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第三艦隊戦略作戦室

「機械帝国の動きはどうなっているかな?」


「依然として大量の暗号通信が飛び交っています」


 デューク達が第三艦隊に向かっている頃――その根拠地にある戦略作戦司令室では、艦隊司令と彼の幕僚が額を突き合わせて、機械帝国の動向を探っていました。


「暗号通信かぁ。平文が混じっていれば、大混乱ということだけど。ちょっと違うようだね……」


 艦隊司令はは、ウサギ型の動物から進化した種族でした。もふもふとした体表を持つ二足歩行のカラダは、長い布に覆われています。


「ううむ……」


 唸りを上げたのは、第三艦隊司令ボーパル・ラビッツ提督でした。彼はふさふさとした長い耳をフリフリさせながら思案してから、これまたもふもふとした可愛らしい手をフリフリさせながら、こう尋ねます。


「通信の内容は分かる?」


「わかりません。かなり強度の高い量子暗号なので、解読には1週間はかかります」


 トラ顔の参謀が暗号解読はできないと答えました。ラビッツ提督は、種族的特徴であるずんぐりむっくりとした頭をかしげてから「それは仕方ないね」と言い、赤い眼をクリクリさせながら、別の幕僚に尋ねました。


「次元潜航した戦略偵察挺からの情報はどう? 辺境軍閥の艦隊の動きは変わらない?」


「数カ所で集結を始めています」


 獰猛な顔つきの猟犬のような参謀が、機械帝国の辺境軍閥の動静を報告しました。


「首魁が暗殺されたというのに、妙に統制が取れているね? ということはやはり…………それで、こちらの増援の集まり具合はどうなっているかな?」


 ポール・ラビッツ提督は、ヘビ顔の参謀に尋ねました。


「1万隻を超える艦艇が向かっているとの連絡がありました。まだ続行してくるとのことです。執政官会議で予備費の執行が認められましたとのこと」


「ああ、持つべきは、有能な同僚だぁ!」


 ラビッツ執政官は目を細めて「プゥ!」と満足げな鳴き声を上げました。彼はちょっと興奮すると、祖先から受け継いだ本能が騒ぐらしく、そのような声を上げるのです。


「ただ、既存部隊にこれ以上組み込むと、指揮能力の限界に達しますぞ。いくらかは別にして、予備隊を構築するほうがよろしいでしょう」


「ん、そうだね。取り急ぎ基幹部隊を出して、構築を始めて」


 ゴリラ顔の戦務幕僚が、第三艦隊の各部隊のキャパシティを超える戦力だと伝えると、ラビッツ提督は、長く伸びた白いヒゲをプルプルさせながら、即座に命令を下しました。


「指揮官はどうしますか? 集まる種族の種類は雑多なものになるので、調整能力に長けた者でないと……」


「それはそうだねぇ。ウチの艦隊から人を出すとして――誰か、見当はつくかな? あ、悪いけれど自薦はなしで」


 ウサギ顔の執政官は、「プップップー」と鼻を鳴らしながら尋ねました。


「第三艦隊内からは指揮官を出せません。部隊の増強に合わせて手が足りなくなっていますので。それから、アーネスト提督が辞めた穴が大きすぎます」


 鷹型のトリから進化した種族である人務参謀が、嘴をキュッとさせながら答えました。すると、ラビッツ提督は、口もとを「✕」の字に閉じて、悔しがります。


「そうだよなぁ、アーネストが抜けた分、艦隊の運用が面倒になったよなぁ」


 アーネスト提督は、不定形の知性体であるスライム族――男だか女だか分からない生命体でした。形のないカラダと同様、柔軟な対応ができると定評がある軍人です。ですが、間の悪いことに、提督は50年に一度の繁殖期に入り産休に入っていました。


「増援部隊の中に適当なのはいないの?」


 鼻をヒクヒクさせたラビッツ提督は、集まりつつある増援部隊の中から指揮官をやれそうなのはいないかと聞きました。


「艦隊指揮経験があって有能なもの……ううむ、大佐なら候補がいるのですが。駄目ですな、予備隊と言っても、5000隻近い部隊になるから、少なくとも准将――いや、少将クラスでないといけません」


「じゃぁ、近隣の種族からピックアップしたらどうだい?」


「あ、星系軍は準備行動が始まって、てんてこ舞いのようです……」


 ラビッツ提督は近場の星系軍から指揮官を選択できないかと言うのですが、スマートなシルエットを持った龍骨の民の総務参謀が、「そちらも無理でしょう」と答えました。


「そこで提案ですが、退役軍人の中から選択するというのはどうでしょう。なんらかの理由で早期退役した者で、軍から離れて数年ならば、現役復帰も可能ですから」


「そんな都合の良い人っているのかな?」


「ははは、総務参謀をなめないでください。ミサイルからブラジャーまで、なんでも揃えるのが仕事ですから」


 色男とあだ名されるフネの幕僚がコンソールを操作しました。すると、戦略作戦司令室のモニターにとある退役軍人のデータが投影されます。


「この人は?」


 モニターには頭髪を刈り上げ、豊かな顎髭をたくわえたヒューマノイドの姿が現れました。画像の下には略歴のデータが付されています。


「この間、第三艦隊軍管区に入った貨客船の船長です」


「貨客船の船長? 現役時代は……へぇ、随分若くして准将にまでなっているなぁ。種族はニンゲンか。主要種族どころか少数民族ってことは、実力だけで登りつめたってことだね。親の七光りな私とは大違いだな」


 ラビッツ提督は主要種族である白ウサギ族の若棟梁として、急逝した父親の代わりに執政官となった男でした。相当に有能な人物として定評があるのですが、若くして執政官となった自分のことを、いつも七光などと自嘲するのです。


「すぐれた船乗りで、種族的特性である思念技術を活かした指揮能力も高い人物です。戦意にも欠けるところがありません」


「戦意? そりゃぁ、ニンゲンだものねぇ……」


 ラビッツ提督は、フンフンフンと鼻を慣らしながら示された人物の経歴を隅々まで眺め「これはいいな」と呟きました。


「でもさ、なんでこんなのが早期退役しているんだい?」


「それが、数年前、家庭の事情で……」


「おっとっと! それは聞かないことにするね。で、現役復帰に問題はない?」


「一朝事あれば、とのただし書きで退役していますから、問題なく引き受けてくれるでしょう。それに――」


 タカの参謀が人務データを見ながら、事情を説明すれば引っ張れると言い、「報告によれば、なにやら最近も腕を振るったようですなぁ。勘は落ちていないようです」と続けました。


「よし、このひとでいこう」


 第三艦隊司令官宇宙軍大将にして、月ウサギ族の大棟梁――共生知性体連合執政官ラビッツは、ニマっと笑みを浮かべたのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、特攻野郎のフェイスマンのセリフが見れるとは思いませんでした(笑)今後、辺境野郎と絡みがあったら、嬉しいですぬ。
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