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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サンサーラ・サーガ

死刑囚は滅んだ列島で鬼と戯れる

作者: バオール

 窓を開けると、心地良い夜風が流れ込んできた。

 ここは五階だ。

 地上を眺めると、死者たちがこちらを見上げてきた。

 俺の内臓を食いたいと、眼が告げている。

 思わず生唾を飲んでしまった。

 俺が肉になるという想像――思わず焼肉を思い出してしまった。

 しばらく美味い肉を食っていなかった。

 俺が死者に支配された日本列島に来てから――電波時計を見る限りでは、半年が経過していた。

 死刑判決を受けてから、日常は劇的に変化した。

 身に覚えの無い罪で投獄され、考えたことも無い罰を受けている。

 二週間前に空から配給された乾パンを時間をかけて噛み、雨水を濾過して水を飲んだ。

 夜は死者の時間だ。

 本当ならこんな時間に動きたくないが、俺の位置は既に吸血鬼に掴まれていた。

 向かいの窓に向けて食器を投げつけた。

 台所の扉を外してきて、窓の外へ出して簡易の橋とした。

 発電機、洗脳装置、生活必需品を運んで、扉を下へと落とした。

 ぐちゃり、肉と骨が潰れる音がした。

 建物を縦断するように走り、鍵の空いた部屋を探して中へ入り、鍵をかけて便所に篭った。

 発電機を動かして、洗脳装置を動かした。

 ヘッドギアを装着して、俺は潜行した。

 ――無事でいてくれ。

 俺の魂。

 俺の女。

 土御門家に封印された陰陽術の粋を注ぎ込まれた――油機ゆはただ。

 日本古来の絵巻物、長谷雄草紙に書かれた鬼の術を再現したものだ。

 京都――朱雀門の鬼が女の死体の良い所を掻き集めて美女を作り上げた。

 俺は美女――油機を操り、吸血鬼と死者たちと闘い続けていた。

 半年の間に、何人もの死刑囚と出会った。

 ある者は狂い死に、ある者は油機の魅力に取り付かれ、ある者は食われ死んだ。

 誰かが生き残ったとは聞いた事が無かった。

 俺は仙道に伝わる呼吸法で心身を整えて、油機に接続した。

 開発中のVRを使い、俺は美女に同期した。

 周囲を確認――吸血鬼はいなかった。

 代わりにいるのは、製作途中の油機だった。

 半年に渡る闘争により、少しずつ集めた少女だった。

 さきほど発電機を外してしまったので、もうすぐ腐り果てるだろう。

 俺は股間から避妊具を外して、俺が放った体液を床にぶちまけた。

 高級な自慰の途中で死ぬところだった――警戒心で罠を多重に張っていて助かった。

 俺は服を着て、日本刀をベルトに差した。

 自動小銃を持ち、索敵を開始した。

 気配が無かった――もしかしたら俺の本体を狙っているのかも知れない。

 そう考えると恐ろしいが、下手に動けば場所を勘付かれてしまう。

 俺は一度部屋に戻り、油機を俺に合流させることにした。

 音がした。

 油機を起動させた部屋から音が聞こえた。

 男女が交合する吐き気のする音だ。

 自動小銃を構えながら部屋を除きこむと、吸血鬼が作成途中の少女を食らいつくしていた。

 引き鉄。

 連射。

 皮膚が壁にはりつき、肉塊が床を滑った。

 銃弾を撃ちつくした後に、手榴弾を投げ込み、一気に走った。

 背中の奥で爆発音が響き、硝子が灰のように霧散した。

 窓を破り、向かいの建物に移った。

 陰陽術の粋を籠めた油機を使われた――。

 あの吸血鬼は左道密教の房中術を使っていた。

 精を放つのではなく、女の精を体内へと取り込む術だ。

 手榴弾ごときでは命を絶つことはできないだろう。

 俺は俺の本体を担ぎ、発電機と洗脳機を持って逃走した。

 あの吸血鬼には何人もの仲間が殺されていた。

 先ほどの房中術を油機に対して行い、何度も何度も自身を強化していたのだろう。

 だが、あの吸血鬼は吸血鬼と言っていいのだろうか。

 外法により吸血鬼になり、また別の外法を重ねた。

 それは吸血鬼と呼べるのだろうか。

 俺は陽が出るのを待った。

 陽さえ出れば吸血鬼の世界では無くなる。

 脳の疲労がピークに達する頃に、太陽は昇った。

 ずっと後ろから聞こえていた音も聞こえなくなった。

 膝をつき、俺は油機を操作するのを止めた。

 俺の顎に痛みが走った。

 初めて生の眼で見る――吸血鬼だった。

 いや、それは吸血鬼ですら無かった――遥かに進化した怪物だった。

 そして、俺は死んだ。

 血を吸い尽くされて、干乾びて死んだのだ。

 俺は俺の死を油機の眼で見た。

 死の間際に、俺は洗脳装置を使わずに、死の痛みから逃れたのだ。

 俺の魂は油機の中に入ってしまった。

 だが、洗脳装置を使わなかったので、俺は見ることしかできなかった。

 指先一つ動かすことが出来なかった。

 吸血鬼は俺の油機に房中術を使って、さらなる化物となった。

 俺はされるがままだった。

 そして誰もいなくなった。

 三年が経過した。

 俺の油機は眼球だけになった。

 それ以外は食われてしまった。

 周りの建物は風化した。

 目の前には、紫陽花が咲いている。

 水晶体は潰えることが無かった。

 今でも俺は、季節の移り変わりを眺めている。

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