旗艦先頭
「対艦ミサイル第一波、弾着……今!」
デューク達の放った一の矢が機械帝国の艦艇に飛び込みました。それらはカークライト提督が見抜いた艦列の弱点で次々に爆発します。
「敵軍対抗射撃、いまだありません。第二波弾着します!」
側方からの奇襲となったその攻撃は、機械帝国軍に大きな混乱を招き、対抗射撃の遅れた機械の軍隊はミサイルの第二波まで直撃を受け続けました。
「敵対空射撃管制レーダーを検知。迎撃が始まりました」
遅まきながらの迎撃態勢をとった機械帝国軍ですが、途切れなく飛来するミサイルの対処に追われることとなりました。
「重徹甲弾最終誘導開始……大型艦に命中!」
「敵軍、艦列乱れた」
ミサイルに続けて届いた加速が乗った弾丸が大型艦に飛び込み厚みのある装甲を軽々と食い破り艦内で炸裂します。本来であればレーザーによる迎撃が可能なものですが、泡を食った機械帝国軍は対処する事ができず、更に混乱を深めました。
司令部ユニットのスクリーンには大混乱に陥いり艦列に綻びを見せ始めた機械帝国の姿が映っています。軍帽の庇からギロリとした目でにらみつけたカークライト提督が、「ここと、あそこだ」と射撃ポイントを指示しました。
「放て」
すでに十分な射撃の諸元を得ていたデュークらは、側面を晒している敵に重レーザー砲の一斉射を浴びせました。艦外障壁を向ける余裕もない機械帝国軍の艦の装甲に強力なエネルギーを持つガンマ線レーザーがヒットすると、金属に浸透した高エネルギー電磁波が溶解と爆発を巻き起こします。
「敵第二列まで崩れました」
「よろしい。水雷戦隊は全速で突入」
艦列が乱れたことを認めたカークライトは、第一から第四までの水雷戦隊の投入を即座に決定しました。彼が選択したルートは敵軍の弱点となる箇所を見極めたもので、高速性に優れた艦艇が飛び込むと艦列の乱れは誰が見ても明らかなものとなるのです。
「結構あっけなく崩れますね」
「機械帝国の前衛部隊は、士気の低い辺境軍閥の部隊との報告があった。下々の兵までは完全に洗脳することはできないらしい。まぁ、ここまでは想定内だな」
カークライトは軍帽をかぶり直し、スクリーンに映っている機械帝国前衛部隊の配置を再確認し、隷下部隊の今後の行動について瞬時に判断を下します。
「よし、残った艦艇は陣形を再構築、旗艦先頭となれ」
「え、僕が先頭ですか?」
デュークは龍骨がヒヤリとするのを感じましたが、優れた船乗りであるカークライトが「大丈夫、自分を信じろ。君を信じる私を信じてもいいぞ」と諧謔に満ちた笑みを浮かべたのを見て、キュッと身を引き締めてから先頭に立ちました。
「私は左に付くわ」
「ほ~い。右は任せてね~~!」
ナワリンとペトラがデュークの後方につき、旗艦を護衛する部隊もスルスルと配置に付き始めます。その間、カークライトはデュークに向けて、これから行う作戦行動についてレクチャーを始めました。
「このポイントを目指すのだ」
「近くに、まとまっている部隊がいますけれど」
カークライトはデュークを先頭に立たせ、敵陣を斜に突っ切るコースを指示します。その先には、かなりの戦力を有する敵部隊の姿が見えていました。対艦ミサイル攻撃はすでに終わり、大型の艦艇を中心として陣形が再編成されつつあるのです。
「そうだ、あれを誘引する。指揮統制が一番残っている部隊だから、前衛部隊の中核になりかねん。逆に先に喰ってしまえば、混乱は継続的なものとなる」
数的劣勢にある共生宇宙軍が小惑星帯に向かうには、攻囲部隊が混乱し続ける必要がありました。カークライトは、救援にむかう進路を取りながら、敵軍の戦闘力をそれなりの間奪うために、中核となる部隊を叩く判断をしていたのです。
「それをやるための手立ては、すでに君の後ろにある」
デュークの左右後方では、ナワリンとペトラが主砲を旋回させながら追随してきます。さらに旗艦護衛部隊である第一および第二機動戦隊――選りすぐりの重戦闘部隊が艦列を並べ、旗艦を頂点にした鏃のような隊形が作られていました。
「艦隊ネットワーク、最適化完了しました」
オペレーターが告げると同意に、ネットワークを通じてデュークの龍骨に後続の艦から通信が入ってきます。
「戦艦プロゥヴンス、ブルタン、ロレール配置に着いた」
「砲艦ノブゴロドン射撃管制を旗艦に一致させる」
「装甲巡ミノタウロス、いつでも行けるぞ」
分艦隊の中でも特に重武装の艦から電波が届きました。彼らの火器管制はデュークの司令部ユニットに集中し、強力な砲撃体制が敷かれるのです。
「艦載母艦ゴッド・セイブ・ザ・クイーンズ直属部隊の力を貸してやる!」
艦母部隊から引き抜かれた重装艦達が、旗艦デューク・オブ・スノーの完全な指揮下に入ったことを示しました。彼らは打撃力に優れた巡洋艦部隊で構成されています。
「こちら戦艦ジャヴァオック艦長ドドソン――龍骨の民の少年よ、力が欲しいか? ならばくれてやろう――」
鏡面世界の住人とよばれる不確定生命体チェシャ族の艦長がニャゴニャゴとした猫撫で声で協力を約束しました。
「常在戦場ぉ、見敵必殺ぅ、疾風迅雷ぃ、不撓不屈ぅ、明鏡止水ぃ――喝っ!」
戦場神ドンファンブバイの僧侶が座乗する高速戦艦からは、有り難いお言葉が思念波となって響いてきます。
「|イアイアハスタール《星間宇宙帝王もご照覧あれ》! フングルヌゥ!」
名状し難い誓約により、人であることを止めた者の末裔たち――と自称しているタコ族が気勢を上げました。
「戦艦ナワリン――龍骨の民の力を見せてやるわ!」
「重巡洋艦ペトラ――どこまでも、ついて行くからね~~!」
デュークの両脇を支えるナワリン達は「「えいえい、お~~!」」と縮退炉の熱を高めています。
「うわぁ、凄い熱気だ」
「私が選びぬいた精鋭だからな」
カークライトは、寄せ集めの分艦隊の中から特に戦意に満ちた部隊を選抜し、この戦場に引き連れていたのです。
「その頂点に君がいるのだ」
「ふぇぇぇぇ」
分艦隊で最も戦闘力の高い部隊が、デュークを頂点として集中し、重戦闘艦で構成された鏃――いわば宇宙におけるパンツァーカイルの頂点に彼を押上げています。その事実がデュークの龍骨をブルブルと震わせ、司令部ユニットを揺らしました。
「武者震いだな……ふふふ、旗艦冥利につきるといったところか。よろしい、それでは始めようじゃないか――――旗艦デューク・オブ・スノーよ、重力波の声を掛けるのだ!」
「は、はい!」
提督に命じられたデュークは、重力波の声を用いて|ブォォォォォォォォォォン《我に続け》! と雄叫びを上げたのです。
◇デュークの航海日誌◇
目の前に敵がたくさんいました。
提督は「君が先頭だ」と言いました。
とても怖かったのだけど、みんなが応援してくれました。
よぉし、頑張るぞ――!
追伸
ハスターとか、旧支配者とか、よくわからないけど、
タコ族の人たち(人じゃないの?)、変なものを召喚しないでください。
本作は、こんな感じで超大型戦艦が突撃するSFなのです。