表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/427

放たれる幼生体

 加速をつけてマザーから飛び出した5隻は、ネストがあるクレーターを後にして、双曲線を描きながら高度を稼いで上空200キロに到達します。

 すでに速度は第一宇宙速度となり、マザーの重力を振り切って惑星間航行状態に入っています。


ネスト(おうち)が見えないや……」


 後方に飛びすさったクレーターは、円から楕円へ変わり、次第に細くなって地平の奥に消えてゆきました。

 日時計山の麓に見えていたネストは、もう直接見ることができません。


 デュークの龍骨に、なんとも不安な気持ちがよぎりました。


「大丈夫、ネストは逃げはしないのじゃ、それより重力スラスタを全開にして跳びつづけるのじゃぁ――!」


 オライオにそう言われたデュークは、お腹に力を入れてスラスタを吹かします。


 さらに上昇を続け、高度は450キロとなったところで――デュークは異音に気づきました。


「あれれ? 加速が落ちて来たよ」


 重力スラスタがシュルシュル……シュル……と、力を失って、

 しばらくすると、スラスタがフッと停止しました。


「完全にとまっちゃったよ――

 それになに、これ、変だよ、カラダがフワフワするんだ!」


「ああ、この辺りのはマザーからは随分と離れているからな。この位置で受ける重力は、”約0.1メートル毎秒”程度。スラスタの稼働限界なのだ」


 ゴルゴンは重力スラスタを使うためには、一定の重力が必要なのだと言いました。


「それにな、加速によるGが無くなれば、色々と釣り合ってフワフワするものなのじゃ。これが、無重力ってやつじゃ!」


「自由落下というほうが正確ですぞ?」


「まあ、どっちも似たようなものじゃありませんか」


 デュークは、老骨船の説明に、「へぇ~」と感心しました。


「でも、スラスタが使えなければ――これからどうするの?」


 このままでは慣性の法則に従って、直進することしかできません。


「そうですなァ。なにかにぶつかるまで、ひたすら待つしかありませんな。漂流する難破船みたいなものですぞ。はっはっは!」


「ええええ――」


 ベッカリアの冗談めかした口調――

 デュークは驚きの声を上げました。

 推進力が無ければ、今の速度のまま進路も固定されて、彼の言葉の通りにしかならないのは事実です。


「10年くらいで、隣の惑星に到着できるかもしれんのぉ」


「いやいや、進路が合っていないから、その先は小惑星帯ですかね。20年ほどでたどり着くのを期待しましょう」


 オライオとアーレイがこれまた軽口を叩きました。


「その前に私の寿命が来るだろうて…………と、冗談はさておき、ここからは本当の足で飛ぶことになるのだよ」


「足って、これのこと? 使ったことがないけれど」


 デュークは長く伸びたノズルをフリフリさせるのです。

 

「そうだ、そこに縮退炉からのエネルギーを入れるのだ」


「縮退炉って、お腹の中で何かがムズムズして、ドクンドクンって音が聞こえるこれのこと?」


「うむ、それが縮退炉だ。さて、マザーからは充分距離を取ったな」


「周囲の龍骨の民には待避を勧告済みじゃぁ」


「近衛艦隊にも試験開始を通知済みですぞ」


「返信きました! ”始めていいよ~~!” とのことです」

 

「そうか、では始めるとするか――」


 老骨船達が、デュークを他所になにかを始め――


「「「分離(パージ)!」」」


 ゴギン! という音と共に老骨船達は一斉に結合を解除します。

 同時に彼らは、ガスを吹かして、デュークから少しずつ離れていきました。


「ふぇぇ?」


 デュークは、ただ一隻、宇宙に放り出されたのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ