6話 冒険者たちは
オークの現れたという湿地は足元がぬかるんでいて歩く程に体力と精神力が削られてゆく。対象を見つけられないまま数時間の時が経っていた。
「そろそろ休憩しよか」
グループのリーダー、ジョシュアの言葉に誰もが緊張の糸を緩める。
「そうだな」
ガイも賛同した。
「じゃああの大きな岩の上で休もうか」
ジョシュアは少し離れた場所にある歪な形の岩を見て言った。その言葉に従って岩に向かう。しかし気がつくと異様な空気が漂ってきている。それは、岩に近づくほど大きくなっていく。
「なあ」
「うん……何か妙だ……」
ガイとジョシュアも違和を感じたようだった。
「調べてみよう、何かわかるかもしれない。君達は後ろからついてきて、もしなにかあったらすぐに逃げられるように」
そう言いながらゆっくり岩に接近していく。ここまで来て、ようやく気づく。岩に見えていたのは大量のオークの死骸。皆息を飲んだ。
「どーいうことだこりゃあ」
「数も状況も普通じゃあないぞ」
ケーブル、ゴードン兄弟が苦々しげに近づく。
「気をつけろ。まだ何か居るかもしれん」
ガイが二人を嗜め、ジョシュアを見つめた。
「うん、じゃあ僕とガイの2人で調べに行く。イアンたち3人はそこの2人とここで待ってて」
「……わかった」
ジョシュアとガイは死骸を調べに行く。
「オークってかなり強いはずだよね」
「うん、そうだね。僕たちでも1人で1体を相手にするのが精一杯だ。ましてや、あんな数……生きていたら僕たちはここで全滅していたかもしれない」
レスリーの疑問にイアンは答えた。
「イアンさん。でも、それを倒したやつがいるんですよね」
彼らでも難しいとすれば特位の冒険者の可能性もある。
「群れか、個か……後者だとしたら恐ろしい力の持ち主なんだろうね。話の通じる相手だといいけれど」
ここから見える限りではオークらしき死骸の他には何も見当たらない。覚悟を決めなければならないかもしれないと思った。
「大丈夫だ、隣には俺たちがついてるぜ!」
「ゴードンのいう通りさ。何があってもお前たち2人は守ってやる」
「ケーブルさんゴードンさん、カッコいい」
「惚れたか?」
「惚れました」
「本当に!?」
「冗談だってば。ありがとう、緊張が解けてきた」
レスリーは笑顔で言う。
「おう!」
兄弟は口を揃えて頷いた。
「おーい!ひとまず危険は無いようだ!」
ジョシュアの叫び声を聞き、そちらへ目を向ける。すると、彼の後ろにあったオークの死骸が動き出した。鈍い動きだが彼はまだ気づいていない。そして彼に襲いかかった。
「ジョシュア!」
ガイが間に入り斧槍で防ぐ。ジョシュアは舌打ちしながら腰の剣を引き抜き、オークの死骸を真っ二つに切り裂いた。オークが崩れ落ちる。上半身と下半身に別れ、地面に倒れ伏した。
しかし、ガイとジョシュアはまだ構えている。不思議に思って見ていると、オーガの上半身が再び動き出した。今度はガイに襲いかかる、しかし彼はそれを許さない。ガイは斧槍でその体を叩き潰した。
その死骸から血が溢れ出し、今度こそ動かなくなる。
「今のは……?」
そう呟くとジョシュアが教えてくれた。
「グールさ。他の動物の死骸を漁り、さらにその中に身を隠すことで死骸目的で近づいたやつも食い殺す。まさかこんなところで出くわすとは」
オーガの死骸を眺めると彼の言うとうり傷口からグールらしき生き物の皮膚がみえた。
「私、見たことある」
こいつらのせいで私の家族は、とレスリーは悲しそうな顔をして呟いていた。
湿地の端に移動し、今日はそこで野営をする。明日カシャの街に帰り、依頼の報告をすることになった。
「ごめんね、2人とも。本当なら数体のオークをバッサバッサと薙ぎ倒していろいろと採取して帰るつもりだったんだけどね。あの状態じゃちょっとね。依頼料自体は協会が保証してくれるはずだから」
そう、オークの死体は殆どが無残な姿になっていてその所持品もまたバラバラだったり損壊して使えるものはなかった。
「いえ、イアンさんに魔法をお教えてもらえる約束ができただけで幸運でした」
「私もちょっと楽してお金もらっちゃうみたいで、逆に申し訳ない気持ち」
レスリーの返事にジョシュアも苦笑する。
「おーい、みんな腹減ったぞ」
ケーブルは寝転がって唸っていた。
「了解、じゃあ急いで作るね」
そう言うとレスリーは夕食の支度を始める。自分もそれに追随して、手伝い始めた。