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聖域戦線  作者: 桐ヶ谷港
ベルギス編
27/51

書庫編

ベルギス国立魔道学院書庫

この書庫はベルギス国内でも二番目に重要魔道書を有している書庫である。しかし、実質的な魔道書の総数で言えは、国立魔道書庫の数千倍という膨大な数を所持している。その為、たった一階層だけでも二万平方メートルの広さを誇っている。しかし、魔道書の総数はそれだけでは収まり切らず、地下五十階に及ぶ迷宮書庫と呼ばれる程だ。基本、一年生が閲覧可能なのは一~五階までの魔道書だけである。その後は学年が上がる毎に、閲覧可能階層が、五階下の階まで増加する。その為、学院の卒業年数である六年生には三十階層までの重要魔道書を閲覧する事が出来る。それよりも下の階層、つまり閲覧禁止区域と呼ばれる階層は三十階層から下であり、生徒が立ち入る事が無い様に厳重な警備システムを採用している。この学院創立から何度も突破を図ろうとした学生が居たが、一度たりとも破られた事はない。

そもそも、魔道書とは過去の人物が使用した魔法を記した物で、初歩的な魔法から、高度な魔法まで様々な種類が存在する。中でも、過去の偉人達が遺した魔道書を覚え、行使すれば絶大な力を発揮する事が出来る。しかし、そういった魔法を只の学生が行使すればどういった状態になるかなど、安易に想像が付く。

自身が行使出来る限界を超えた力は、己の身体を蝕み、破滅に追いやるだけだ。



ーーー六日後

ベルギス国立魔道学院書庫地下三十階層三十一階層入り口立ち入り禁止区域

泉達は、理紗が本好きだった事もあり、通常ならば二十五階層までしか進めない所を、裏ルートを辿って三十階層まで何も無く降りて来る事が出来た。

しかし、三十一階層への扉には遺伝子の組み替えにより、通常の何倍にも巨大化した鷹が、三人の行く先を立ち塞いでいた。鷹は空中を一、二回、旋回するとその嘴が大きく開かれる。周囲の空気を吸い込むと、口内に紅の光が輝きを増していく。

「ーーーうそっ、鷹って炎吐くの!?」

ボオオオォォォーーーン!!

理紗の呆気に取られた声が轟音に掻き消され、理紗の半径十メートルの距離を巻き込んだ爆発が起こる。続いて、鷹は休む事無く、炎を吐き出す。炎の光線が幾重にも分裂して、湊に襲い掛かる。湊は回避を考える素振りすら見せる事無く、炎に向かって弾ける。炎と湊が激突する寸前、背中に吊るされた鞘から、眼にも止まらぬ速度で白刀が抜き、薙ぎ払われる。

白閃と炎は、決して相入れない存在を否定する様に、反発するが炎の威力が瞬く間に縮まり、白閃が炎を引き千切りながら突き抜ける。

「ーーーいや、アレは鷹だけど……普通の鷹じゃないだろ? どちらかっていうと、魔道生物辺りじゃないのか?」

普通の学生ならば、一瞬でも気を抜けば生死の選択を迫られる事になる程の相手だ。しかし、湊は、鷹と対峙する最中、余裕のある態度で、理紗の発言に横槍を入れて来る。

「ーーーまあ、どうでも良いけど……本当に辿り着けるのかなぁ……」

泉の口から、珍しく弱気な発言を呟かれる。

鷹は白閃を正面から喰らい、衝撃で身体をふらつかせている。泉は鷹が居る地点よりも、更に上へと壁を駆け上がる。理紗はあんぐりと口を開けて見とれていた。あんな無茶苦茶な動きを、理紗は今まで見た事が無かった。以前、学院内では有名な実力者が、跳躍距離のテストで十数メートルの高さまで跳躍するのをまじまじと、見せ付けられた経験がある。その時は凄まじいとしか言い様が無かったのを今でも覚えている。しかし、この光景を比較した時、ただ十数メートルの高さまで跳躍するだけの光景は、小さな物だと錯覚してしまう。

空間を切り裂く程の速度で上昇し続けた泉は、数十メートルの地点でターンを切る。

ーーー刹那

泉が忽然と姿を掻き消した。

泉はターンを切ると同時に、全身全霊の脚力で壁を蹴り鷹に向かって落下する。重力加速度の力を受け、霞む程の速度に上昇していく。まるで、その姿は漆黒の雷の様であった。

鷹はそれを認識し、逆に大きく口を開き、迎え撃とうとする。口内に炎が溜まり、人程の大きさはあろうかという膨大な炎の球体を形取っていく。

先に動いたのは鷹の方であった。互いの距離が数メートルに近付いた時、轟音が鳴り響き、炎が放たれる。

「はあああぁぁ…ぁぁあああ!!」

黒刀の周囲に漆黒の粒子が漂う。瞬く間に、粒子は圧縮され、刃を創り上げる。

泉は斜め右上から刀を振り下ろす。高密度の魔力の衝突によって、余波が発生する。黒閃は留まる事無く、球体を薙ぎ払い、徐々に軌道を変えていく。

バッ、バシッ!!

その瞬間、炎の球体が泉の背後に吹き飛び、形状が耐えられなくなり爆破する。暴風が巻き起こり、泉に急激な加速を与える。

「ーーーレビン!」

その呼び声と共に、泉の傍に一人の少女が姿を顕す。銀髪の髪が風圧によって大きく靡く。その瞬間、レビンの髪の色が輝く銀髪から漆黒に染まった。

泉の黒髪と全く同じ夜空を連想させる漆黒である。

使い魔は主が変わる事によって、身体の性質を主と同じ属性、質に変化させる。レビンの、髪の色は自身の内部に存在する魔力の性質を表している。血の契約時に髪の色が変化しなかったのは僅かながらライナーの魔力が残っていた為だろう。

そして、その魔力を使い切った事によって、使い魔としての本質が表れたという訳だ。


二つの漆黒の稲妻が鷹に喰らい付き、地面に引き摺り下ろす。


ギエエェェェーーー!!

耳を擘く悲鳴が、地面に激突する直前まで響き渡り、爆音によって掻き消される。鷹は空中に舞い戻ろうとするが、全身に力が入る事はなく、痛みに耐える様にして地面に倒れ込む。

「……凄い…」

理紗は、眼の前にある現実を信じられなかった。この学院が創立されてから、学生だけではない。数多くの不法侵入者を迎撃し、立ち入り禁止区域に指定されている、三十一階層への扉を守り切っていた守護獣を倒したのだ。


「ーーーやった!!」

レビンはぐっと拳を握り、嬉しそうに飛び跳ねている。ただ、その喜んでいる理由は守護獣を倒したからといった理由ではない事は、一目見て明らかだった。

「…泉さんと同じ髪の色……」

レビンは、戦闘中に変色した黒髪を嬉しそうに眺めている。

魔力も変化した事で、以前は白銀の雷だったのに対して、今では漆黒の雷になっている。

レビン自身、泉の魔力を取り込んだ今でさえも、その性質がどういった物なのか理解出来てない。ただ、唯一理解出来るのは、想いの強さに応じて力を変化させる事である。

泉先輩の役に立ちたい。その一心で刀を握った時、全身を漆黒の粒子が包み込んだのだ。


「ーーーさあ、行こうぜ!」

湊が先導して、三十一階層への階段を降りていく。幸い、三十一階層を護る守護獣の実力を過信した創設者達は、他の警備システムは設置しなかった様で、騒々しい警報は鳴り響かなかった。

理紗がホッと安心した様に息を吐き出す。

「……理紗」

背後から突然、泉に呼ばれ慌てて振り返る。彼は真っ直ぐに理紗の瞳を見つめていた。

突然な事に、理紗は自身の心拍数が上昇するのを感じていた。頬が赤みを帯び、まともに彼の顔を見ていられなくなる。理紗は恥ずかしさのあまりに、俯き加減になっていく。

「……想いを貫け…」

「えっ?」

突然、泉が発した言葉に疑問の表情を浮かべ、顔を上げる。

泉は先程までの真剣な表情から激変し、口元を緩ませて微笑んでいる。

「俺の、魔法の言葉」

ーーー想いを貫け

その言葉を口に出す事は簡単だ。しかし、その意味を達成するのは、決して容易な事ではない。初めて、泉の魔法を見た時に、どうすればあそこまで他者を超越した力を振るう事が出来るのか? と疑問に思った事がある。しかし、今なら彼の事を理解出来る。確かに、泉の技術、魔力、能力はズバ抜けて凄まじい。けれども、理紗があの時に感じたのは、そんな当たり前な強さではない。彼の強い想いが、力を何倍にも、何十倍にも増幅するのだ。

それは決して楽な事ではない。例え、自身が背負える重圧を超えたとしても、前に向かって歩いて行こう。

その前向きな想いが、理紗を惹きつけるのだ。

「おーい、レビン? 何でそんなに嬉しそうなんだ? 何か良い事あった?」

「泉先輩気付かないんですか? ほら、髪の毛が変色したんですよ。」

「うわっ!? 本当だ!! ごめん、気付かなかった。ってか、レビンはさっきまで何処に居たんだ?」

「えーと、そうだ! まだ、見せてなかったんですね。いきますよ!!」

レビンの身体が漆黒の粒子に包まれ、全身を覆い隠すと、同時に分散する。

そこには、五センチ程にまで縮小したレビンの姿があった。

「レビン……そんな事も出来たんだ…」

「あと、隠形や……泉先輩程の威力は出ませんけど…刃状態の『斬影』くらいしか、出来ませんけど……」

「「『斬影』撃てるの?」」

「一応……やって見せましょうか?」

そう言うとと、レビンは自身の魔力を魔道具に循環すると、刀の周囲に漆黒の粒子が集結して来る。

気合一閃とばかり、刀を振るう。レビンが小さい為、漆黒の刃も極小サイズだが、床に触れると同時に、五十センチ程の穴を開ける。

その光景に二人は呆気に取られ、何も言えなくなる。

「「あり得ない…」」

「ーーーっ!? そ、そうですよね……この程度の力しか出ないのに…泉先輩の魔法と同じ物なんて言って……ごめんなさーーー」

「……俺…いや、湊や律でさえ、この魔法マスターするのにまる一ヶ月は掛かったんだけど…」

「私も…大体同じぐらい…」

「えっ……!?」

俺の記憶が確かなら、初期の俺達三人の斬影は、レビンが放った物よりも威力や精度も落ち、どうやっても実戦で使える物ではなかった。

それをレビンは、たった六日で実戦でも通用するレベルで仕上げてきたのだ。

「…レビンが、こんなにも優れた特技を持っているとはなぁ…俺も完敗だ…」

「……うん…正直、私達が逆に卑屈になりそう…」

二人にベタ褒めされて、レビンは嬉し半分、恥ずかしさ半分で、照れた表情を隠す様に、泉のコートを持ち上げる。

今まで、レビンは貶された事はあっても、褒めて貰う事などなかった。

だからこそ、褒めて貰う事がこんなにも心を、幸せにしてくれる物だと知らなかったのだ。

「もう、二人とも…褒め過ぎです……」

顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに応じるレビンを見て、泉も嬉しそうに微笑んでいた。

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