執政官会議あるいはお茶会
共生知性体連合執政官達の完全コメディ回となります。
参加している執政官は、ネズミ(リス)、ウシ、フネ(龍)、ウマ(ケンタウロス型)、ヒツジ、サル(ゴリラ)、トリ(ペンギン)、イヌの8名。
デュークが艦隊旗艦に任じられた頃、共生知性体連合首都星系――その中枢たる執政官会議室では、連合内外の様々な問題について、執政官達が討議をしています。
「あとからあとから問題が出てくるな……」
メリノーシニア主席執政官が「めぇ……」とため息を漏らしました。執政官とは広大な連合全体を執政するのが仕事ですから、膨大な量の決定を日々行わなければならない激務でした。
「バウワウ――連合執政官は、全知性体の下僕ですから」
主席執政官補佐のバウワウは、その名の通りの鳴き声を上げ「ご主人さまに仕えるんだワン!」と冗談めいた口調で言うのです。法務担当の連合執政官である彼は、連合とその法に忠実な公僕として知られています。
「へっ、ご主人様か――――民衆と言うやつだな。クワッ! クワッ! 執政官の務めを果たさなければ、民衆に吊るされちまうんだぜ!」
クワッ! クワッ! クワッ! 飛べないトリの執政官が翼を首に当てながら「やめろ――! 余は皇帝なんだぞ――――! せめてギロチンにしろ――!」などと冗談を飛ばしました。なお、彼はフリッパード・エンペラ帝国の皇帝でもあります。
「スンスンスン、吊るされたら楽になれるかなぁ?」
げっ歯類の執政官ハムスが、机の上でクタッっと寝転びながら「疲れた――!」と言ってから、「吊るされてもいいから、もう冬眠させてよ……」と言いました。彼の種族は、冬眠することで長い寿命を得ることで知られています。
「もっちゃもっちゃもっちゃ、強制的に蘇生されて、また働けと言われるのが落ちですなァ」
反芻するウシの執政官ブルが、何事にも動じない鷹揚な姿勢でそう言い、「共生知性体連合執政官は、執政官であることを強制されているのですよ。ははは」と、真実を微妙に含むセリフを漏らしました。
「ウマじゃなくて、ロバに生まれればよかったかな?」
ウマの執政官チェンタウロス3世――は少し息切れをしています。財務担当である彼は、いつも予算のことで頭を回している雄馬でした。
「ふむ…………会議が弛れたな……少し休憩しよう」
私語が増え、会議の雰囲気が緩んだの感じた主席執政官メリノーシニアは、気分を変える為に休憩を告げます。
「お茶にしましょ!」
龍骨の民の執政官であるスノーウインドが、クレーンを掲げてパンパンと手を叩きました。
「失礼します」
すると、フリルのついた可愛らしい給仕の服装をしたまばゆい白銀の肌を持つ機械生命体が10数体ほど現れます。彼女たちは、連合中枢に入ることを許された数少ないスタッフであるリクトルヒでした。
彼女たちは、スノーウインドのメイドであり、執政官護衛であり、かつ執政官会議では秘書のような役割をもっています。お仕着せを着た彼女たちは、手慣れた手付きで、執政官の前にお茶のセットを置きました。合わせてお茶菓子も執政官ごとに配っていました。
そしてティーカップに向けてポットを傾けてお茶を注ぐのですが――
「メイドロボ……ブヒヒ」などと、ウマの執政官が、いやらしい笑いとともにメイドのお尻に手を伸ばしました。彼はかなり独特な性癖をもっているのです。
それを見た可愛らしいメイド型のリクトルヒは、白銀の相貌にとっても素敵な笑みを浮かべ――
「成敗っ!」
「ヒィィィン――!」
チェンタウロス3世の手を、実にいい角度で叩きました。すると雄馬は「お、折れてない? 折れてないのに――激痛がぁっ!」と、のたうつのです。
「またかよ、お前。学習しろよ。学習ぅ」
「純粋なウマじゃないんですよ、彼。シカとのハイブリットなんでしょ?」
「ええ、技術局のお墨付きです。お馬鹿というやつですなぁ」
トリとイヌとウシが、伝説の珍獣バカ――について言及しました。これはいつものお約束なのです。
「ハーブティーか、いい香りだ…………ほぉ……これはなかなか」
そんな共生知性体連合最高権力者の様子を他所に、お茶の香りを楽しんだ主席執政官はその味わいに息をつきました。彼の口の中には、爽やかでありつつ深みのある味わいが広がっています。
「惑星コンガンダの月洸草から抽出したムーンティーですわ。最高級の天然素材なのよ」
スノーウインド執政官は「一晩寝かすのがコツなんです」と説明しました。
「ぬぅ……これはありがたい……お薬を飲むのに丁度いい」
ごつい顔立ちをした執政官ゴリー公が、お薬が入った袋に手を伸ばしました。彼は常に薬を飲まないといけない持病をもっているのです。
「スンスンスン……これって苦いなぁ」
「草だしな。だけど、苦くて旨いと思うぜぇ」
「ヒヒィン! 草の味は故郷の味だ――ああ、君、おかわりを頼む――いてぇ!」
げっ歯類であるハムス執政官が、会議室の机の上に寝転がりながら、皿に注がれたお茶を飲んで顔をしかめました。トリの執政官は「まぁまぁだ」と評価します。おかわりを所望したバカがまた手を叩かれています。
「カフェイン入ってませんよね? 私達イヌって、カフェインが駄目なんですよ」
「月洸草に、カフェインは入ってないわよ」
主席執政官補佐であるバウワウ執政官が小首を傾げながらそう言うので、スノーウインドは「うん、大丈夫。やっぱり入ってないわ」と答えました。彼女の口は、高性能なセンサーでもあるのです。
「ずずず、ふむふむ、月洸草には疲労回復の効果があるそうですな。草の香りが強くて目が覚めます。もっちゃもっちゃ」
ウシの執政官ブルは、笑みを浮かべながらそう言いました。
「茶菓子はスノーウインドの手作りだな。ははは、これは面白い形をしているな」
メリノーシニアが、手元に置かれたお菓子――可愛らしいフネの形をしたクッキーを眺めます。
「ええ、腕によりを掛けて作りましたわ。極上の龍麦を臼でひいて、超空間のエーテルを濾した甘い塩と混ぜたもの。つなぎは極楽ラクダのミルクと恒星フェニックスの卵と……」
「ほぉ……さすが、レディータンヤンだ」
居並ぶ執政官の同僚達の前で、幻の料理人レディータンヤンと化したスノーウインドが、滔々とレシピを述べるのです。
「ぬぅ……砂糖が入っていないのか!」
クッキーは主席執政官が「ほぉ」と嘆息するほどの味でした。糖分が制限されているゴリー公も「ありがたい」と口にします。
「クワッ! こ、この味はっ?! 美味い! 美味い――ぞぉぉぉぉ――!」
「スンスンスン、あまーい! にがーい! あまーい!」
トリの皇帝が大仰に翼を広げて口からビームを出すかのごとく叫んでいます。ハムス執政官は、「苦っ……甘~~♪ 苦っ……甘~~♪」とお茶とお菓子を交互に口にしました。
「もっちゃもっちゃ……美味しいですなァ。ですが、不死鳥の卵って食べていいんですか? 禁制品だったような気が?」
「大丈夫です。合法であると私の六法全書にそう書いてあります。あれ? 書いてなかったかな? まぁ、違法であっても執政官権限で恩赦すれば良いのです」
ウシもその味に驚き、法務担当執政官はその権限を不正使用しようとしました。なお、フェニックスの卵は10年に一度の解禁期だったので問題ありません。
「ふふふ」
執政官達がティータイムを楽しむ様子を見て、スノーウインドが満足気に目を細めました。まるまるとした口元には優しい笑みが浮かんでもいます。
そんな時――
「奥様、失礼します。外部情報が届いています」
リクトルヒのメイドがツっと駆け寄り、スノーウインドの手元に厳重に封印された封書を置きました。
「うん? これは……」
龍骨の民の執政官は、渡された封書を見て、慌ててクレーンの先で開けます。その封書は、厳重にシールドされた執政官会議における、緊急時の連絡手段でした。
彼女は封書の中にはいっていた特殊なクリスタルで製作された情報デバイスを眺めてから、サッと口の中に放り込みます。すると、じんわりとした情報の渦が龍骨に飛び込むのです。
「ん……」
情報の内容を確かめたスノーウインドは、一瞬だけ目をつむり――このように呟きます。
「楽しいお茶会もおしまいねぇ……」
設定を忘れているかたもおられると思うので、執政官の紹介をします。
ネズミ:ハムス ネズミじゃないよ! リスだよ! スンスンスン。小動物で可愛い。諜報担当
ウシ:ブルさん 何事にも動じない、強い精神を持つ いつも反芻してる 技術担当
フネ:スノーウインド 幸運艦、連合英雄 またの名を幻の料理人レディータンヤン 軍総司令
ウマ:チェンタウルス三世 馬面のケンタウロス 変態紳士 財務担当(シカとの混合種)
ヒツジ:メリノーシニア メリノ―さんの父 一番偉い人 主席執政官
サル:ゴリー公 いつも眉間にシワを寄せている 持病持ち 外交担当
トリ:名称未定 飛べないトリの皇帝 美味いものを食べると口からビームが AI担当
イヌ:バウワウ モフモフかつ精悍さがあるイヌ人 忠実な公僕 主席執政官補佐兼法務担当
残りの4名は艦隊勤務中なので、ついてに艦隊の司令官の設定を以下
第一艦隊:イノシシの執政官
第二艦隊:ヘビの執政官
第三艦隊:ウサギの執政官 ラビッツ提督
第四艦隊:トラの執政官
第五艦隊:スノーウインド管理下で、主要12種族以外から選択される
近衛艦隊:執政府直属