかつ堅固でなにをやっても壊れない、いわゆる武人の蛮用に耐えうる兵器こそが最上のものだという考えを持っているのです。


 合体戦艦プロメシオンは複数の戦艦を連結しそのパワーを一つにまとめ、高いレベルで最適化を行い、砲撃を統制するという複雑なメカニズムというものを戦場で機能させることは、技術的に相当な無理なものでした。


 ですから、第三艦橋では「うわっ、接合部が燃えてるぞぉぉぉぉぉぉ!」「こんなこともあろうかと――ウボァッ――!」という悲鳴が聞こえていたりします。縮退炉周りでは「アレクシア様は暗いのがお嫌いだぁ――! 回せ、回せ、奴隷共っ!」と宣う地獄の番人みたいなモヒカンロボに鞭打たれる奴隷達が、懸命に手押し棒を押して、縮退炉の制御棒をコントロールしたりしているのです。


「一応コントロールできているから良いじゃない」


「それはそうだな」


 プロメシオンは試作品も良いところの試製艦ですから、実戦においてはかなり危うげな部分があり、メカロニアに忠実なロボ奴隷達の大量投入により、なんとかまともな感じに動かされていたのです。


 それは古代のガレー船もかくやというような労働環境にも感じるものですが、奴隷たちは皆、完全無欠の強力なブレインウオッシュ(洗脳)が施されています。だから彼らは「毎日仕事だ、365日24時間働ける喜びっ! あ、あれ口から血が出てる?」「あはは、仕事って楽しいなぁ――あれ? 視界がグルグルして――」などと過重労働を楽しんでいるのです。戦艦プロメシオンは、アットホームで明るく、素敵な仲間のいる楽しい職場でした。


「献身的な奴隷って財産よねぇ。あとで褒めてあげましょ」


「ああ、そうだな。この戦が終わったら、いくらかは自由民にしてやるか」


 なお、機械帝国の貴族の中には奴隷民を戦艦のエネルギー源にしたり、バラバラにしてネジなどの部品に使うような「人権? なにそれ美味しいの?」というような輩が大勢をしめています。伯爵と男爵は、これでもまだメカロニアの貴族としては開明的な方でした。


「ところで、プロメシオン・キャノンの発射はまだできないの?」


 アレクシアは、プロメシオンの艦上に鎮座する砲撃戦艦流用の超重荷電粒子砲――強力な艦首軸線砲に全艦のエネルギーを集中する巨大砲――の状況を尋ねました。


「あと、数分でチャージが完了する。まったく、普通だったらこんな手間のかかる大砲は使いたくないぞ」


「その分威力はお墨付きだけどね――」

 

「うむ、これならばやつの艦外障壁も装甲も一撃で粉砕できるだろうて」


 プロメシオンの主砲は少年戦艦デュークのバリアや装甲をかなり削っていましたが、最後のひと押しが足りません。そこで彼らは最大火力であるプロメシオン・キャノンに通常の三倍以上の時間を掛けてエネルギーを充填して、デュークの防御を一撃で粉砕しようと企んでいたのです。


「だけど残念だわ。あの白いデカブツ、できれば鹵獲したかったのに」


「たしかに敵ながら天晴な戦いぶり――我らが支配下に置きたいものだ」


 アレクシアもデュランダルも、武人の極みな一族ですから、勇戦する敵というものに一定の敬意を抱いてしまう人種でした。


「だが、諦めろ。共生宇宙軍は降伏しないだろう」


「機械化や奴隷化を嫌うのよねぇ……機械のカラダってすっごく便利なのにぃ」


 機械帝国という勢力は、その敵に対して降伏か死かの選択を強制し、降伏した敵の脳ミソをチップ化してメカの奴隷にするのです。そしてメカの奴隷となるというディストピア的なアンハッピーが待ち受けているのを知っている共生宇宙軍人は、まず違いなく降伏などしないでしょう。


「まぁいいわ。そろそろサクリと、おしまいにしましょ」


 そう言ったアレクシアは、重大な打撃を受けてボロボロになったデュークを見つめながら「降伏勧告の期限ね」と告げました。


「キャノンを打つ前に敵艦に打電して――――勇敢なる共生宇宙軍の皆さん。あなた達の勇戦を賛えます。あなた方はとても強かった。そのことに嘘はありません。だから、これを撃つことで、勇気あるあなたがたへの手向けとします――ってね」


 そう言った女伯爵アレクシアは「あとね、最後にこう付け加えておいて」


「死ぬが良いっ♪」


「ふむ、そんなところだな。苦しませずに葬ってやろう……」


 そのようにして、どこぞの最終鬼畜なボスの如きセリフを吐きながらニカッと笑うアレクシアに、デュランダルが「やるぞ」と頷いた時です。


「むっ……?」


 スクリーンに映る連合の白い戦艦に動きが生じたことに気づいたデュランダル男爵が「敵に動きが」と声を漏らしました。


「回頭しているだと?」


「ホントだ――もしかして今更、逃げ出すつもりかしら?」


「いや、最早逃げ出すだけの推力はないはずだ。それに舳先はこちらに向けられているぞ」


 データ分析により、生きている宇宙船の残存リソースでは最早退避できるだけの力が無いと判断されています。それが艦首を自分たちに向けるということは――


「ふははは、まだ諦めんとは――やはり戦はこうでなくてはなっ!」


「良いわ、すごく良いわ! さすがは連合の白い戦艦ね!」


 ボロボロになった白い戦艦が舳先を刃のように突きつけてくる姿に、メカ貴族達は高い戦意が敵手に残っていることを認め、満面の笑みを浮かべながら賞賛の言葉を漏らしたのです。

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