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心構え

「司令部船および戦艦デュークとの結合作業完了しました」


 技術士官が結合を宣言するのと同時に、司令部船とデュークの間に電子ネットワークが確立しました。すると、デュークの龍骨の中に司令部の様子がありありと映ってくるのです。


「わぁ、司令部の様子が見えるぞ!」


 デュークは本体に意識を置きながらも、司令部ユニット――彼の臨時の艦橋となった場所に滞在することになりました。視点は、どうやらカークライト少将の右肩の上のあたりにあるようです。


「私が見えるかね? 君の仮想実体を私の近くに設定したのだが」


「はい、提督がすぐそこにいるようです!


 カークライトはデュークがいるらしいところを見つめながら、顎髭に包まれた口を開いて尋ねました。彼の目にも仮想実体としてのデュークが見えているのです。


「それに僕自身もよく見えます!」


 艦橋からは、デュークの白い巨体が見えています。ズバ――! 伸びた甲板には、ドカン! とした前方砲塔が二基並び、その先1キロほどに艦首が見えました。


「うむ、相当に大きな戦艦だな」


「あまり意識したことはないんですけれどねぇ」


「ふむ、艦橋が付いて、さらに体高が増したな」


「でも、これって、ちょっと重たいのですけれど……」


 デュークが背中に載せた艦橋が重いと言ったときです――


「司令部ユニット機関部より報告。重心バランス調整良し」


 ――機関部よりそのような報告がありました。


「よろしい――――デューク君、いま重心位置の調整が終わったから、重い司令部ユニットもそれほど苦にはならんだろう?」


「あ、ほんとだ、カラダが軽くなった気がします!」


 司令部ユニットが重心をわずかに変えると、それまでちょっと重い感じがしたカラダが軽くなるのが分かりました。


「あとは、全体の推力が問題になるが、全く問題ないはずだ。なんにせ、縮退炉が12個も有る実に贅沢なフネに、司令部ユニットの縮退炉が接続するのだ――」


 カークライトがそう言うと、「さらに機関部より報告。縮退炉の接続状況良好――これより旗艦全体の縮退炉の制御をデュークに渡します」という報告が届きます。


「君の持つ、多目的格納庫を通して、エネルギーをお互いに融通するようになったのだ」


「あ、ホントですね。エネルギーの容量が増えました! へぇぇ、エネルギー系って、他のフネともリンクできるんだぁ。なるほど、こうなるんだ――へぇぇぇ」


 情報の流れの他に、エネルギーの流れもリンクしてゆく中、デュークは司令部ユニットがカラダに馴染んでゆくのを感じています。


「ああ、今、僕は艦隊の真ん中にいるんだ…………」


 デュークは艦橋が馴染んでゆくとともに、司令部の状態がより一層詳細に伝わって、艦隊ネットワークの中枢に自分がいることに気づきました。


「ふぇぇぇ…………なんだか不安だなぁ……本当に僕が旗艦でいいのかなぁ」


 などと不安になってきたデュークが龍骨をプルプルとさせました。すると、デューク本体の動揺がわずかに艦橋にも伝わります。


「おいおい、戦艦は簡単に動揺しないものだぞ。大戦艦は動じない――デンと構え、 フネ《自分》らしくあれば良いのだ」


 デュークが動揺するのを感じたカークライトは、案じるように優しく諭しました。そして、何かに気付いたかのようにこう続けます。


「おお、そうだそうだ! 君は旗艦となったのだ――そうなったからには、臨時艦名を発令せねばな!」


 カークライト提督は大仰に両手を上げ、豊かな顎髭を揺らしながら、嬉しそうに「臨時艦名を決めるぞ!」と言いました。


「ふぇ……臨時艦名ってなんですか?」


「臨時艦名とは、旗艦としてのコードネームのことだ!」


 カークライトが言うには、デュークというのは知性体としての名前であり、共生宇宙軍軍令規則により旗艦として、それに相応しい通称をつける必要が有るというのです。


「希望は有るかね? 見栄えのする格好の良いやつがいいなァ!」


「ふぇっ?! 突然言われても――――」


 そのように告げられたデュークは龍骨を捻じりながら、「ええと、格好良い名前かぁ……」と名前を思い浮かべるのですが、なかなか出てきません。


「では私が考えてみよう! 本名はデューク、それに君の特徴は――凱々(がいがい)たる白雪の如き装甲――――」


 カークライトは、艦橋となった司令部ユニットから、デュークのもつ艶のある白い特殊装甲を眺めて、”凱々――あたり一面に積もりゆく、真白な雪”という意味を持つ言葉を口にしました。


 彼は形の整った太い眉を軽く寄せながら少しばかり考え込み――パチリ――と指を鳴らして、こう告げます。


「おおそうだ! ”デューク・オブ・ザ・スノー”というのはどうだろう――ニンゲン族の言葉の意味で言えば、”雪の公爵”という意味になる」


「デュ、デューク・オブ・ザ・スノー!」


 提督が名付けたコードネームに「わぁ……」とデュークは呟きました。


「それも、スノーウインド宇宙軍総司令官の一文字を貰った形だぞ!」


「あっ、そうですね。スノーウインド執政官のお名前が入るのかぁ」


 そこでカークライトはデュークの目を見て、口の端を上げながらこう言うのです。


「もしかしらたら、君の行く末はあの幸運艦と同じかもしれん。そうだぞ、あの連合英雄スノーウインドの一字を得たのだからな。そうだ、君は未来の宇宙軍総司令なのだ!」


 カークライトは、愉快そうにそう言いました。


「え、僕が宇宙軍総司令――――そんなことも考えたこともないですよ?!」


「いやいや、宇宙軍総司令に俺はなる! ほどに吹かしてもよいだろう! それ位の気構えがあれば、旗艦の任務など容易い容易い! はっはっは!」


 デュークに座乗する艦隊司令官が、満面の笑みを浮かべます。デュークはその言葉に、「気構えか――」と龍骨の中でまだちょっぴり悩むのですが――


「君ならなれる! なれるのだ! あっはっはっはっは!」


 ――提督は顔をクシャクシャにして、豪快に笑うのです。そして、「その様なフネに乗れる私も幸運だなァ!」と、道化めいた仕草すら見せるのです。


 そこでデュークは、カークライト提督が、精神的な意味で、自分の背中を押してくれているのに気づきました。


 提督――それは大変小さなニンゲンの人ですが、彼の笑みは、デュークの大きな龍骨にじわりじわりと自信を与えてくれるのです。


 デュークは「これは思念波の力? いや、違ぞ――これはただの言葉――なんて強い力をもっているんだろう!」と龍骨の中で思いました。


「これが指揮官というやつなのか――凄いなぁ――」とも感じるのです。


 そして数瞬の後――デュークは自分の龍骨にあった不安が消えていることに気づきます。


「あ……」


 艦隊旗艦の動揺が全く無くなったことを確かめたカークライト提督は、「ふっ」と軽く笑ってから、真顔に戻りこう告げます。


「よろしく頼むぞ、雪の公爵(デューク)殿」


 提督はサッと手を振り上げ、デュークに向かって敬礼をしました。そしてデュークは――


「はい! 僕、宇宙軍総司令になれるように頑張ります――――!」


 ――自分を真っ直ぐに見つめるカークライト提督に対して、龍骨をシャンと伸ばして、元気いっぱいに答礼したのです。

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