甘い顔、優しい顔…そして
乙女モード完了。
つっこみがはいるところが、自分のおっさんくささ。
着ちゃった。
着いちゃった。
だって予約してるのにもったいない。自分に言い訳しながら…
貧乏性。
ひさびさのワンピース、ヒールの高い靴、足がもつれそうになるほど緊張する。
「先輩、おまたせしました。」
軽く見開かれる先輩の瞳。
「きれいだね。」
これが恥ずかしげもなく言える先輩は女慣れしている。
「俺のために着飾ってくれたらうれしい。」
・・・だから誤解されるんだ。
そうして晩餐は始まる。
肉も魚もデザートもおいしい。
でも、一度一緒に食べたごはんと違うのはお酒はなしということ、しらふのまま。
「受け取ってほしい。」
店のBGMがやけに白々しい。
今気がつく、そう今の現実が直視できない。
だって指輪だーーし。
高そう。
「先輩?」
「結婚して欲しい」
相変わらずなんだ、この展開。ってか、西海も先輩も結婚簡単に考えてませんか?仮にも法律を学んだ人間じゃないんですか?
結婚手続きにはお金かかりませんけれど、離婚手続きにはお金かかるんですよ。
「先輩、先輩が思っているような人間じゃありません。だから無理です。」
言った。
そう、これが言いたかったんだ。
みんなに、これが言いたかったんだ。
「思ってる人間?」
「私は…先輩が見てるのは妄想です。」
そうなんだ。見てくれに騙されてるんだ。
「それは玲のほうじゃないの。」
一瞬凍った。
私が?
「俺が女受けしそうだから、ずっと惚れてるの言ってたのに気づかないふりをした。」
そんなことないって言えない自分がいた。
ああ、そうなんだ。
きずつくのがいやだから、先輩のこと冗談にした。
本気になりそうだったから。
だって、本当先輩、いい男なんだもん。見栄えだけの私と違って、釣り合わないって思っても当たり前じゃない。
「そうですね。」
「本当とか理想とかどうでもいいんだ。玲から目が離せない。この理由じゃダメかな。」
ダメじゃないそう、どんな理由でもダメじゃない。
「玲」
先輩の声。
「了解、乙女モード」
本音が口に出る。
「でも、きっと先輩は…いつまでも尊敬する先輩何です。」
これが答え。たぶん先輩もわかってた。
先輩はさみしそうに笑った。
甘い顔、優しい顔…やっぱり最後まで笑って優しい顔をしてくれる。
最後まで優しい人。
帰りは頭を冷やしたくて
危ないからって送ってくれる先輩を巻いて
一人で帰った。
あんな優しい人を傷つけた。
一台の車が止まる。
不審者?
西海だった。




