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酒に飲まれた恋心  作者: 月帆
本編
2/22

私の敵

自堕落な週末を満喫した後、いつものように月曜日はやってきた。

金曜日、弁護士会の会合に付き合わされ、食事に付き合った先輩が申し訳なさそうな表情で近づいてくる。

そう、食事先で頼んだジュースと酒を交換した北川清司だ。

長身なのに威圧感を感じさせない身のこなし、きちんとスーツを着込んでいるのに、洒落っ気を感じさせる雰囲気に男性らしさを損なわない程度に優しく整った顔立ち。職業は私と同じ検察官、コンパで言うなら人気、お買い得品だ。


「昨日は先に帰っちゃうからびっくりしたよ。

ちょっとおふざけがすぎたね、ごめんね」

甘いマスクでふざけたことをいう。

お前のおふざけのせいで、私は見知らぬ男を襲ったんだぞ。

と、叫びたいが、そんなことをすれば身の破滅が起こることがわかっているため言わないがっ。


あの金曜日ー

弁護士会の集まりに挨拶面倒な仕事のあと、先輩が食事に誘ってきた。

職場では、入職時から割りと誘われることが多いが、職場で差し入れをもらうことはあっても食事とかはいつも断っていた。仕事が終わってからまで束縛されたくないから。次第に周りの人間も誘ってもこないことを理解したのかお誘いも減っていったが、この北川先輩だけは定期的に誘ってきていた。

迷惑だが、面倒見のいい先輩だ。


こんな滅多に食事に誘われてもいかない私が誘いに乗ったのは、極度に腹がすいていたのと肉に目が眩んだからだ。先輩の提示した店は美味しいが、一人焼肉は食える私でも一人で入るのは躊躇われるお店だったのだ。

肉に目が眩んだ自分が情けない。


とりあえず先輩には無言でにらみた押し、雑用がくれば先輩にまわす。

よほど睨みがこたえたのか、文句も言わずに仕事をしてくれる。こういう時有能な人間は助かる。面白いように仕事がはかどって行く。

こうして平穏は戻った。


「なぁ、お詫びに奢らせてよ」

何度も先輩は謝る。ただほど怖いものがないということを知っている私は先輩の言うことを無視する。仕事以外は言葉を交わさないように、鉄壁の才色兼備の自分の容貌を生かす。


がん無視。


「ちょっと遊び心でジュースとカクテル取り替えただけじゃん。

飲む前にいうつもりが…仕事の電話で食事に帰ってきたら、おかわり頼んでるんだもん。

で、大丈夫かと思ったら下戸だっていてたわりに強いし。いきなり「酒ですね」っていって帰るんだもん。俺だって心配したんだぞ」

何度も聞く説明。

懺悔のつもりか。

懺悔になっていないぞ。


そう、一杯目のジュースとおもっていたカクテルが美味しくておかわりしてしまった私。


何杯目かで理性が目を覚ました「これは酒だ、ヤバイ」と。

おそらくその時点で酔っていたのだろう。先輩が帰ってくるまで飲み続け、先輩の前ではしらふっぽい態度でやり過ごした私はほめてもらっていい存在だ。

だが、こんな褒めてもらっていい存在がなぜ気がついた時点で飲むのをやめなかったのか、酒は人をかえる。なーんてね、テヘッ…似合わないな。


「この書類もお願いします。私昼休憩に入ってきます。」


これが傷ついた私の答えだ。私が優雅に昼休憩に入っている間先輩は雑用書類と戯れるがいい。

とりあえず先輩をにらみ部屋を出ようと扉をあけると大きな壁に衝突していた。


当たるならもっといいものに当たりたい。扉の向こうのあるはずのない壁を見つめると、そこにはスーツが目に入る。壁かと思った硬いものはどうやら男の胸板だったらしい、口紅がシャツにつかなかったことに安堵する。

本当に、この先輩といるとろくなことがない。こんな先輩にかかわる私の男運のなさに失笑する。


私の男運はザンネンだ。

昔から無駄に色目を使われたり…


私の初恋は私を落とせるか賭けた男。


大学の時は夢見る芸術家きどり。


就職後は気がつかないうちに不倫…など男遍歴は凄まじい。


けれど、どれも3ヶ月は持たない。

押しに弱くいつも好きと押されれば承諾するが、私から連絡はとらない。なぜなら面倒臭いから。

だいたい付き合い出しても、あのクソ汚い部屋にいれたくないため部屋に入れないだけで「距離を感じると」勝手に相手が言い出し勝手に諦める。


不本意にも過去の男を思い出した。


なにがいいたいかというと、こんな私の経験からは先輩は最高の男前だ。


が、男前すぎてときめかず防衛本能がやつはテキだと叫ぶ。

そして、先輩の遊び心にはまった私は、こいつはやはりテキだったと認識した。


世の中、信じられるのはお金だ。


……いいとこのお嬢様の私の本音を知ればみんなひくだろうな。

ちょっと笑える。


「大丈夫ですか、すみません。」

ぶつかった相手の遠い声。低くハスキーな声はいい男だぞと言っている様なものだ。ゆっくりと顔を上げると先輩と同じ長身だが、筋肉質なしなやかな体。がっしりした肩幅に、少し日に焼けた肌。深い知性を感じさせる目、こいつも男前だ。テキだと私の本能が告げた。

「なんで笑顔なんだ。」

先輩の声、気がつくと思わず微笑んでいた…ようだ。


こういう時は親から授かった容姿に感謝する。

美しさはにやけた笑もゲバい想像も、もう一度にっこり微笑むだけで、恥ずかしそうにはにかむ笑顔に変換される。


「では.失礼します」

一礼して出て行こうとする。

「まってくれないか、彼を紹介しておくよ」

仕事モードの先輩になる。紹介しておくということは、きっと仕事関係において重要な人物だと想像できる。

「わかりました。先ほどは失礼しました。検察官の東山玲です。」

正直、日々の忙しさと転勤の多さに転職も考えているが家族の強固な反対のためなかなか踏み切れない。この職場を辞めてしまえば、父や兄は喜んで自分たちの経営する弁護士事務所に強制縁故入社させることが目に見えている。


「はじめまして弁護士の西海誠と申します。

彼…北川さんとは大学の同級生になります。」


弁護士か。

卒のない男前だ。

だが父や兄をみていると弁護士というか同業者に対する不信感は拭いきれない。やつらは隙を見せたら身包みをはぎに来る。


それにしても、先輩の周りは男前が多い。

先輩と西海が仕事の話を始める、私が扱う案件とも違うようだし、一礼して出て行こうとすると扉の前に落ちていたハンカチにきがつく。


えらくかわいい・・・ピンクのハンカチ。

誰が落とした、とりあえず拾い事務所の子に預けようと思い扉を閉めていると西海が呼び止めた。


「すみません、私のものです。」


このごついのが・・・落とした。

えらく少女趣味な。

見た目と違うな。だが私はニューハーフであろうが地球外生物であろうが、私にとって無害な人間ならウェルカムな心の広い人間だ・・・が、少しいやな予感がした。

このハンカチ…


「玲ちゃんが気がついてよかったな。」

先輩がプライベートモードで私に話しかける。


話すな。


ややこしくなる。


とりあえず笑顔をみせハンカチを渡す。


「ありがとうございます。」

無骨な返事。

「似合わないだろ、誤解しないでやってほしいんだけどそいつのじゃないんだ。

金曜日、弁護士会の帰りに衝撃の出会いをしたらしくて、お守りに持ち歩いてるんだってさ。

出会ったらいつでも返せるように。」

先輩が似合わないハンカチを持つ西海をフォローするように説明してくれる。だが、私にそんな説明は不必要だ。


思い出したくない過去


あやまちがさると書いて【過去】


誰だってあるだろう。


「結構、こいつ一直線だから。」

いい言葉ですね先輩。友達思いなのが伝わってきます。


だが、今は黙れ。

去れ。

消えろ。


にらまれている視線。


西海から注がれる視線が痛い、ああ、こいつ気がついてる。

直感だった。


そりゃ、衝撃だろう。


覚えていないが・・・


よほどの酒乱をおこしたのだろう。


私・・・



返さなくて結構です。




そのハンカチ・・・私のですから。

はい。今回の逃亡は失敗です。

はい。隊長、、、申し訳ございません。



頭の中でコントが繰り返される。




いっておくが、頭の中だけだ。見た目はクール、私は才女だ。


そして西海誠もテキだということが確定した。



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