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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

サンサーラ・サーガ

死刑囚は滅んだ列島で鬼と戯れる

作者: バオール
掲載日:2016/06/26

 窓を開けると、心地良い夜風が流れ込んできた。

 ここは五階だ。

 地上を眺めると、死者たちがこちらを見上げてきた。

 俺の内臓を食いたいと、眼が告げている。

 思わず生唾を飲んでしまった。

 俺が肉になるという想像――思わず焼肉を思い出してしまった。

 しばらく美味い肉を食っていなかった。

 俺が死者に支配された日本列島に来てから――電波時計を見る限りでは、半年が経過していた。

 死刑判決を受けてから、日常は劇的に変化した。

 身に覚えの無い罪で投獄され、考えたことも無い罰を受けている。

 二週間前に空から配給された乾パンを時間をかけて噛み、雨水を濾過して水を飲んだ。

 夜は死者の時間だ。

 本当ならこんな時間に動きたくないが、俺の位置は既に吸血鬼に掴まれていた。

 向かいの窓に向けて食器を投げつけた。

 台所の扉を外してきて、窓の外へ出して簡易の橋とした。

 発電機、洗脳装置、生活必需品を運んで、扉を下へと落とした。

 ぐちゃり、肉と骨が潰れる音がした。

 建物を縦断するように走り、鍵の空いた部屋を探して中へ入り、鍵をかけて便所に篭った。

 発電機を動かして、洗脳装置を動かした。

 ヘッドギアを装着して、俺は潜行した。

 ――無事でいてくれ。

 俺の魂。

 俺の女。

 土御門家に封印された陰陽術の粋を注ぎ込まれた――油機ゆはただ。

 日本古来の絵巻物、長谷雄草紙に書かれた鬼の術を再現したものだ。

 京都――朱雀門の鬼が女の死体の良い所を掻き集めて美女を作り上げた。

 俺は美女――油機を操り、吸血鬼と死者たちと闘い続けていた。

 半年の間に、何人もの死刑囚と出会った。

 ある者は狂い死に、ある者は油機の魅力に取り付かれ、ある者は食われ死んだ。

 誰かが生き残ったとは聞いた事が無かった。

 俺は仙道に伝わる呼吸法で心身を整えて、油機に接続した。

 開発中のVRを使い、俺は美女に同期した。

 周囲を確認――吸血鬼はいなかった。

 代わりにいるのは、製作途中の油機だった。

 半年に渡る闘争により、少しずつ集めた少女だった。

 さきほど発電機を外してしまったので、もうすぐ腐り果てるだろう。

 俺は股間から避妊具を外して、俺が放った体液を床にぶちまけた。

 高級な自慰の途中で死ぬところだった――警戒心で罠を多重に張っていて助かった。

 俺は服を着て、日本刀をベルトに差した。

 自動小銃を持ち、索敵を開始した。

 気配が無かった――もしかしたら俺の本体を狙っているのかも知れない。

 そう考えると恐ろしいが、下手に動けば場所を勘付かれてしまう。

 俺は一度部屋に戻り、油機を俺に合流させることにした。

 音がした。

 油機を起動させた部屋から音が聞こえた。

 男女が交合する吐き気のする音だ。

 自動小銃を構えながら部屋を除きこむと、吸血鬼が作成途中の少女を食らいつくしていた。

 引き鉄。

 連射。

 皮膚が壁にはりつき、肉塊が床を滑った。

 銃弾を撃ちつくした後に、手榴弾を投げ込み、一気に走った。

 背中の奥で爆発音が響き、硝子が灰のように霧散した。

 窓を破り、向かいの建物に移った。

 陰陽術の粋を籠めた油機を使われた――。

 あの吸血鬼は左道密教の房中術を使っていた。

 精を放つのではなく、女の精を体内へと取り込む術だ。

 手榴弾ごときでは命を絶つことはできないだろう。

 俺は俺の本体を担ぎ、発電機と洗脳機を持って逃走した。

 あの吸血鬼には何人もの仲間が殺されていた。

 先ほどの房中術を油機に対して行い、何度も何度も自身を強化していたのだろう。

 だが、あの吸血鬼は吸血鬼と言っていいのだろうか。

 外法により吸血鬼になり、また別の外法を重ねた。

 それは吸血鬼と呼べるのだろうか。

 俺は陽が出るのを待った。

 陽さえ出れば吸血鬼の世界では無くなる。

 脳の疲労がピークに達する頃に、太陽は昇った。

 ずっと後ろから聞こえていた音も聞こえなくなった。

 膝をつき、俺は油機を操作するのを止めた。

 俺の顎に痛みが走った。

 初めて生の眼で見る――吸血鬼だった。

 いや、それは吸血鬼ですら無かった――遥かに進化した怪物だった。

 そして、俺は死んだ。

 血を吸い尽くされて、干乾びて死んだのだ。

 俺は俺の死を油機の眼で見た。

 死の間際に、俺は洗脳装置を使わずに、死の痛みから逃れたのだ。

 俺の魂は油機の中に入ってしまった。

 だが、洗脳装置を使わなかったので、俺は見ることしかできなかった。

 指先一つ動かすことが出来なかった。

 吸血鬼は俺の油機に房中術を使って、さらなる化物となった。

 俺はされるがままだった。

 そして誰もいなくなった。

 三年が経過した。

 俺の油機は眼球だけになった。

 それ以外は食われてしまった。

 周りの建物は風化した。

 目の前には、紫陽花が咲いている。

 水晶体は潰えることが無かった。

 今でも俺は、季節の移り変わりを眺めている。

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