表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖域戦線  作者: 桐ヶ谷港
ベルギス編
38/51

本当の力とは

「わあぁ~、燐、見て見て! あそこで、りんご飴売ってるよ!!」

「……えっ? って、わぁっ!?」

御代は高揚した気持ちを抑える事など出来ず、隣にいる燐の手を引っ張り、目当ての夜店まで駆け出していく。

残された二人は、燐と御代が戻って来るまで待っていようと、近くに空いていたベンチに、腰を下ろす。

「そういえばさ、明日の大会には日本人も、何人か出場するんでしょ?」

愛は右手に持っているホットドックをパクリと食べながら、隣で綿飴を少しずつ食べている優に尋ねる。

「えーと、正確には日本人じゃないだろうけど……ベルギス人の国籍を持つ日本人からの移民だから……」

どう答えて良い物かと不安気に、途切れ、途切れに答える。

「なるほど、そういう事だったんだ……てっきり、日本の中からも選抜された誰かが、出場してるものかと思ってた。」

「ーーいえ、出ていますよ。」

突如、声が聞こえて来て、それが自分達に向けられたものだと気付くのに、少しばかりの時間を要した。

慌てて顔を上げると、そこにはニッコリと微笑みを浮かべる青年の姿があった。

優や愛と年齢がそう違わない外見に、街灯に照らされた金髪が光って見える。一般的に美少年と言われるであろう外見に、整えられた服装は何処からどう見ても市民の物ではない。腰には護身用にと備えられた魔法銃が一丁あるが、使い易い様にと改造が施されている事が分かった。

「お久しぶりです。浅海さん。」

優は綿飴を食べる手を止めて、驚いた様な表情を浮かべた後、微笑み返す。

「お久しぶりですね。えーと、二年ぶりですか?」

「いえ、一年と十ヶ月と三日ぶりです。」

その正確すぎる答えに、優は頬を引き攣らせて苦笑する。

隣にいる初対面の愛でさえも、苦笑いしながら、優の肩をちょんちょん、とこっそりと叩く。

「優、この人…誰?」

「失礼しました。私はヘイナ・デクリール・リカルドと申します。何卒お見知りおきを。」

「ベルギス魔道研究所の準責任者で、二年前にとある代物の共同研究をしてたんだよ。実家が貴族だから……将来は研究所と御家を継ぐんだよね。」

「ふーん、分かった様な分からない様な……そういえば、最初に言った、出てる、ってどういう意味? 今回の大会には日本人国籍を持つ選手が出場してるって事?」

愛の問いにヘイナは、はいと頷きを返す。

「今回の大会では、新体制のベルギス建国から今年で、丁度200周年を記念として、日本人だけでなく各国の代表選手をお呼びして開催される大会ですので、御二方も応援が目的で来られたのでしょう?」

適当に来ただけです…、などと言える訳もなく、はははと笑いながら場の空気を流す。

「そういえば、今、我が家でベルギス建国200周年を記念してパーティーが開かれるのですが? 御二方も参加してみませんか?」

その提案に愛は、キラキラと瞳を煌めかせた後ーー

「優、行こうよ!!」

「えっ!?」

えっ!? 行くの? と、優は驚きのあまりに声を上げる。

「で、でも、燐と御代もいるし…」

「じゃあ、二人も呼んでさ。あと、二人読んでも良いかな?」

「はい、構いませんよ。」

「ほら、優。こんなに言ってくれているし、行こうよ。」

行くつもりないんだけどな……と言いたい所なのだがーー

「行こうよ。優…」

上目遣いと、瞳をうるうると潤わせる攻撃が直撃して、勝てる訳がなくーー

「うーん…良いよ。行こ!」



まるで、漆黒の流星の如き速度、現象を顕した突き技は寸分違わず窓に突き立てられる。

それまでただの真似事だった槍が一撃必殺の威力を持ったのは、流星が見て取れた瞬間からだろう。それまでは脅威とも取れないただの刃物だった槍が、右腕が霞む程の神速の突きが放たれた時には、たとえ耐久魔法と言えども容易く穿つ事が出来ると思わせる程の一撃を放っていた。

もしかすると、泉は自身の速度……いや、それよりも広範囲で…もしかすると、周囲から受けたチカラを自身の持つ力として変換したのではないだろうか?

現在の魔法ではそういった類いの物も数多く使用されている。召喚獣を行使する魔方陣もその類いの一つに過ぎない。

あの時だってそうだ。ゴーレムの大部分を破壊する前に、泉はゴーレムより超高密度の一撃を喰い止めていた。あの時、相手のチカラを吸収して自身の物としたならば、泉自身の魔力がなかったといった説にも、納得がいく。

なら、今はどうだろうか。今さっき、泉は炎の柱数本による攻撃を、見事と言うしかない程の剣技で弾き返してみせた。

もし、私の仮説が正しいならば、泉君が行使している力は、数瞬前、騎士団の魔方陣により受けた炎の柱、による力という事になる。

だとしたら、彼にはーー

「らぁ…ああぁぁぁーー」

窓から数ミリの地点で張り巡らされた耐久魔法ーー透明の結界が急速にひび割れていく。

泉は絶叫を上げて、槍に全身の魔力を力を循環させていき、槍はその想いに答える様にして再度形状の変化をみせた。

柄の部分から両方に粒子が収束していき、槍の先端だった部分、何もない空間だった筈の部分に徐々にある形を模していく。

両端には鋭利な刃があり、まるで刀二本を接合した様な形態をしている。

それは、以前優と愛との戦闘時に使用した魔道具の形状と一寸も違わない。

手首を回転させていき、それと同期した刀は凄まじい速度で回転を続けていき、右斜め上から左下に一直線に薙ぎ払われる。

結界が削り取られていき、ガラス状の破片が散っていく。

刀を降り終わると同時に、手首を捻り、刀の勢いを決して削がない様に、絶妙のタイミングで、先程薙ぎ払った軌道を逆から振り抜いていく。

バギギギキッーー!!

それは、耐久魔法が泉の連続攻撃によって打ち破られた音だった。

四方八方にガラスの破片が飛び散るが、泉は理沙をガラスから護る様にして抱くと、窓を突き破り外へと跳躍する。

続いて、何とか逃げ回っていた湊とレビン、そして彩が逃げ出して来る。

騎士団の連中はその常識を逸脱した光景に呆気に取られた様で、即座に正常な反応が出来ない様であった。


けれどもーー

赤と青そして白の閃光が迸った。

「ぐぅ…ぅぅっ……」

理沙は地面に振り落とされ、何事かと理沙は驚き、状況の再認識をしようと周囲を見回した。

状況は簡単に理解出来た。しかし、理解し難い状況であったのは間違いないだろう。

泉の魔道具は、鮮血の色をした槍と数本の刀を同時に受け止めていた。これまで、理沙は、泉がまともに攻撃を受けた所を見た事がなかった、しかし、今まさに、泉は、銀色の刀身をした剣に脇腹を突き立てられていた。

血が溢れ出し、傷口、口から噴き出す。

「ほう、この攻撃を止めるか、若造。本当ならば、腰の半分は切り裂いている所だがな…」

その言葉に嘘はなかった。刀身を、泉の左手が動かない様にして抑えていた。掌から血が流れ、剣を伝って地面に滴り落ちる。

「…ぐぅっ……はぁっーー」

泉は魔道具を刀形態に変化し直すと、横一線に間を空ける為に薙ぎ払う。

「彩、頼む!!」

「血肉と成りな!!」

二つの叫び声が同時に発声される。

背後へ滑る様にして移動した煉獄は、神速突きを繰り出す。泉は刀を地面に立てると、両足を地面から外して、槍の軌道から避けると、止まる事なく右脚で首を刈る。

しかし、相手もそれなりの熟練者の様で攻撃が外れたと分かると同時に、槍を立てて脚による攻撃を受け流す。

勢いまでは削ぐ事が出来ず、数メートルの距離を滑る。

「次は外さない」

その声は泉のものではなかった。

二本の刀が真正面から迫って来る。泉は地面から刀を抜いて、数センチの距離で軌道を弾き逸らす。髪が数本引き千切られ、二本の刀は泉より後方に突かれていた。

泉は、霧宮の空いた隙を狙う様にして刀を振るうが、左方向から地面と水平に三本の刀が薙ぎ払われる。泉は、慌てて刀に軌道を合わして受け止め、背後に跳躍して距離を空ける。次の攻撃を躊躇っている間に、霧宮に体勢を立て直される。

「っ……ぁぁ…」

傷を受けた直後に、過度な動きをしているのだ。身体には、相応の負荷が掛かり、再度口から血を吐き出す。

それを隙とばかりに、霧宮がダッシュを掛けて距離を詰める。

右方向から二本の刀が振り落とされ、泉は辛うじて自身の刀を割り込ませる事に成功するが、左方向より降り抜かれた三本の刀が、背後からは煉獄が槍を構えており、上空からは最後の一人ーー泉に剣を突き立てた張本人が、剣を突き出す様にして、四方八方を阻み迫り来る。

「ーー決まりだ」

勝利に満ちた表情を浮かべた霧宮は、あまりにも冷酷過ぎた。

右方向にも左方向にも刀が迫っており、背後に跳躍した瞬間、槍に身体を貫かれる事になるだろう。しかし、現在では、黒刀は、右方向からの霧宮の刀を喰い止める事に専念しており、黒刀を外した瞬間、鋭い刃が俺を斬り裂くだろう。

「……っ…」




その状況を見ていた理沙は、呆気に取られていた。

泉君が圧倒されている。

相手の連携によって、泉君の持ち味である剣技や回避運動が上手くいっていないのだ。

その理由を問えば、最終的に泉君が殺した原因を創ったのは、私自身になるだろう。

考えれば、最初から私は驚くばかりで、全く彼等の役には立っていなかっただろう。ずっと、彼等に頼りきりで助けて貰うばかりだった。

もし、私がいなければ、泉君達は、もっと容易く脱出、出来たのではないだろうか?

湊君が、決して無視出来ない程の傷を負ったのも、私が逃げ遅れて、私を助ける為に、湊が私を庇って、攻撃を受けた事にある。もし、私がいなければ………湊君と泉君の二人なら、遅れを取る事はなかっただろう。

泉君が私を抱えていなければ、彼の反射能力ならば余計な心配をせずに、攻撃を避けられたのではないだろうか。

この状況を創り出したのは、私自身であろう。もし、私がいなければ……

このままいけば、間違いなく泉は致命傷を負って死ぬ事になるだろう。

ーーい、いや、死んでほしくない。もっと、泉君には、もっと生きて欲しい。

泉君と、もっと多くの話をしたい。彼の事を知りたい。彼と共に、一緒に人生を歩き出したい。

判り切っていた事じゃないか。私が力を身に付ける為に学院に入学した理由は、復讐の為ではない事が……きっと、今なら解る。私の本質がどういった物で構成されているのか。もうこれ以上、私の様な境遇の者を生み出してはいけない。誰かが傷付けられるのを、黙って見ているのは、もううんざり…だから…だから、守る。彼等が私達を救ってくれた様にーー大切な者を救う。

想いを貫け

呼び戻せ……私の本当の力を…




泉は息を吸い込むと同時に、全身に黒衣の鎧を纏う。全身の魔力総量が追い付いていない為、本来備えられている防御力よりも、大きく下回っているのは確かだろう。そして、相手は一流と呼ぶに相応しい、実力者が勢揃いしている。間違いなく、黒衣の鎧を打ち破るだけの力はある。

後は、自身の回避能力に掛かっているといった所だけだ。ここで致命傷ーーいや、死ぬ訳にはいかない!!

「……ぇっ…?」

その瞬間、泉の周囲に数本もの刀や剣が顕れる。形状様々な魔道具は、まるでその空間に固定されたかの様に固まり、重力を受けて地面に落ちる事はなかった。

「ーー泉君、いくよ!!」

その言葉を聞き入れ、泉は少しの驚きと……こんな危機的状況の最中に、嬉しそうに笑ってみせた。

泉は左手を横薙ぎに振るい、一本の刀を掴み取る。それと同時に、剣の鵐目を肘で強打して背後から迫り来る、煉獄に打ち込む。

それまで、重力などの、あらゆる力に反抗していた物とは思えなかった。泉の手のひらが、柄に触れるよりも前に、すんなりと吸い込まれ、または吹き飛ばされていきーー

ガギギッ!!

右方向から迫っていた霧宮の、三本の刀を喰い止め、背後で槍を突き出そうとしていた煉獄は、慌てて剣の軌道から避ける。

泉は両手に力を込め、霧宮の刀を弾き返す。そして、両方の刀を上空に狙いを付けて投げ、地面に、仰向けにして倒れ込むーー

と同時に足の甲に鵐目を乗せて勢いに乗せて蹴り、地面に両手をついて、後方に回転する。

上空の騎士は、三人の中でも一段と凄まじい実力の持ち主の様で、真横に魔力を放出して、三本の刀の軌道から避ける。

地面に難なく着地した老騎士は、ニヤリと笑みを浮かべた後に、口を開く。

「なるほど…それ程の実力者が…それも若造ばかり揃っておるのか…儂の戦闘流儀だ……名をパラティヌス・デイン…」

泉は、地上に降って来た愛刀を、地面と激突する寸前で掴む。

「…デイン…? そういや、何処かで聞いた様な……って…はぁ……親子揃って闘いたくはないんだけどなぁ……まあ、パラティヌスさん。あんたの流儀に則って俺も名乗るよ。俺は、南座泉。」

「私は牧野理沙よ。」

理沙が、すっ、と泉の横に並び出る。


『彩、いけるか?』

泉は、彩が使用している『魂分裂』による回線で、背後にいるであろう彩に向けて思考の中だけで発する。

霧宮と煉獄、彼等の胸ポケットには、あの雷桜闇が付けていたバッチと同じ種類の物が付けられている。それは間違いない、奴等二人が忌道真である証拠だ。その事に気が付いていた泉は、彩に通達したのだ。

彼等の魂の情報を読み取るだけの時間を稼ぎ、忌道真の情報を得る。その結果が分かった今、騎士団が集まり出す前に、直ぐにでも戦線を離脱しなければいけない。

『はい、あらかたの解析が終わりました』

背後から、彩の言葉に、泉は思考の

中で、安堵のため息を吐き出す。けれども、安心出来ないのは確かだろう。

『……了解。なら、湊、レビン……彩を連れて、此処から離れてくれ……こいつ等は、俺達で喰い止める。』

『でも…一緒に……』

彼女が言いたい事が解る。仲間を置いてはいけない。そう言いたいのだろう。

しかし、今はそんな事に気を取られている状況ではない。

『いや、こいつ等相手は、逃げながらじゃ無理そうだ。もし、そっちを囮に取られたら、今の状況じゃ致命的になりかねない……今夜なら、前夜祭で人通りも多い筈だ。人混みに紛れて逃げてくれ…』

『頼んだぞ、泉…』

『はい、泉さん』

『いいわよ』

『……絶対に帰って来てください…』

『あぁ、任された。絶対に戻って来る。約束するよ。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ