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聖域戦線  作者: 桐ヶ谷港
ベルギス編
26/51

昔話

日本城咲区魔道学院戦闘班5ーA

朝海優と鬼宮愛は至極落ち込んだ表情で沈んでいた。その大きな要因を担っているのはーー同級生であり、チーム内では最大の戦力を誇る南座泉は二週間前に突然、何の説明もなく学校から姿を消したのだ。彼の家にも一度行ったが、家には誰も居らず無人状態になっていた。その理由は理事長、校長以外の教師でさえ、知らされていないというから、二人を心配させる種になっている。

「はぁ~」

「…はぁ」

「二人共、そんなにため息ばっかり付いてると幸せ逃げちゃいますよ。」

「……うん」

「…よーし、いつまでも落ち込んでられないし、丁度、来週から長期休暇だから何処かに行く?」

その言葉に反応したのか、真人が突如窓から教室に飛び込んで来る。どうやって三階の窓に飛び込んで来たのかは考えないでおこう。

「俺も、俺も!!」

「うん、そうだね。きっと泉君もその内に戻って来るよね……じゃあ、三人で何処に行く? 連休もあるし。」

明らかに真人を無視した三人に真人は落胆しながらも、諦める事なく割り込もうとする。

「もう、三人共、誰か重要な人を忘れてるんじゃないのかな?」

三人の輪に入ろうと懸命な動きを見せるが、しかし、真人の動きはクラスメイト達によって邪魔される。彼等もまたこの三人と旅行に行きたいのだろう。元々、このクラスの大半は愛派が多数存在したのだが、SOD事件以降に優や御代が入ってから見事なまでに三大勢力に変化していた。その三人と旅行に行けるかもしれないのだ。今、頑張らずしていつ頑張るというのだ。

「俺と、俺と行かない!?」

「いや、俺が彼女達と行くんだ!!」

「―――阻止」

「何だと!? くそ、なら阻止を阻止」

「ハッ、男が一緒に旅行なんて、危なっかしくて行ける訳ないでしょ?」

「そうよ、一緒に行くなら女子の方が良いに決まってるわ!!」

「ソウヨ。ソウヨ。」

「うわ、裏切り者だ!! 男のプライドを捨ててまで一緒に行きたいというのかよ!?」

「この変態! 気持ち悪いからアッチ行け!!」

「ぐはッ!!」

その後も女性陣対男性陣の対立は続き、痺れを切らした一部の生徒が暴れ出し、クラス全員を巻き込む乱闘状態になった時、ようやく事態の深刻さに気が付いた教師達によって殆どのクラスメイト達が取り押さえられていた。

結果、教室に残ったのは優達三人と今も船を漕ぎ続けている燐だけとなっていた。

「で、話が逸ちゃったけど……何処行く?」

「……うーん…」

「……あっ!? それなら、行くなら何かイベントしてる所の方が良いですよね?」

御代は何かに気が付いた様にごそごそと鞄を探る。

「あった。これです。しばらくお祭り騒ぎみたいですよ。」

御代が取り出したのは、一枚のポスターであった。色彩鮮やかなポスターには『武闘大会』の四文字が大々と書かれている。開催日は来週の週末と丁度休暇と合っている。

「開催地は……はぁ~、ここか…」

愛は深刻そうな表情を浮かべる。

「どうかしたの?」

「いやね、確かに首都は綺麗な所だけど……まだ、国全体の治安が悪いらしいのよ。地方の街にもよるけど、場所によると、裏ギルドが仕切ってる街もあるらしくて…」

「それにしても、ベルギスは久しぶりだなぁ…」

「えっ? 優、前に行った事あるの?」

「う…うん。昔にちょっとね。それにしても、危険なんだったら止めとく?」

「大丈夫ですよ。燐がいますし。危険な事は彼に任しちゃいましょ。」

御代の言葉に二人は驚きの表情を見せる。御代はニッコリと微笑みながら背後の机を指差す。二人はそれを認めて安心した様に頷く。

そこには寝息を立てて、船を漕いでいる佐々木燐の姿があった。




寒々とした洞窟に、所々で光が明滅しているが、十分な明るさとは呼べない。男は懐からけいを取り出すと、幾つかの連続した音を響かせながら、耳元に持っていく。

『準備は順調か?』

男は立ち止まる事なく、カツカツと洞窟の奥へと歩みを進めていく。

『はい、目標数値の八割を切っています。来週までには余裕で間に合います。』

その言葉には予測などという不確定な因子は含まれていなかった。例え、どんな危機的状況になろうとも必ず、目的を遂行するといった意思が感じられた。

『その返事を聞いて安心した。』

男は電話の向こう側には決して届かないが、柔和な微笑みを浮かべる。その姿を第三者が見ていたならば、吐き気がする程に気味が悪いと感じていただろう。

『はい。しかし、現状ではアレの制御は魔法だけでは難しく、凡そ規格外の魔力総量を所持した人間が数人と、浄化の力を持った巫女の生贄が必要となりますので、そちらの方も手回しお願いします。』

男は二十メートルはあろうかという巨大な門の前に辿り着く。男は門を力で押し切るのではなく、壊れそうなおもちゃに触れる様にしてそっと手を添える。

『あぁ…揃っている。いや、必然的に揃う事になる。』

ギギキィッーーー古びた音を鳴り響かせながら、門はゆっくりと開き、人一人が通り抜けられる程度の隙間を開ける。

『……成る程、そういう事ですか…』

男が門を通り過ぎると、それを感知した様に門は侵入者を逃がさない様に、ゆっくりと隙間を閉ざしていく。

『……ところで…話は変わるが、あの少年達はどうした? 見つけたのか?』

壁の隙間から突如、顕れた侵入者に驚く様にして、蝙蝠が近付いて来る。男は突然の事に慌てた様子を見せず、ただ横に腕を振るう。蝙蝠の翼が、胴体が内部から弾け、止めどなく大量の血や肉片が流れ落ちていく。

『いいえ、未だに消息不明でして……顔写真すら判明しない状況ですので…これ以上の詮索は不可能かと…』

血が飛び散るが、男の数十センチ手前で見えない壁に阻まれ、ゆっくりと垂れていく。

『……以前、その二人に返り討ちに遭ったという少年はどうした?』

岩肌の道が大理石の道に変化する。道に沿う様にして、百単位の純白の柱が並んでいる。柱は数十メートル上空にある天井まで突き抜けている。

『……目は醒めましたが、錯乱している様でして、詳しい事情は聴けません。』

地面から数十センチ盛り上がった祭壇は石を積み重ねて創られた石積壇であり、大の大人一人が余裕で横になれる広さがある。しかし、祭壇には何も供物が捧げられておらず、空白のままである。男が手を祭壇に宛がうと、男の周囲に敷き詰められていた魔方陣が効力を発揮する。

淡い光を放つ魔方陣に男は抗う事なく、ずぶずぶと呑み込まれていく。

『そうか……なら、この件は暫くは打ち切りだ。もし、奴等の目的が実験材料ならば、いずれ姿を露わす筈だ。』

目の前に直径百メートルにも及ぶ結界が映る。それは、幾重にも厳重な魔方陣が敷き詰められ、内部の存在を決して逃がさない様に創られた牢獄だ。

『はい、それでは、またーーー』

ツーツーと電話が切れる。いや、違う。男は電波さえ届かない不思議な空間に転移したのだ。

男は携帯を仕舞うと、悠長な態度で前方を眺める。対象との距離は一メートルも無いだろう。

そこにはギロリと身が捩る剣幕で、今か、今かと復活の瞬間を待つ伝説の存在がいた。

かつて、ベルギス全土を恐怖に陥れた白龍。純白に煌めく鱗、人間を一呑みにしてしまいそうな巨大な口。例え、何者であろうと紙切れの様に貫くであろう鋭く鮮烈な尖角。その全てが書物に遺されている記述のままである。いや、白龍の強さは記述などでは表せない。一度解き放てば、今度こそベルギス全土が焦土と化するだろう。

だからこそ、今は、開放出来ない。けれども、それも時間の問題だ。

「やっと……もう暫くの我慢だ…」

嬉々として粒やく声に反応したのか、龍は深い唸り声を上げた。




深夜12時過ぎ、男子寮の一室を宛がわれた泉達三人は、流石にこれ以上起きている様なら明日にも疲れが響くという理由で就寝していた。二段ベットの上部に泉、下部に湊、ハンモックにレビンが寝ている。

寮の部屋自体は閑散としていて寮から支給された物は机と丸椅子、ベッドだけである。大抵の学生は街まで買い物に行って寮に持ち込むのだという。

「……聞きたい事があるんだけど…良いか?」

周囲が静かなお陰で、声が透き通る様な錯覚を覚える。

「ん……どうした、泉?」

湊は眠たそうに瞼を閉じたまま答える。

「今朝、お前が言っていたこの学院にある唯一の鍵っての言うのは何なんだ?」

その言葉に湊は声を詰まらせる。

「どうせ、その様子じゃある程度の所まで予測はしてるんだろ?」

「あぁ……多分、俺の予測が確かなら―――」

「そうだ。だけど、一つだけ重要な鍵が抜けている。宝物を開けるには、開ける為の鍵が必要なんだ。それを調べる為に、この学院に忍び込んだんだ。」

「……そういう事か…」

「俺も国家機密事項とはいえ、黙ってるのも人が悪かったな………じゃあ、明日も早いから…俺は寝るよ…」





深夜二時過ぎ。

突如、音さえも発する事なく、泉達二人が居る部屋に人影が現れる。

月光によって映された身体を見る限り、侵入者は男性ではないらしい。身長は百四十センチ近く、体格を隠す様に、ぶかふがのコートを羽織い、顔が隠れるまで深くフードを着ているので詳しい事までは分からないが、間違いなく女性としか思えない。

人影はゆっくりと周囲の様子を気にする様にして振り返りながらも、二人に近付いて来る。

その瞬間、漆黒が闇を駆け抜けた。不安定な足場にも関わらず、ベッドから天井に跳躍すると、同時に身体を回転させて人影の傍を疾駆する。

「……何者だ?」

その声が響いた時、二段ベッドの下部から漆黒の刀が人影の首筋に向けられていた。ギロリと睨まれた瞳は今にでも自分を殺せるという意思が込められている様であった。先程の閃光の如き速さは目を引く為の囮という訳だ。人影が後ろ退さろうとした時、背後から刀がフードに当たるか当たらないかのぎりぎりの所で、止められている。

「……何てな、理紗…こんな時間にどうしたんだ?」

湊は、先程までの鮮烈な瞳とは打って変って明るい表情を浮かべ、二人は刀を首筋から外す。それを見て、人影は安心した様にホッと息を吐き出すと、フードを脱ぎ捨てる。

フードの下から暗闇を切り裂く様な金色の髪が垂れ下がる。昼間の様にツインテールにしている訳ではないらしく、今は髪留めを解いている。

「夜這いに来たって訳じゃないだろ………何かあったのか、そんな暗い顔して…?」

理紗の表情は昼間の明るさからは想像も出来ない程に暗く重たい物になっていた。

泉はその表情に見覚えがあった。SOD事件時に見せた燐や優の表情と重なって見えたのだ。不安や絶望に押し潰されそうになりながらも、決して負けない様に耐えている表情である。

次の瞬間、泉は自身の予想が的中していたのだと気付く事になる。

「ーーー助けて……二人共…お願い、助けて…」

理紗の瞳から堪えていた涙が溢れ出す。掠れた声が響き渡り、静寂の夜空に消え去っていく。

理紗は力無く床に腰を落とすと、瞳に溜まった涙を両手で擦り取る。




「もう、大丈夫?」

泉はハンドタオルを手渡しながら、俯いた理紗の顔色を確かめる為に、覗き込む。それ程までに体調が悪いという訳ではないのだろう。それを裏付ける様に、頬は薄く朱に染まっている。

「…うん…大丈夫……」

「…良かった。」

掠れ声で紡いだ言葉に、二人はホッと息を吐くと、真剣な面持ちを浮かべる。

「…そろそろ、詳しい話を聞かせてくれる?」

「……うん。だけど、その前に幾つか二人に質問があるの。嘘、偽りは決して言わないで欲しい。」

「……あぁ」

二人は緊張した様に表情を硬くして頷くと、ゴクリと唾液を飲み込む。

「二人は意思……本当の想いの強さを信じてる?」

二人は理紗の言葉に驚きの表情を浮かべ、自らの内に秘める深い記憶を探る。

今から七年前の遠い記憶だ。泉、湊、律の三人は別々の土地、複雑な想いを胸に秘めて、ある女性と出会っていた。年齢は三十代半ば近くだったそうだが、実年齢よりも風貌は若く、理紗と同じ、透き通る様な程に純粋な金色の髪を持ち、肩にはいつも背丈程はあろうかという長刀を背負っていた。

その当時から数えて、二年前に泉は両親を亡くしており、両親の同期の人間が、泉の後見人となってくれた。同期の人は三人家族であり、歳の離れた女の子と同様に、泉も本当の家族である様に接してくれた。

七年前、泉を狂わした、ある衝撃的な事件に巻き込まれ、その後に、泉は自身の弱さを恨む様になる。ーーーもっと自分が強ければ、あんな事は起こらなかった!! その想いが彼を動かし、両親が遺してくれた多額の財産を使い、様々な土地を巡り歩く、放浪の旅に出る事を決意したーーーいや、決意なんて高潔な想いではなかった。ただ、その現実を認めるのが嫌で逃げ出しただけなのだ。

幸い、両親はその想いを聞き入れ、応援してくれた。

放浪の旅の途中、後に泉の師匠となるある女性と出会った。その女性は突然、泉に『私の弟子になれ!』と言い放ったのだ。そのときの泉には、その女性が、自身の力に絶対なる信頼を持っている様に感じられた。泉は、その女性の実力が気になり、二人は手合わせする事になる。

結果は泉の惨敗に終わった。泉はまだ九歳だったとはいえ、特異体質の魔法と両親から鍛え上げられた技術、危機察知能力のお陰で、実力は並の大人達よりもずば抜けていた。

しかし、その女性に泉の黒刀が触れるどころか、擦れる事は決して無かった。まるで赤子と大人程の力量差だった。完全に泉の剣技を見切られ、魔法を捌き切られ、それに対して向こうは全く攻撃を仕掛けようとせずに、泉が疲労困憊になるまで戦闘は続いた。

戦闘が終了した時、改めて泉は自分から弟子にしてくれる様に頼んだ程に彼女には力があった。

それから二週間後、湊と出逢い、その一ヶ月後に律と出逢った。三人は師匠と出逢う前に、家族が死去で亡くなっていた事、三人全員が特異体質持ちである事もあり、直ぐに本音で打ち解け合い、互いに信頼する仲になっていく。

半年後、血反吐に満ちた猛訓練を終えた三人に、師匠はただ一言を残して一夜の内に姿を眩ました。

『想いの強さを信じろ。』

師匠らしい命令口調の言葉を決して忘れない様に、泉は心に刻み付け、師匠が消えた次の日には、城咲魔道学院の入学を決めたのだ。


二人が頷くのを見て、理紗は安心した様にホッと息を吐き出す。

「良かった……本当に…二人がお母さんの弟子で…」

その言葉に衝撃を受け、呆気に取られた表情で理紗を見詰める。

「えっ……お母さん? って、理紗のお母さん!?」

「確かに髪の色も似てるけど……こんな偶然あり得るのか……」

呆然と呟く泉を見て、理紗は心から嬉しそうに微笑む。

「うん。泉君が放った龍……あれは間違いなくお母さんの斬影だった。それに、お母さんの口癖。絶対にお母さんに間違いなーーーッ!?」

理紗は綻んだ唇をキッと締め付けると、人差し指を立てて周囲の様子を探る。

「静かにしてて…」

その声が此方に近付いて来る足音に掻き消される。今はまだ、二時を過ぎた時間帯であり、消灯時間はとっくに過ぎている。それに女子生徒を男子寮に連れ込んでいる所を寮母、父さんに見つかれば間違いなく説教ものだろう。

足音は間違いなく此方に近付いて来ている。慌てて泉達、二人はベッドに入り込み、理紗は飛び込む様にして姿を隠す。

三人は緊張した面持ちで運命の瞬間を待つ。

果たしてーーー寮母、父さんの耳には騒ぎは届かなかった、もしくわ、空耳だと思ったのか、泉達の部屋をそのまま通り過ぎる。

「ふぅ~、行ったか?」

「あぁ…多ぶーーーっぅゎ!?」

小さく悲鳴を上げた泉に見なとは慌ててベッドから這い出ると、泉のベッドを覗き込む。

「何これ?」

泉の腹部辺りの毛布がもぞもぞと動き、金髪の少女が息苦しそうに顔を出す。

「……苦しかった…」

理紗は泉の胸板に乗る様にしてベッドに入り込んでいた。突然の出来事に二人が反応出来ずにいると、理紗は頬を赤くしながらも膨らませる。

「だって……この部屋、何も無いから隠れる場所が何処にも無いから。」

確かに、本棚さえない、この部屋に寮母、父さんが入ってくれば、一目散に理紗の存在が露見するだろう。

「まあ、良いから、出ようぜ! 話も聞きたいし。」

理紗が軽く泉を睨み、落胆していたが、泉は変な間違いが起こる前にベッドから脱出する。

「……うん。あの…良ければここで話しちゃ駄目かな? 薄着で来たらから凄く寒くて…出来れば毛布貸してくれると嬉しいんだけど…」

「あぁ。良いよ」

その返事を嬉々として受け取り、身体を温める様に毛布を巻き付ける。

「じゃあ、少しだけ昔話に付き合ってくれる。」

昔、ある都市に三人の夫婦と一人の幼い少女が住んでいました。

少女は将来、騎士隊に認められ、活躍する事を目指し、当時は街の中でも有数の実力者であった母親に訓練を積んで貰っていました。元々、特異体質持ちであったお陰で三年後には、少女は同年代の子供達よりも、大人達よりも飛び抜けた力を持っていました。

そんなある日の事です。ベルギス人の軍隊に街が襲われました。母は侵攻を食い止めると、父親に少女を預け、大軍に向かって行きました。それが少女と母親の別れでした。しかし、ベルギス人の軍隊と母達、街のギルドを比べると多勢に無勢で、少女は父親に連れられて戦火に晒される前に街から脱出しました。しかし、運悪く父親と少女はベルギス人に捕まり、ベルギスの首都に連れて来られました。

殺される物と恐怖していた少女に、ある男性が条件を出しました。

『今、ここで父親とお前を殺すか。それとも、父親を助ける為に俺達に力を貸すか。』

少女は生きて父親を助ける為に、後者を選びました。彼等は少女の特異体質の魔法理論を解明する為に街を襲い、少女を攫ったのでした。

少女は一ヶ月近く研究室に監禁され、様々な実験の後に用済みとばかりに開放されました。しかし、父親だけは開放されませんでした。奴等には父親は殺されたのだと聞かされた時に少女は生まれて初めて、奴等を殺してやるという憎しみを覚えました。

しかし、今の実力では奴等には勝てないと判断した少女は、その二年後に国立大学魔道学院に入学します。

そしてーーー

「ーーーその少女が…今の私……」

話の途中で薄々勘付いていた。騎士隊とは日本の最大武力勢力であるが、創設されたのは今から二十年前だ。

「理紗……今の話は本当なのか…? 特異体質持ちの魔法理論を奪い取るなんて……くそっ! 禁忌か!? なら、今まさに律がその状況に追い詰められているんじゃないのか……?」

「えっ? 湊君、どうしたの!?」

「あぁ…俺達がこの学院に来た本当の理由…それを説明するよ。」

泉は今までに起きた出来事を順番に話していく。全てを聞き終えた時、理紗の表情が一段と暗くなっていた。

「そんな事があったなんて……」

「で、理紗は俺の実力を見て、一緒に忌道真を殺してくれる様に頼みに来たって訳か?」

「ううん、違う……私…この学院に来て、奴等を殺してやるって気持ちはいけない事なんだって考え直せた……だけど、奴等のした事に対する憎しみは消えない……だから奴等にはちゃんとした裁判を受けて罪を償って欲しい!!」

その返事を聞いて、泉と湊はニッと微笑みを浮かべる。その表情は泉がレビンを助けた時と同じーーー決して誰にも曲げる事の出来ない決意を感じさせていた。

「あぁ、俺で良ければ手伝うよ。」

「俺も二人に同感。全部……奪われた物を取り返しに行こうぜ!」

「二人共…ありがと…」


「で、何で理紗はこんな時間に来たんだ?」

話なら学院に居た時のいつでも出来た筈だ。深夜遅く、それも男子寮に押し掛けて来る必要性は無いからだ。

「あっ、それ、俺も思った。」

「えっ!? 二人共……まさか…気付いて無かったの?」

「「…何が?」」

二人は、慌てふためく理紗を不思議そうに眺めながら平然と答える。

「えーと、言い難いんだけど……本当に言い難いんだけど……」

「「…んっ?」」

「私、学院内でずっと見られてるみたいなの……って、言っても忌道真みたいな奴等じゃないよ!! 自分で言うのも何だけど…私……ゎぃぃ…みたいだし…」

ボソボソと言葉を呟やかれ、断片的な言葉が聞こえてくる。

泉達二人は未だに状況が飲み込めず、呆然とした表情で理紗を眺めている。

「ーーーもう……だから、私の外見を見て、一目惚れした人達がずっと影で隠れて覗いてたのよ!! そんな大勢の前で本音で話せる訳ないじゃない!!」

理紗は頬を真っ赤に染めると、八つ当たりとばかりに叫び声を上げる。

「……まあ、落ち着こうぜ…あんまり騒ぐと、また寮母さんがーーー」

ガチャッ

ドアノブが回される音が部屋に響き渡り、逃げ、隠れる隙さえ与えて貰える事なく、扉が開け放たれる。

「あっ…」

「えっ…?」

「ふふふ、さっきから五月蝿いと思っていたら……女の子まで連れ込んで……」

そこには、寝巻き姿の五十代の叔母さんが立ち塞がっていた。肩にまで届きそうな茶色の縮れ毛は寝癖か様々な方向に飛び跳ねている。

ギロリと鋭く煌めく瞳に、三人は危機的に追い込まれたのだと、感覚的に察知する。互いの身を寄せ合い、後ろ退さっていく。

「ふふふ…逃がさないわよ…!!」

三人は逃げられない恐怖に表情を一層に引き攣らせると、全身が震え上がらしていた。

次から書庫編へ突入します。


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