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ブドウ飲料

 船首の下に蝶ネクタイを締めたベッカリアが、テーブルの脇にたたずみ、こう尋ねます。


「飲み物はなににいたしますか?」


「”サン・フローラ・ラーレ”を頼む」


 それは惑星ラ・フェキスに住むビールドが作りだすものです。シェリー酒を発酵させ、蒸留するという面倒な手順を踏んで作られる名品でした。


「ほほぉ、ゴルゴン老はわかっておられる! 通ですな」


「ええい、そんな格好の良いものじゃなくて良い。”龍骨の分け前”を寄越せ!」


 オライオは、穀物を醸して蒸留させたアルコール度数45パーセントの強い蒸留酒を頼みました。注文を受けたベッカリアは、しばらくして、ボトルとグラスをいくつか持って帰ってきます。


「おまたせしました」


 船首の下に蝶ネクタイを付けてめかしこんだベッカリアは、手慣れた手付きでテーブルの上に飲み物を用意しました。まるでその姿は、熟練のウエイターのようです。


「似合うじゃないか、ベッカリア」


「現役時代は良くやったものです。船長姿で、デンと構えるのもいいのですがね。こういう事をするのも一種のサービスですからな」


 ベッカリアは、口元を上げて笑いました。彼は現役時代、数多の種族を乗せて宇宙を旅した巡航客船であり、その船長だったのです。


「さて、デュークには、こんなものを用意してあります」


 ベッカリアはデュークの前に、クリスタルガラスのグラスをコトリと置きました。でも、その中には何も入ってはいないのです。


「あれれ、何も入っていないよ?」


「ふっ、ちょっとした余興を見せてあげましょう」


 ベッカリアはクレーンをスルリと伸ばし指を広げて手の中を見せるのです。デュークの眼には、空の手しか見えません。そして、ベッカリアが笑みを浮かながらこう言います。


(から)の我が手がクルリと回る」


 クルッと彼の手が回転すると、指の間に丸い物体が一つ現れます。それは瑞々しい緑色をした植物の種でした。


「ふぇっ?」


 デュークは、巡航客船の手に突然現れたそれに驚きます。ベッカリアは球をグラスの中に落とし込んでから続けました。


「クルリクルリと回って現れる」


 手を二回転させると丸い物体が二つ現れました。ポカーンとしているデュークを他所(よそ)に、ベッカリアはさらに手を回転させます。


「クルリ、クルクル、三つと四つ。ほらほら――」


 ベッカリアの手が回るたびに、緑の種がコップに満ちていきました。


「ふぇぇぇぇぇっ⁈」


「これは手品というものでね。現役時代に覚えた技ですよ。緑の玉は種無しブドウです。これをこうします――」


 ベッカリアがグラスの縁をキュッとなぞると、キュワンと音が鳴って、中の柔らかい果肉がポコンと弾けました。


「ふぇぇっ、ブドウが水になったよ――!」


 デュークがグラスの中を眺めると、薄黄に色づいた液体から気体がシュワシュワと立ち上っていました。


「手品ではありますが、これは種も仕掛けもある確かな飲み物ですぞ。果汁に炭酸水を加えて作った炭酸ジュースなのです」


 そう言ったベッカリアは、全員に飲み物が行き渡ったことを確認し、「デュークのますます(益々)の成長を祝って乾杯といきましょう」と言うのです。


「うっしっし、久しぶりの酒じゃぁ!」


「お前、デュークの成長が嬉しいのか……酒が飲めるのが嬉しいのか……」


 オライオは久方ぶりのアルコールに嬉しそうな顔をするのです。


「くははは、どっちもじゃぁ! ほれ乾杯!」


 オライオは、実に嬉し気にグラスを傾け、他のフネ達も手にした飲み物を口にしました。


 そしてデュークも、初めての飲み物をチゥと吸い込みます。


「あ、甘酸っぱくて美味しい~~!」


 これまで感じたことのない初めての味が舌を刺激して、デュークのカラダがブルリと震えました。このようにして、龍骨というものは、新しい経験を得てますます成長するものなのです。

「手品~すごい、すごい! どうやるの?」

「種無し葡萄だけに、種も仕掛けもありませぬ」

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