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酒に飲まれた恋心  作者: 月帆
本編
1/22

酒は飲んでも飲まれるな

私は下戸だ。

つまりお酒は飲めない。


…というのは建前で、実は上戸だったりする。

ただし…という注釈が加わるが。


飲んでいる時はいいのだ、気持ち良くて陽気になる。そして、絡む。

だが2時間経つと必ず吐く。

寝ゲロも当たり前、脱糞だってしてしまう。

トドメはどこでも寝てしまう。


なんというか…人としてかなり問題があるため下戸を貫く私は褒めてもらって当然の存在ではないかと思う。


ちなみに私の容姿は、自分でいうのもなんだが美しい。

艶めく黒髪に潤んだ瞳、細くしなやかな体に豊かな胸、桜色の唇、美貌を隠すように添えられた眼鏡でさえも知的美人を演出する道具でしかなくなっている。そして、当然のことながら現役で司法試験を合格した頭のよさも兼ね備えている。


小さな頃は可憐なお姫様、今は知的美女だ。


しかし、本当の私は知的美女をきどる浅ましい人間でしかない。


なぜならば、磨かれた美貌も知能は単に実家が、歴史を紐解けば大名家にもつながる家系で厳しくしつけられた成果なだけである。そう、この美貌も知能も天然ではなく親の…兄弟の厳しい仕込みがあってこそなのだ。

人は家柄も容姿も知性も兼ね備えた私を褒め称えるが、実際の私を知らないだけだと声を出して叫ぶには、私は小心者だった。

性格まで矯正してくれなかった親を恨めしく思う。


社会人になり一人暮らしを始めて、私は羽ばたいた。


片付け嫌い、服もにおわなければok、この前は炊飯器からカビが生えていた。それ以前に、この前自炊した時の記憶がない。これがoffの私の姿だ。

onは見た目は美しい検察官。


イメージが崩せないため、仕事場ではきりりとスーツとメガネで武装。

私生活はジャージ、夏なんかあついとパンツ一枚、それすら怪しい格好で自宅を歩き回る。

これが三十路目前、私の正体だ。


長くなったが、何が言いたいのかというと…私は私をみせるため外では完璧。


その完璧をくずす酒は外では飲まないということだ。


だが、今目の前にある惨状はなんだ。


足元に転がるのは酒

……缶ビール、日本酒、ワイン、ウィスキー


酒臭さと寝ゲロのあと


よかった今回は脱糞はしていない。

片付けを…と思いあたりを見回すと見たことのない部屋。

シングルベットにしては少し大きい、ダブルベットにしては少し小さいベットに横たっていた身体を起こす。白を貴重とした簡素な部屋、どこのビジネスホテルも代わり映えしないなと思える内装がに心を撫で下ろす。そして、立ち上がる。足元にはおそらく自分で脱ぎ捨てたのであろう黒いスーツ。シャツ、幸い脱糞後の処理を考えてか幸いパンツは履いていたものの……実に不可解なモノを発見する。


そう……人が足元に転がっていた。


しかも男。

とりあえず、足元に転がる見慣れない男をみる。

おそらく同年代、三十路超え。

力ではあきらかに私の方が弱いとわかる、体格のいい男。

シャツは引き千切られボタンが床に無残に転がっている。誰がしたのかは考えたくない。

何が起こったのかはわからないが、男は外傷もなく寝息を立てているところをみると、まあ身体的には大丈夫だったのだろう。精神的にどうかはわからないが、お互いいい年だし訴えられることはないだろう。


小心者の私がとった行動、それはー逃走だった。


司法に携わるものが謝罪もせずにと思われるかもしれないが、厄介ごとはごめんだ。


ホテルで支払いだけすませる。

名簿にはsakeと私の字で書いてある。ああsake、酒ね。

勘弁…私。

かくして逃亡に成功を遂げる。


寝ゲロは処理できなかったが、とりあえず勘弁してもらおう。


実際、酒を外で飲まないという鉄則を破らせた先輩には罰を与えようと心に誓いビジネスホテルをあとにする。

朝日が眩しい、土曜日のビジネス街は人通りも疎らで一安心する。若干、職場から近い場所なのが気に食わないが。

春風が心地よく肌を撫でるのではなく、虚しく肌を通り過ぎる。

後悔より、せめて色気のあるパンツにしておけば…肌色、毛糸のパンツを恨めしく思う自分が情けない。


酒は飲んでも飲まれるな。


三十路目前にした東山玲こと、私が誓った言葉だった。


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