2話 滔々と
数時間後日が暮れる頃、1人の男がメイたちの家の前にいた。その男は背が高く髪も髭も伸び、あまり綺麗とは言えない格好をしていた。更に剣を腰につけ、その男の纏う空気は常人のものとは思えない。
一方ユースケたち4人は夕食を食べていた。
「やっぱり肉を食べなきゃ!肉が美味しいのよ」
メイは目を輝かせバクバクと食べ続ける。
「お姉ちゃんちゃんと野菜も食べないとダメよ、そんなんじゃ長生き出来ないんだから」
「そうだよ、1人で食べ尽くす気かい」
ナナとキャリーがメイを詰る。その時、キィと音を立て戸が開き、先ほどの男が立っていた。キャリーは顔を曇らせ、メイも一転剣呑な表情に変わる。ユースケはただならぬ空気に身を強張らせた。
男が口を開く。
「誰君?可愛いねぇ、ナナの彼氏?」
ユースケは状況がつかめない。
「あ、ただいま。これお土産ね」
ユースケは状況がつかめない。
「あれ?みんなどうしたの黙っちゃって」
ユースケは状況が…、キャリーが呟く。
「あなたの分の夕飯……無くなっちゃった」
「ええ!?」
男が驚く横でキャリーは忘れてたと呟いていた。ユースケはようやく理解する。
「あ、すいません。僕が食べちゃって」
「いやねぇ、ユースケは悪くないのよこのいつ帰ってくるかもわからないわ男が悪いのよ」
「そうね、パパったらいつもバラバラなんだもの」
メイに続きナナも野次る。
「娘たちよ、父親にそれは酷いんじゃないか!?それにナナの言い方だと死んでるみたいじゃないか!」
「あなたの部屋……無くなっちゃった」
「いやいや、部屋がなくなるってどんな状況だよ!泣くぞ!」
「さっきこれからはこの子が使うことにしたのよ」
「なんだとぉ!それはしょうがないなぁ!!と、それはさておき本当に君は誰なんだい?」
その男のテンションについていけずしどろもどろになりながらもユースケは答えた。
「えと、あの、ユースケ……だと思います……記憶がなくてですね。メイさんに拾ってもらったんです」
「仲間にしてあげようと思ってね」
「ふーむ、なるほどぉ。よし、いいだろう。記憶が戻るまで……いや、好きなだけ居るといい。この俺アンドリュー・ムースと我がムース家は君を歓迎する」
「誰もあなたの許可なんか求めてないわよぉ」
「妻が冷たい!」
「あらやだ死んだみたいな言い方しないでよ」
そのやりとりに思わずユースケは笑ってしまう、釣られてみんなも笑う。ユースケはこの家族なら馴染めそうな気がした。
「んで、これからのことなんだがユースケはどうするんだ?」
パイプを吸いながらアンドリューが言った。
「そうねぇ、ナナと同じぐらいの歳だろうし学校に通うのがいいんじゃない?あと臭うからやめてそれ」
キャリーは不快そうに答える。
「学校?」
「ええ、村の学校だから小さいけどね。私はもう卒業したから、ナナにいろいろ教えてもらうといいわ」
「私が?嫌よめんどくさい」
「それがいいわねぇ。明日、ナナが案内してあげなさい」
「えー、私も早くお姉ちゃんみたいに冒険者になりたいからこいつに構ってられないんだけど!」
「冒険者ってなんですか?」
「ああ、娘は協会と呼ばれる組合に入っててね、そこから依頼を受けてお金を稼いでるんだ。何でも屋みたいなもんさ」
「ちょっと、何でも屋なんていわないでよ。私パパより稼いでるんだからね!」
「耳が痛いな……」
話はそれていたが僕は学校にも冒険者にも興味を持った、メイさんと同じ道を行くのもいいかもしれないと思った。
「じゃあ、その、僕も学校に通いたいです」
「よしきた!手続きはしとくから行ってくるといい」
アンドリューはニカッと笑いながらそう言った。