8話
オズワルドという商人は王都からカシャの街への移動中に襲われたらしい。街を目前に襲われるとは運が悪かったのだろう。
「では、この盗賊はどうしようか。ここで殺してもいいけど、これだけの実力なら賞金も出ているかもしれない」
ジョシュアは気絶したまま縄で縛られているラスティーを見て言う。
「そうだな……一度街へ連れて行こう」
ガイの提案に誰も反対はしなかった。
「街へ向かうのであればワシの馬車に乗っていくといい。多少狭いが歩くよりは楽だろう」
「うん、そうさせてもらうよ」
オズワルドの提案にジョシュアたちはにわかにうなずく。
「ではさっそく行こうじゃないか。日も暮れる頃合だ」
彼に従い、馬車に乗り込もうとする。だがその時、気絶していたはずのラスティーが起き上がり、レスリーの首筋にナイフを突きつける。
「レスリー!」
「おっと、それ以上近づくなよ。この嬢ちゃんの命が惜しければなぁ!」
思わず叫ぶと、ラスティーはそのナイフを食い込ませて威嚇する。
「ナイフをまだ隠し持っていたのか。すまない、レスリー」
ジョシュアたちは苦々しげにラスティーを睨みつける。
「形勢逆転だなぁ。ああ、そこの魔法使いは動くなよ。間違えてこいつを殺しちまうかも知れねぇ」
ラスティーは薄ら笑いを浮かべて挑発し始めた。それでも誰も動かなかった。
「レスリー、今助ける!」
じっとしていられずボロボロの剣を投げつける、この剣ならレスリーに当たっても大きな怪我にはならない筈だ。ラスティーは剣をナイフで剣を弾く。隙を見てジョシュアが舌打ちしながらラスティーを蹴り飛ばす。苦悶をあげ、ラスティーは転がった。
「くっそう、二度も同じ手にかかるとは……」
ラスティーは愚痴りながら立ち上がる。
「だが、自由になった!さらばだ!」
彼はそう叫んで走り去っていった。
「ジョシュア、追いかけるか?」
「いや、油断ならないやつだ。それに強い、やめておこう」
「……そうだな」
ガイは悔しそうにうなずく。一等位の彼等より強かった。そんな人がたくさんいるとは思えないが上には上がいるんだと印象付けられた。
「ありがとう。君のおかげで助かったよ。暗い人だと思ってたけど、ちょっとだけ見直した」
「たまたまだよ」
レスリーが笑って言う。彼女に褒められて悪い気はしなかった。
「大事無いようでよかった。また奴が来ないうちに行こうか」
オズワルドは安心したように告げる。
「そうだね。みんな、急ごう」
みんなそれに従って馬車に乗り、カシャの街へ帰る。
街に着くとオズワルドと別れて協会に向かう。その後で礼をしてくれると言うが断った。盗賊の相手をしたのはジョシュア達だったからだ。レスリーも同じ思いだったようだ。
協会ではジョシュア達が湿地のオークに関して報告する。
「うん。オークの数はおよそ30、その全てがまともな状態じゃなかった。他になにも変なところはなかったし、多数の人や生物がいた形跡もなかった」
「そうですか……オークが30体も……その数だけで相当な脅威なのに。それらが全滅とは。にわかには信じがたい話ですね」
ジョシュアの報告を受けているのはリリウムと言う名の協会職員。主に一等位の冒険者の対応を職務としている女性だ。
「ああ、それとラスティー・オーシャンと言う名の盗賊を知っているか?」
「いえ、聞いたことはないですが。それが?」
「商人がこの街の近くで襲われていて僕達で助けたんだけど、かなり強かった。もしかしたら特位の冒険者並みかも知れない。そいつがそう名乗ったんだ」
リリウムは表情が険しくなる。
「特位並?それほどの盗賊が無名とは考えがたいですね。嘘をついたのか、遠くからやってきたのか……いずれにせよ警戒する必要はあるようですね」
「ああ、よろしく頼む」
そして協会から報酬を受け取り。ジョシュアたちと別れることになる。
「ありがとう。君のおかげで大事にならずにすんだよ。あの時の君はいい判断だった」
「そうだな、お前がレスリーを助けたんだ。胸を張っていいぞ」
「また何かあったら頼むぜ」
少し恥ずかしかったけれど、笑顔で返す。その後、別れの言葉を告げて彼等はオズワルドの元に行った。
ふと、隣をみるとレスリーと目が合う。なんとなくだけれど、彼女と一緒に居たいと感じた。そう思うと同時に言葉が自然とあふれて来る。
「あのさ、嫌じゃなかったらでいいんだけど。パーティを組んでほしいんだ」
その言葉に、彼女は少し驚いたようだった。そして、悪戯っ子みたいに微笑んだ。
「いいね。私、そういうの嫌いじゃないよ」
月の光に照らされたその姿は、とても魅力的だった。