活動体、フネのミニチュア その1
ネストの天井から、ひとしずくの水が――ぽちゃん、ふわり、ぽちゃん……
音に導かれて白い肌の幼生体が近づいてきました。
「ふぇっ、冷たい!」
船首に水滴を受けたデュークがブルリと龍骨を震わせます。
「オライオじいちゃん。ここだよ、雨漏りを見つけたよ!」
「おお、デカしたぞデューク!」
デュークが示した雨漏り現場に、クレーンを伸ばした老骨船オライオが、指先で内部の空間を探り始めました。
「こりゃぁ根が深そうじゃなぁ……天井裏に潜り込むしかあるまいて」
「天井裏って?」
「この上に隙間があるんじゃよ。そこで水漏れしたパイプを直すんじゃ」
オライオはクレーンを使って10メートルくらいだと説明しました。
相当に大きな空間に感じるかもしれませんが――
「ふぇぇ、そんな狭い所に僕らは入れないよ?」
龍骨の民は超大型の海洋哺乳類よりもはるかに大きなカラダを持つ生き物であることを忘れてはいけません。
「たしかに、わしらの『今の』カラダではな」
デュークはこの時すでに250メートルを超えています。
オライオの平均的な龍骨の民でした。
「そんな時にはこれを使うのじゃ」
オライオは視覚素子のバイザーを静かに下ろししました。
すると、彼のカラダから力がスっと抜け落ちて、船体が床に横たわるのです。
「あれれ、寝ちゃったの?」
と、デュークが目を丸くすると同時に――
オライオの格納庫のハッチが開いて、中からスポッと何かが飛び出てきます。
「ふぇっ、なにこれ⁈」
デュークの鼻先を掠めてフワリと浮かんだのは1メートルほどの物体でした。
大きな視覚素子を調整してカシャリカシャリとズームさせると、小さなフネのような形がぼんやりと映ります。
「ち、小さなフネみたいだけど、これは一体何なの?」
「これは活動体といってな。ワシらのもうひとつのカラダなのじゃ」
曰く「活動体とは細かい作業に使ったり狭い場所にもぐったり、はたまた小さな異種族とコミュニケーションをとったりするときに使うフネのミニチュアなのじゃ」ということでした。
「どうやって動かしているの?」
「本体から思念波を発して、動かしておる」
「思念波?」
「うむ、気合とか根性――サイキックとも言われる波でな。センサでは感じられない、自分自身にしか扱えないものなのじゃ」
思念波とは普通のセンサでは感じることもできず、工学的に作り出すこともできない、知性体そのものが産み出す超自然的な力です。
「この波の性質は種族によって特徴が異なっておってな。ある種族は手を触れずとも物を動かしたりするが――ワシらは、活動体を動かすことに使っておる」
オライオのミニチュアは「おりゃ――!」と小さなクレーンや放熱板をブンブンブンと振り回したり、「ブーン!」といいながら空中を動き回りました。
「思念波は相当な距離を越えて届くからの。これを使って惑星に降下することもできるんじゃ。それから、他の種族とおしゃべりするのにも使ったりするのじゃ」
活動体のサイズは1メートル位ですから、標準的なサイズの他種族とのコミュニケーションには最適だったのです。
「成長すると、生えてくるんじゃが……」
「もしかして、口の中のこれ?」
オライオがデュークの口の中に潜りこみ――
「おお、あったぞあったぞ! では、お医者さまに診てもらうとしよう」
「はーい」
デュークはオライオに連れられ、ネストのお医者さんのところに向かうのでした。