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一週間の魔法  作者: 海水
4/7

四日目

「んー、朝だ」


 カーテンの隙間からは涼し気な日差しが見える。今日も晴れらしい。今日もクロは出ていくのかな?

 そのクロは胸元でグースカ寝てる。いい気な猫だ。 


「さーて、今日も一日頑張りますかね」


 布団をばっと剥いでカーテンを開ける。秋の爽やかな日差しが入り込む。今日も世界はキラキラだ。


「んー、今日もいい天気だ」


 今日のキラキラは、嫌じゃない。





「そこの窓は開いてるからね」

「承知した」

「喧嘩しないで逃げなさいね」

「勝てない喧嘩は良くないな」

「じゃ、行ってくるから」

「気を付けてな」


 今日も怪我しない様にクロの額に唇を落としておなじないだ。効いてるか知らないけど、気分の問題だ。

 クロは器用に手を振って見送ってくれた。

 今日はなんだかやる気が出る。杖に乗って秋晴れの空をカッ飛んでいく。





 気持ちよく風を切って飛べば、研究所まではすぐだ。


「とーちゃーく」


 足早に部屋へと急ぐ。今日は足が軽い。


「おはよーございーす」


 パパッと席につく。腕まくりしてやる気十分だ。


「お、今日のシーラちゃんはやる気だね」


 隣のアカネちゃんがにっこりしてる。

 今日のシーラさんはやる気ですよ!


「なんかねー、やる気が出てるのよねー」


 多分クロが帰って来たからだ。


「おや、恋人ですか?」

「猫ですけど?」


 二人で笑った。




「うーん、この魔法って、制限時間つきなのね」


 今日もランドの魔法を解析してる。段々分かってきた。変身の魔法なんだけど、ある期間しか魔法の効果がないんだ。その期間が来ると元に戻っちゃうみたいね。


「ランドって、まだ見つからないんだって。飼ってる黒猫も置き去りみたいなのよ」


 このランド失踪事件は、結構おおごとになっていて、とうとう懸賞金も付けられたら。攫われたとか、殺されたなんて、物騒な話も出始めた。まぁ、あたしには関係の無い話だ。


「黒猫ねえ。家の猫も黒いわね」

「恋人じゃなくて?」

「雌ですけど?」

「残念!」


 幸せオーラを光らせてるアカネちゃんは、思考もそっちに偏ってる。





 今日は定時であがるのだ。もしかしたらクロが待ってるかもしれないし、また喧嘩に負けて怪我をしてるかもしれないから。


「お先でーす」

「おつかれー」


 杖に腰掛けてボロアパートにまっしぐらだ。今日もお月様が夜空を照らしてくれてる。


「いーそーげー」


 魔女は夜空を滑空していくのだ。

 ボロアパートが見えたけど、明かりはついてない。


「今日はいないのかな。まぁ、猫だし、気ままだよね」


 気を取り直してボロアパートに降りた。鍵を開け中に入り明かりをつけると、クロが床に横たわっていた。ぐっしょり濡れていて、クシュンと、くしゃみをした。





「ちょっと、明かりくらいつけなさいよ!」


 明かりも付けないで寝ころんでるクロにぶーたれる。クロをタオルで拭こうかと思って触れば、凄い熱だ。


「お、おか、えり」

「クロ、熱が凄いよ!」

「川に、落ちてさ」

「何やってんのよ!」

「いやぁ、溺れるかと、思ったよ」


 ぐっしょり濡れたクロはガタガタ震えていた。秋空の空気の中で、濡れた身体で冷え切っちゃって寒いんだろう。


「まずは乾かさないと!」


 真っ先に魔法で濡れた毛を乾かす。身体を暖めようにも、猫舌のクロに暖かい飲み物は飲ませられない。暖房をつけても身体は温まらないだろう。


「仕方ないか」


 上着を脱いで、ズボンからシャツをだす。乾いたクロを抱き、服の中に入れる。クロの体が熱い。


「おい……」

「冷えた体を暖めるのは人肌が良いのよ!」


 あたしの胸元からひょっこりと顔をだし、猫の二人羽織の出来上がりだ。


「えっと、物を固定する魔法は……」

「『ギアナの紐』だ」

「……よく知ってるわね」

「土魔法の、基本だ」

「【ギアナの紐】」


 あたしが唱えた魔法で、クロの体はあたしに固定された。手を離しても、振り回しても落っこちない。これで一安心。


「暖かいでしょ?」

「……度々すまん」

「そーじゃなくて、こーゆー時はお礼、でしょ?」

「……ありがとう」

「よろしい!」


 胸元のクロの頭をナデナデしてあげる。クロはおとなしく暖められていた。





「どうして川に落ちたのよ」

「喧嘩は良くないと思って逃げていたら、橋の上で足が滑った」

「あんた猫でしょよ」

「……面目ない」

 

 二人羽織のまま、クロにぬるめのミルクを飲ませる。多分風邪なんだろうけど、猫の風邪の治し方なんて知らない。


「人間なら、寝てればその内熱も下がるんだろうけど」

「この体は、人間ではないからな……」


 クロは苦しそうだ。

 熱があるんじゃ苦しいよね。あたしだって風邪ひいたときは辛いもの。


「無理にしゃべらなくて良いのよ」


 クロの頭をナデナデする。気持ちいいのかゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


「やっぱり猫ね」


 クロの頭はお日様の匂いがした。





「今日は風呂はやめておこうね」


 風邪ひきに風呂は良くない。あたしだけ入ることにする。クロを布団において、毛布を掛ける。


「あたしが出てくるまで、じっとしてなさいね」


 クロが弱々しく手を上げた。

 湯船に入りながら考える。クロはさっき魔法の名前を言った。しかもあたしよりも早く、だ。魔法を知っている、という事は、元の飼い主が知っていたか、もしくは自身が知っているかだ。

 あまり考えたくはない事が頭をよぎるから、強引に思考から追い出す。


「なんでも良いけど、熱が下がるといいなー」


 知らない方が良い事もあるんだ、きっと。





 今日はクロをお腹の上に置いて、仰向けで寝る。人肌と毛布の保温でクロを包み込む作戦だ。


「クロ、寒くない?」

「うん大丈夫だ。暖かい」

「そう、よかった」


 クロの背中を撫でる。指に絡まる毛が気持ち良い。


「……シーラは、魔法使いでよかった事は、あるか?」


 お腹にいるクロから声がした。


「そーねー。空は飛べるし、怪我をしても治せるし、洗濯も楽ね」

「そうか……」

「あたし、魔法の適性が無かったら、落第生だもん」

「そうか……」


 クロの頭をくりくりと撫でる。


「小難しい事は、治ってから考えなさい」

「……わかった」


 クロの呼吸がゆっくりになった。


「おやすみ、クロ……」


 夜の帳は、静かに降りて来た。あたしの部屋にまで、静かに、静かに。





 また夢を見た。あの男は草原で、仰向けに手足を伸ばして寝ていた。空は良いんだろうか?

 でもぐっすりと、気持ちよさそうだ。起こすのは忍びないから、そっとしておく。

お読み頂き有難う御座います。

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