3.貴方何処から来たの?【8/6】
「大丈夫?」
金髪さんが声をかけてくれたが目の前の脳の処理が追いつかない、もう一生分は驚いたのではないだろうか。
とりあえず大丈夫と言葉を出そうとすると首に軽い痛みが走った。
「っ…」
「あら、首が少し切れてるわね…ミラがあの男飛ばした時ね、あまり薄く切っただけみたいだから安心して」
「ぁ…はい、ありがとうございます」
「もう大丈夫、大丈夫だからね、そんなに震えなくていいの」
金髪さんはボクを抱きしめる、豊満な胸に包まれながらボクはとても震えていた事を自覚した。
安心と同時に先程腕を切られた男が視界に入った。
(血がかなり出てる…)
無意識だった、気がついたら男の下に歩み寄り男の着ていたボクのTシャツを破き腕を止血していた。
「何をしている?」
「え?…あ、この人このままだと死んじゃうよ?」
「は?その汚物はさっきまでお前を人質にしていた奴だぞ?しかも殺されたかもしれない」
「そう言われるとなんでだろ?人が目の前で死ぬのは嫌だからかな…だとおもう」
「………変なやつだな、そいつは当分気がつかないだろうから好きにしろ」
黒髪さんはそう言って他の盗賊を縛りに行った。
盗賊の止血が終わった頃には他の女性達も皆意識を取り戻し男達も一箇所に固められていた
―――コトンッ
手当していた盗賊から何かが落ちた。
(コレ、ボクのスマホだ…)
手にとったスマホはとても使える状態ではなかった、画面の部分には斜めに深い溝ができておりガラス部分はヒビで埋まっていた。
試しに電源ボタンを押してみる…起動すらしなかった。
「なんだそれは?」
「コレはボクの持ってたスマホです、コレがこの人がすぐに起きた原因みたいですね…」
「…ふむ、なるほど」
やっぱり黒髪さんも不思議に思ってたらしい、スマホを見て納得してくれた。
「そういえばレンちゃんの服は?貴方の服らしきものは小屋の中にないみたいなんだけど?」
金髪さんが来たら服について尋ねられた、見つかるはずもないこの男が着ているやつなのだから
「あの、ボクが着ていた服はその男が着ているやつです…」
「え!?」
「あ、でもYシャツだけは着てないみたいなので多分どこかにあると思うので探してみます。
そういえば机の上に懐中時計もあったな…あったあった、よかったー」
お気に入りの懐中時計だったので壊れてなくてよかった。
スマホが使えなくなったし男の着てたボクの服も着れなくなったけど全部失ったわけじゃなくてよかった本当に。
隣の部屋に行くとYシャツと財布はすぐに見つかった、他の持ち物はどこにあるかわからない。
金髪さんに声をかけられたので事情を説明する、すぐに「紙は価値のあるもの」ということで別のところにあるだろうと教えてくれた。
でももう探す気力もなかったので諦める事にして今度は完全に裸Yシャツになってしまった、下着もない。
なんでYシャツだけ着なかったんだろうと思ったが着る時気付いた、一番下のボタンが取れていたので多分そのまま着ようとして外れたのだと思う、価値が下がると思ったのか着るのを諦めたんだろう。
身支度を終えて大部屋に戻るとリィナが母親に抱きついていた。
「おかあさん、おかあさん―――」
震えながらひたすら母親にすがっている、よっぽど怖かったのだろう。
リィナの母親はそんなリィナを慈しむように頭を優しく撫でてあげていた。
「羨ましい?」
リィナ達親子を眺めていると金髪さんが声をかけてきた。
「いえ、羨ましいというわけでは…なんか優しい光景だなと」
「ふふっ、レンちゃんは不思議な事言うのね」
「へ?そうでしょうか?」
「貴方くらいの年頃ならね。
もうすぐ村の男達がくるはずだからもうちょっとココで我慢してね」
「そういえば男の人はどうしたんですか?」
「…近くに大物の魔物が出て村の元気な若い男達は皆出払っていたの、私たちは偶々村で宿を借りていたらこんな事になったの」
「へ?魔物!?」(魔物ってなんだ?動物とかじゃなく?そんなの神話や空想世界の産物じゃないの?)
「そう魔物、それをまるで狙ったかのように盗賊達が襲ってきてこうなっちゃったの、でもまぁ詳しい尋問は村の方々に任せる事にしましょう」
しばらく色々と話した。
まず現在地だけど近くの女の人達が住んでいる村はサイラスと言うらしい、そしてこの場所はそのサイラスに向かう森の道の途中にある休憩するための小屋らしい。
リィナの名前でもなんとなく気づいていたがやっぱりココは日本じゃないらしい、言葉が通じてるのが不思議だがそれはもう少し落ち着いてから考える事にする。
ボクの事も聞かれた。
いきなり見知らぬ土地に居たとか言っても信じてもらえないと思って森についてから男達に捕まるまでの事を話した。
男達はやはり盗賊…というか山賊で最近この小屋に居着いたらしい、最初からサイラス村を襲うつもりだったのだろう。
村を襲った男達は殺しはしていないが村に居た住人たちに暴行や金目の物を略奪し女達は奴隷として売るつもりだったという、男の言ってた”良い引き取り手”というのは恐らく奴隷商の事だろう、もう少しで奴隷になるところだったと知ったら背筋がゾクっとして助かった事に安堵した。
そして少し落ち着いた頃サイラスの男達が来てボクも一緒に村に行くことになった。
リィナの両親の好意でボクを泊めてくれるそうだ、とても助かる。
靴も無いのでリィナの父親におぶされて小屋を去った。
不安等で今まで張り詰めていた気が緩んだのか村に着く前にボクは眠りに落ちた。
鳥のさえずりが聞こえる、差し込む朝日に促されボクは目を覚ました。
そこはまた見知らぬ天井だったが今度は普通にベッドの上だった。
「…ここは…?あ、そうかあの後寝ちゃったんだ…」
あたりをキョロキョロと見回す、現代日本で生まれ育ったボク感覚だからか殺風景な部屋に見えた。
裸足で歩いてたせいか足が痛い。
(足、汚れている様子はない…拭いてくれたのかな?)
目も覚めたので部屋の外に出る、階段を下りると話し声が聞こえたのでその部屋に入るとリィナの母親と金髪さんが談笑していた。
「あら?起きたのね、おはよう良く眠れた?」
「…あ、はいお早う御座います。昨夜はありがとうございました。」
リィナの母親が声をかけてくれたので挨拶とお礼を言う。
「もう少しで朝食ができるからもう少しまっててね」
そう言ってリィナの母親は台所に戻っていきその場にはボクと金髪さんが残った。
「おはよう、良く眠れた?」
「お早う御座います、昨日は有難うございました助かりました」
「そういえば自己紹介がまだだったわね私はユーミル、ユーミル・エストラダよ、ユミィって呼んでねよろしく」
「あ、レンです、レン・ユウキですよろしくお願いします」
つい名前と苗字を入れ替えてしまった。
金髪さん改ユミィさんは特に気にした様子もなく話を続けた。
「ねぇ、レンちゃん貴方に聞きたい事が少しあるの」
「…?はい、なんでしょう?」
「単刀直入に聞くわね、貴方何処から来たの?」
「え?…えっと…日本という国の東京って所です」
「ニホン…?トウキョウ…?聞いたこと無いわね…やっぱり導かれた者かな…」
ユミィさんが考え込んでしまった、導かれた者って何だろう?
「貴方この世界の住人じゃないんでしょう」
「え…?」
「貴方が着ていた服の質、持っていた物、聞いたこともない国や町の名前、間違い無いと思うんだけど?」
「え…えっ?」
混乱した、こんな突拍子もない状況をいきなり当てられた、自分でも信じられないのに。
「はい、昨日いきなり…小屋で聞いた話とか考えると恐らくココはボクが知ってる世界では無いとおもいます」
「やっぱりね…、ねぇレンちゃんミラが…昨日の黒髪のコね、ミラが帰ってきたら貴方についてきてもらいたい所があるんだけどいいかな?」
「はい、いいです「あーレンちゃんだーおはっよー」」
そこまで話した所でリィナちゃんが起きてきた。
ユミィさんは「じゃあまた後でね」と言って部屋を出ていった。
朝食が出来るまでの残りの時間はリィナちゃんとお話して過ごした。
ユミィ 「レンちゃん、昨日の今日でまだ混乱しているみたいね可哀想に…」
渋い男の声 『なら昨夜みたいに抱きしめてやればいいだろう?その豊満な胸に埋めて』
ユミィ 「…よし、やっぱり捨てよう!」
渋い男の声 『あっ、待て、悪かった、謝る、このとーり』
ユミィ 「はぁ…、とりあえずミラが戻ったらあの場所に連れて行かないとね…」
渋い男の声 『ほっ…』