大戦艦
恒星間勢力、共生知生体連合、その護り手である共生宇宙軍は――
「第1戦隊中央部に重ガンマ線レーザー砲撃が集中しているチュウッ!」
「第2戦隊、対艦弾道弾の直撃ッ! ベガトン級弾頭確認――こりゃあ相当ヤバいモォォッ!」
「第3戦隊、敵水雷戦隊の光子魚雷攻撃を受けつつあり。グルゥゥゥゥ……後方への旋回行動が阻止される公算大ッ」
とある星系にて大規模な防衛戦闘を行っていました。
後方に控える司令部では、ネズミやウシ、トラの幕僚たちが悲鳴のような報告を次々と上げています。
「続報ッ! 敵戦艦の数、圧倒的――損耗率、すでに10パーセントだピョン!」
「第2戦隊で弾道弾の直撃……シャァァァァァァッ! 戦隊旗艦サンダリウムが轟沈、統制が乱れる!?」
「押し出されている形になっている? ブヒィィィン!」
続けてウサギやヘビ人、ウマの幕僚が行った報告は、状況がかなり悪いものだと示していました。
「……各員、うろたえるな」
防衛艦隊の指揮を執るニンゲン族のジョン・ドゥ少将が厳しい表情で幕僚達を叱咤しました。
「第1戦隊には時間を稼げと伝えよ――精鋭の彼らならば持ちこたえられる。第2戦隊は次席指揮官に指揮権確立を急がせろ、第3戦隊は左旋回、生じた隙間には第4戦隊を手当ッ」
しかし――
「だめです、第1戦隊、戦艦部隊の3割を損失だメェェェェ!」
「むぅ、1戦隊まで押されるか……やはり数が多すぎる」
ヒツジ種の参謀から報告を受けたドゥ少将は顔をしかめるほかありません。
彼は可能な限りの手立てを使って、攻勢を食い止めているのですが、戦力差はいかんともしがたいのです。
その上――
「電子偵察艦より急報。敵後方にスターライン出現、数は1,000超――これは……!」
さらなる敵の増援が来るようです。
「副官、これで彼我戦力差はどうなったっ⁈」
「1:5です」
ドゥ少将の傍らに控えるアンドロイドのオペレッタが端的に答えました。
「外縁部での防衛線を維持できるか?」
「もって後10時間というところでしょう。無理をすれば追加で5時間はいけますが、それ以降は」
無機質で感情の乗らない声。
連合の機械知性は感情を持っているが、任務のために感情機能を――あえて抑制しているようです。
「組織的戦闘が可能な内の撤退をお勧めします」
相当に不利であり、このままでは消耗戦どころか、殲滅させられる可能性すらあるのですから、普通であれば撤退を開始すべき頃あいでした。
「…………それができないことは分かって、いるだろうに」
「はい、民間人の避難がまだ終わっておりません」
防衛線の後では、一般市民が現在も避難活動を継続中でした。
ドゥ少将は少しばかり目をつむり、しばらくしてから言いました。
「では、義務を果たすしかあるまいな。徹底抗戦だ――全部隊に死守命令を発令。指揮官直衛部隊も前線に出すぞ」
ジョン・ドゥ将軍は民間人脱出のため、自らを含めた共生宇宙軍を捨て駒とすることを決心したのです。
「我らの命で時間を稼ぐ、なんとしても食い止める」
共生宇宙軍は死を強要するような軍隊ではありませんが、護民を第一義とするという事であれば――
「ウキィィィィィ!」
「カァカァカァ!」
「ブヒィィィィィン!」
と、将兵たちは意気盛んな気勢を上げることとなるのです。
「皆、すまんな…………」
少将は深々と頭をさげました。
「では……全艦――――」
そして少将が、全艦全速の指示を出そうとした、その時です。
「閣下、お待ちください、星系外縁部左翼後方に不明なスターラインを観測――識別符号を確認中――これは味方艦です。入電、ワレ救援部隊とのこと」
「むっ、味方の援軍かっ」
その瞬間、ドゥ少将の心に「どこの部隊だ? 場合によっては」という一抹の希望が芽生えるのですが、オペレッタの無機質な声がそれを打ち消します。
「数は――100隻前後です」
「……近隣の星系駐屯部隊か、近傍の星系軍といったところか。……我々にかまわず民間人の保護に当たれ、と返信しろ」
少将は落胆を隠しきれず、ただこう告げるのです。
「1000隻規模の戦場に、たかだか100隻が加わったところで――戦況は動かん。無駄死にを増やすこともあるまい」
だけど、オペレッタは――
「閣下、そのメッセージは不要のようです」
「何を言っておる……」
ドゥ少将が訝しげに眉をひそめると、オペレッタが淡々と続けました。
「救援部隊の旗艦の識別符号をお確かめください」
「旗艦の識別符号だと……?」
それは艦船の所属や艦型をしめす宇宙船の名札の様なもの――
オペレッタに促された少将が救援部隊のそれを見つめると――
「なにぃ⁈ RIQS(レジスタロ・インテルジア・クオ・シンビオシス)だと……執政府直属のフネではないか!」
とんでもないコードが浮かんでいました。
それは共生知生体連合の精鋭――
「こ、近衛の艦隊が何故ここに……」
符号の先を眺めた少将は、目を丸くすることになります。
「なッ…………!」
少将は絶句しました。
「オペレッタ君! これは……本物か⁈」
「1024回、確認しました。
暗号基準を512回変えて再確認――それでも間違いありません。本物です」
オペレッタが断言しました。
声には、ほっとした安堵の色が浮かんでいます。
「……くはっ……信じられん……」
少将は、拳を、握りしめながら――
「来てくれた!」
と歓声を上げ――
「大戦艦が来てくれた……!
――『デューク』が、来てくれたッ!」
勝利をもたらすフネの名を、高らかに呼んだのです。
序章は、ここで幕を閉ざします。
次に語られるのは、銀河に名を刻んだ大戦艦――
その誕生の記録となるのです。