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みんなで飛べば速くなる

「わーい。お外だ、お外だ!」


 デュークがネストの外に出るようになってから数日が経ちました。

 最初はこわごわとしていた彼も、大分慣れて、日時計山の周りやクレーターを飛びまわるようになっています。


「外にも大分慣れたようじゃな。ほいじゃそろそろ宇宙へ向かうかの」


 遊んでいたデュークに、「宇宙へ行くぞ」とオライオが告げました。


「え、ここは宇宙じゃないの?」

 

「そうともいえるがのぉ、宇宙と言ったらもっと上になるんじゃ」


 マザーの地表は龍骨の民にとってお庭のようなところ。

 正確にはまだ宇宙ではないと言うのです。


「さて、リニアカタパルトを使っても良いのじゃが、あれは龍骨を痛めるからのぉ。今日は重力スラスタを使ってゆっくりと上がるとするかの」


 龍骨の民が内蔵する重力スラスタは、重力を偏向させることで移動する力に変えている装置です。

 オライオは、それを使って、宇宙へ向かうというのです。


「そのためには、予備加速(助走)が必要なんじゃ。まずは、クレーターの外周に向かって、この曲線を描くようにして進むのじゃ」


 オライオは渦巻き型の曲線のデータを飛ばしました。


「加速が止まるまで飛び続けるのじゃ。ワシらは後から行くからの」


 デュークが周囲を見回すと、ゴルゴンをはじめとする老骨船がクレーンや推進器官を振り回して、準備体操を始めています。


「うん、わかったよ!」


 デュークが元気に飛び出してゆきました。


「さて、準備体操(暖機)が終わりましたぞ。そうだ、アーレイ。このあいだ痛めたところは大丈夫ですかな?」


「痛みはなくなったから、直ったようです。いつでもいけます」


 暖機を終えたアーレイとベッカリアがお互いのカラダをチェックしています。


「おや……なにを飲んでいるんじゃるゴルゴン?」


「一時的にカラダを強化する補強材を飲んでいるのだ。お前も、共生宇宙軍時代に飲んだことあるだろう?」


「疲労がポンっとなくなる戦闘薬かいな? 真面目そうなやつほど手を出すと危ない――ガタが来る前にお迎えがきてしまうのじゃ」


「人聞きの悪いセリフを吐くな! 

 装甲の隙間にフェノール樹脂を取り込んでいるだけだっ!」


 などといった会話の後、ゴルゴンが合図すると、彼らは整列して重力スラスタを吹かし始めたのです。


 その頃、デュークは順調な加速を続けていましたが、追いつくと言った老骨船達が来ないので、後ろを振り返りながら、舳先を傾げました。


「遅いなぁ。それに、どうやって追いつくつもりだろう?」


 速度はすでに秒速340メートル、時速にして約1200キロほどになっていました。


「あれ? 後ろから何かよくわからないシグナルが飛んでくるぞ」


 フネを見分けるためのシグナルが、デュークの後ろから飛んできました。でも、その識別信号はごちゃ混ぜで、船名がハッキリとしないのです。


「おじいちゃんたちの名前が混じってる……ふぇぇぇっ、なんだかスゴク速いぞ⁈」


 老骨船たちのシグナルが混じり合いながら、デュークに向かって速力を上げてくるのですが、どう見ても重力スラスタの限界を超えた性能で加速してくるのです。


「よっしゃ、追いついた――――!」


「ふぇっ⁈」


 オライオの声が聞こえた瞬間、クレーンがすぱりと伸びてきて、デュークはガシッと掴まれ、老骨船達がデュークのカラダを押し上げます。


「うわわわっ! 速度がグングン上がってく――!

 ど、どうしたら、こんなに鋭い加速ができるの⁈」


 重力スラスタの力は、時間当たりにするとそれほどのものではありません。

 重力加速度をそのまま推進力に変えているから、マザーの弱い重力――0.2Gではじっくりと加速をする他ないのです。


 でも、老骨船たちは、それを超越する加速度を示していました。


「重力スラスタの効率を上げるために、数隻が結合して推力を高める技法だ!

 数学的詐術を用いて重力遮蔽を行いしつつ、スラスタの効果範囲を拡大し、マザーの重力井戸の曲率調整を、いい感じに連動させ――

 ついでに、推進剤のヨッコラセと配分、縮退炉をガタピシ、電力をテキトーに分け合って、龍骨のバランスをヒョイと直せば、爆発的な加速を生むのだ! 

 高速機動戦闘では必須だから、覚えておくんだぞ!」


「ふぇっ?! 数学ってなに――そんな長い呪文みたいの、覚えきれないよぉ」


 加速には一家言ある高速輸送艦アーレイが長ったらしい蘊蓄を語ったので、デュークはパニックに陥りそうになりました。


「うーむ。ワシも軍の教育で習った気がするんじゃが。赤点だったから、覚えてないのじゃ! まぁ、気にするこたぁない。力を合わせればこのようなこともできると覚えておくのだぞい!」


 龍骨の民は、物理法則というものを龍骨で“なんとなく”感じる生き物です。

 細かい理論は苦手なので、感覚と気合で宇宙を飛ぶフネなのです。


「さて、デュークを中心に置いて隊形を固めるとしよう」


 ゴルゴンが指示を出すと老骨船達は分離して、デュークの上下左右につきました。


「お手を拝借」


 デュークの上を飛んでいるベッカリアがクレーンを伸ばしました。

 ゴルゴンは右舷、アーレイは左舷、オライオは下方からクレーンを伸ばします。


 ガコン――ガコン! とクレーンが、かみ合うと――

 5隻は一つのフネになるのです。


「接続完了じゃな」


「いけますぞ」


「準備万端!」

 

「よし、重力スラスタ、出力全開!」


 4隻の老骨船が重力スラスタに力を込めました。

 デュークもエイヤと掛け声を出してスラスタに力を込めます。


 するとこれまで以上の加速力が生まれました。

 速度はぐんぐん上がり、秒速1000メートルに近づきます。


「うわぁぁ――――凄い加速と速度だぁ!」


 デュークが驚いていると、徐々にクレーターの壁が迫ってきました。


「あ、壁が近づいてくる……このままじゃ、ぶつっちゃうっよ⁈」


「アーレイ、左舷に艦外障壁を展開」


「了解!」


 陣形の左側にいるアーレイが電磁波と重力波を用いた力場を展開しました。

 これは、フネのバリアのようなものであり、ビームや実体弾を防ぐだけでなく――


「――クレーターの端を、滑ることも、できるんだぞっ!」


 ドガン! と、アーレイのカラダが壁の手前ギリギリのところで止まりました。


「天然の滑走路にランディング――ってとこさ!」


「わぁぁぁ……すごいやっ!」


 こうなれば、時計回りに加速しながら、クレーターの外周に沿って加速し続けることが可能です。


「よし、さらに加速するぞ。デューク、もう少し重力スラスタを強くできるな」


「はーい」


 更なる加速を加えると、とうとう秒速1キロを超えました。

 5つの船影は日時計山を2分で回転する時計の秒針のようになったのです。


「最終加速! 上下の二隻は、少しだけ推進剤を吹かしてくれ」


「わかったのじゃ」

「わかりましたぞ」


 オライオとベッカリアの推進器官に火が入りました。

 縮退炉から発生した超高熱エネルギーが、微量の推進剤を爆発的なプラズマ流に変えると、速度がグンと上がります。


「ぐぅ……遠心力で壁に押しつけられる……ゴールはまだですか? ちょっとばかし力場の調子が悪くなってきました」


「もうちょっと我慢してくれアーレイ……2.3、2.4、2.5……」


 一番外側のアーレイは、壁に押し付けられて、時々火花をスパークさせています。呻きを上げるその姿を眺めながら、ゴルゴンが、速度を皆に伝えました。


「脱出速度に達した――次の切れ目で上がるぞ――――!」


 クレーターの壁の湾曲には、上方に向かった天然の射出口が有るのです。


「今だ、登れっ!」


「「「よいせっ――――!」」」


「うんしょ――――っ!」


 老骨船たちが同時に声をあげると、デュークもと元気な掛け声を出しました。


 フネたちはクレーターの端を越え、勢いよく上空へ飛び出て行ったのです。

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