変身
嫌な夢を見た。
そして、母の言葉で時間が確実に過ぎ去って行くことを実感した。
私は、まだ夢の時の中にいる。
そんな気がした。
嫌な時は嫌なことばかりおこる。
仕事も小さなミスばかり。
まだ朝だというのに、ミス。
後悔
「どうした、こういうこともあるよ。」
先輩の優しい言葉。
なんでかわからないけど、だから嫌なんだ。この人は私を甘やかせてくれる。優しくしてくれる。
でも私は殻の中の私しかみせれない。
もっと素直になれたら可愛いのに。
チリイン
携帯を見る。西海…
今度の休みドライブに行こう。
いく度となく繰り返されるメール。
とりあえず無視する。こいつは断っても断っても、ひかない。優しい言葉はあまりないけれど嘘も言わない…気がする。
西海を思うと、少し嬉しい自分に驚いた。
乙女化してますよぉ。
ってか、乙女化って、どういうことよ。
「何か最近調子悪いな。」
先輩が給湯室で声をかける。
そして、さりげなく耳もとで囁く。
「玲は大丈夫。」
甘い顔、優しい顔、きっとこの人は………
「今日、あがり早いんだろ、飯食いに行こう。」
先輩が誘ってくる。
「行きません。」
あっさりと断る。
「も、予約したから 。」
店の名前を書いた紙を渡される。
何度か両親に連れて行ってもらった高級店の名前があった。
「そのまんまで大丈夫だから」
そう言って先輩は立ち去った。そのまんま……今の私は黒いスーツにメガネ。
クール、きれい、かたくるしい私。
夢の中の…殻の中の私がいた。
なんとなく自分が嫌になった。
簡単に性格は変わらない。
でも、雰囲気はかえれる。
「東山さん、早退ですか?」
「ええ、少し用があって。課長にも申請して問題ないっていわれたから。」
「いえ珍しいと思って、すみません。」
「じゃあ、あとよろしくね。」
事務所の女の子と会話する。
早退なんて就職して初めてした。
学校でさえサボったことがないのに……行き先はこの前いったデパート。
店員さんがいっていたお似合いですといわれた、桜色のワンピースを手に取る。
高っ。
スーツには出せても着るか着ないかわからない、普段使いのできないワンピース。
こんなひらひら実用的じゃない。
コートもホワイトの普段なら買わない、可愛いコートを手に取る。ホワイトなんて、手入れも汚れも目立つし大変なのに…。
けど、 大枚をはたいていた。
ついでにバック、靴、おまけに髪の毛までセット。
ネイルってこんなたかいのなんでーー。こんなきらきら付けてパソコン触りにくい。
実用性のない手先になるのに、金払えるかって思いつつ 大枚はたく。
大人買いで私を変えて行く。
こんな可愛い子になりたかった筈なんだ。
こんな時、親からもらった容姿に感謝する。
モデルとまではいかなくても歩けば、軽く振り返られるぐらい美しくなった私がいた。
兄が用意しない限りこんな格好したことがないかも、自分で自分の外見を磨くなんて。
何年ぶり?だろ。
本編、予定ではあと2話で終わる予定です。




