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聖域戦線  作者: 桐ヶ谷港
ベルギス編
33/51

真実は……

漆黒、純白の光が激動の速さで床を疾駆する。あまりにも速度が速い為か、疾駆した後に霞んだ光だけが残こされ、靡いていく。例え、今の景色を一般人が凝視したとしても、補正を受けていない瞳では、捕捉する事も出来ないだろう。

いや、それは違う。例え戦闘訓練を受け、魔力補正を行使出来る者に、この姿を見せたとしても、ただ漆黒が霞んでいる程度にしか認識出来ないだろう。

「グァアアアアアッーーー!!」

耳を擘く程の轟音が鳴り響き、空気を振動して床や壁がガタガタと揺れ動く。

所々に穴が穿ち抜かれており、瓦礫が振動で上階層から崩れ落ちてくる。しかし、二つの閃光はそんな些細な問題など関係ないとばかりに全速力で疾駆し、必要あらば穴を飛び越え、瓦礫を弾き返していく。


直径二十メートルもあろうかという拳が、空気を螺旋状に切り裂き、上空から二つの光の目前に押し迫る。

ゴオオオォォォーーー!!

拳が床を爆破し、瓦礫を巻き上げて、旋風となって周囲に甚大なる被害を及ぼす。暴風が吹き荒れ、衝撃波で明かりを灯していた電球が次々と粉砕していく。

爆発的威力を秘めた拳が床に激突した瞬間には、閃光は拳の範囲よりも一手、二手先の地点に到達していた。土煙を切り裂く様にして突き抜け、弾丸の如き速度で跳躍する。

すぅっ、と暗闇の度合いが先程よりも増して強くなっていく。それに比例する様に二つの光は強さを増し、白閃はより輝きを増し、黒閃は暗闇の度合いの何倍も色を放っている。

風圧に光の粒子が揺らめきながら、自然に消滅し、現れる。

数メートルの高さのある巨大な本棚に飛び乗り、上階層へと繋がる穴に向かって跳躍する。

焦げ茶の壁が穴の閃光の間に入り込み、前方を遮る。上階層からの光が閉ざされ、急速に影が、大きく黒く広がっていく。

二つの物質が激突する直前ーーーゴーレムが束の間、何かに自分自身の身体のコントロールを制御、もしくわ制限された様にして身体を硬直させた。身体の硬直を必死に取ろうと無理矢理に力を込め、全身をビリビリと震わせる。

拳が静止空間にでもいるかの完全停止の状態から徐々に現実へと回帰して、圧倒的質量を誇る力を放つ。


硬い物質を無理矢理に削り取る様な、耳を擘く轟音が周囲に撒き散らかされる。漆黒の閃光が間一髪の所で拳を避け、同時に直刀を横殴りに振るう。

ガギキキッーー!!

直刀は数ミリ程の深さで、拳の体内に埋め込まれる。漆喰の魔力が全身を循環して直刀を伝い、集結していく。

直刀が創り上げた数ミリの隙間に埋め尽くされる様に膨大な質量の魔力が収縮される。

一度、直刀を傷跡から外すと、神速の如き速度で、一分違わず傷跡に沿って薙ぎ払う。

直刀が漆黒の魔力に激突ーーー数ミリの隙間に収縮されていた膨大な魔力が外部からの衝撃で形状を保てなくなり、洪水の様に、魔力が激流していく。

圧倒的質量を誇る物質であるゴーレムの皮膚を削り、砕いていく。

鮮烈なまでの一撃は、形を保つ事が出来ずに、暴れ出すかの様に、周囲に拡散する様に爆発を起こす。

纏っていた漆黒の粒子が霧散して、内側から人が現れる。深い闇を思わせる髪に、全く変わらない黒色の衣類。黒髪の下から覗いている童顔には、死の危険を感じながらもそれに向かっていく決意が見て取れる。

ーーーもう一人、黒衣の少年に抱き抱えられた少女がいた。肩に届く程の褐色のショートカットに、透き通る様な白い肌、小さな卵型の顔に、瞳からはエメラルド色の光を放っている。その姿はーーー西嶺彩であった。




浄化の巫女は奥の戸棚から、球体型の半透明のガラスを持ち出してきた。二人はどうした反応をしたものかと呆気に取られながらも、ぼんやりと霞がかった水晶を眺める。

浄化の巫女はコホンッ、とわざとらしく息を吐き出して、二人の視線を前に向けさせる。

「私は、日本人の母親とベルギス人の父親から生まれたハーフでした。父親が国家議員の重要役人であった事もあって、一家揃ってベルギス側で暮らしていたんです。幼少は少しばかりの幸せを満喫した平凡な生活を送っていました。両親は、反対したのですが祖父の勧めもあって、小学校を卒業と同時に、ベルギス国立魔道学院に入学しました。」

二人が固唾を飲んで見守る中、水晶に掛かっていた霞が取り除かれ、鮮明な映像となって二人に訴える。

満面の笑みを浮かべる浄化の巫女の姿が次々と現れては移り変わっていく。

初めて見た物だが、この水晶は彼女の中に存在する記憶とリンクさせて、幼少の姿を映し出す魔道具であろう。

「しかし、その矢先に、私は偶然にも魂を操る魔法を行使する事が出来ました。二人も知っての通り、記憶を改竄、覗き見する魔法超難関です。しかし、私が行使する物はそれよりも上位の存在、今の魔法学でさえはっきりとした理解がされていない魂に接触する魔法です。習得するには、血反吐を吐く様な訓練を何十年も積むしかないんです。それでも、覚えられる可能性は高くありません。」

彼女は一瞬、躊躇った様な表情を浮かべるが、賢明な表情に変化すると同時に唾を飲み込む。

「ーーーしかし、それにも唯一の例外があります。稀に現れる…上層部の間では、聖なる魂と呼ばれる性質を持つ者は、その性質により高度な魂情報を操る事が出来るのです。しかし、その者が顕れる確率は数百万分の一という数値であり、過去に確認された存在は十名程度でしか数えられていないのです。」

当初、国側は国家反抗組織を事前に見つけ出す為に、有効活用しようと考えた。

強制的に学院を中退させた後、情報制御を敷こうとしたのだが、何十万分の一の確率で現れる希少価値の存在は、急速に広まり、以降、彼女の存在を隠し通す事は出来ず、世間体を気にした上層部は、彼女を浄化の巫女として取り扱った。

しかし、後に上層部自体が国家転覆を考え始めた事をいち早く察知した彼女は、直ぐにでも国王に進言し様としたのだが、上層部の方が一歩も二歩も上手だったという。

「私が、父に連絡を取ろうとした所を騎士団に取り押さえられてしまいました。人の心を読める私は国家転覆の邪魔な存在でしかなかったのでしょう。そして、上層部は国王に適当な嘘を真実であるかの様に語り聞かせ、自分達ではなく、私が国家を崩そうとしている危険因子として告訴したのです。」

「……ちょっと待ってくれ…告訴したって、君は上層部の心ーーーいや、この場合は記憶か…読んだ筈だろ? なら、奴等の方が危険因子である、って事を証明する様な物を見つけられたんじゃないのか?」

湊の質問に彼女は目を閉じ、悔しそうに眉を顰めて首を横に振る。

「……確かに、私の力は対象の心を読み取り、操る力です。けれども、相手が例え死んだとしても、守り、隠し抜きたい秘密には即効性の効果が発揮されにくいのです。時間を掛ければ読め取れない事はないのですが……あの時は、魔力を練る時間さえ与えられずに捕獲されてしまいました。」

「そうか……その事も考慮に入れなきゃいけないな…」

二人は、状況が思っていた程に芳しくない事に気が付いていた。彼女は、この国の裏事情についてなら、派閥構成の隅々まで知っている筈だと思い込んでいた。彼女の協力を仰げば直ぐに奴等ーーー忌道真の本部基地が判る物だと思っていたが、どうやらもう一度奴等と接触する機会を作る必要がある。

「お役に立てずに…すみません…」

「いや、大丈夫だって!!」

「おう、君が……うーん、言い難いな…まあ、気にする様な事は何にもないぜ。」

「…はい………」

「ん?」

「どうしたんだ?」

彼女が突然に、黙り込んでしまったので二人はどうしたものかと困った表情を浮かべる。

「……にし…西嶺彩です。」

「はいっ?」

突然、全く聞いた事もない人の名前を出され、どう受け答えすべきか考察する。

「ーーー私の名前です。」

二人がまともに考える暇もなく、怒った様に頬を膨らませる。

「……ぁっ、そういや聞いてなかった…」

「むうっ、そういう事は一番最初に聞くべきですよ。」

「…すみません…」

泉は申し訳ないとばかりに肩幅を狭め、頭を下げる。

「うむ、よろしい。次からは、そう呼ぶんでください。」

「ふはぁーい」

泉が投げやりな返事を返すと、彩は満足したように、満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、さっきの話の続き……えーと、私が告訴された所で止まっていましたね。」

「うん、それでどうなったんだ?」

「はい。私は、当然、反論しようとしていました。私はそんな事を望んでなんかいない。しかし、あまりにも上層部とは立場が違い過ぎたのです。」

「それって、どういう事?」

「例えば、考えてみて下さい。私の事情だけを知っている第三者から見れば、私は強制的に自身の未来を決められた存在です。国家という組織を怨む理由が存在します。そして、私の魔法を応用すれば簡単に他者を操る事が出来る。国側は、私が本気を出せば、騎士団に匹敵する軍隊が作れるとでも思ったのでしょうか。そんな事はどう考えても出来やしないのに……逆に、国家上層部は国を仕切る組織のリーダー格です。そんな彼等が国家転覆など考える理由が無いのです。そして、裁判は一方的に私の有罪といった形で幕を閉じました。」

「……っく!」

泉は、歯を軋ませながら顔を歪まめる。

「……一昔前ならば処刑といった罰が下されていたのですが、現在ではそういった処遇は法律では許されていません。そして、数百万人に一人しか持たない能力は、国家としても消すのは惜しいと思う程の重要財産です。しかし、このまま罰を下さいのでは彼女がいつまた国家転覆を考えようなどと行動を起こしかねない。その結果、選ばれたのは地下五十階層の厳重な警備が整っているベルギス国立魔道学院書庫に幽閉する事でした。必要な時にはいつでも引き出せる物の様に……これが私の真実です。」

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