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--- ## 第5話 「笑った理由が、怖かった」



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## 第5話 「笑った理由が、怖かった」


朝。


教室に入った瞬間、空気がいつもと違った。


正確には――ルナの“隣”だけが違う。


「ねえ、その子だれ?」


女子グループの一人が、俺にそう聞いてきた。


指先が、ルナの座っているはずの席を指している。


……見えてない。


まただ。


ルナはそこにいるのに、誰にも認識されていない。


「何でもない」


そう答えるしかなかった。


ルナは黙って、俺の隣に座っている。


でも、その横顔は少しだけ硬い。


---


### 昼休み


事件は、昼に起きた。


「ねえ、朔くんってさ」


別のクラスの女子が、やけに距離を詰めてくる。


「今日一緒に帰らない?」


軽い冗談みたいな声。


いつもなら適当に流す。


でも今日は違った。


隣に、ルナがいる。


……はずなのに。


誰も彼女を見ていない。


それなのに――


空気だけが重くなる。


---


「いいよ」


俺がそう答えた瞬間だった。


机の下。


誰にも見えないはずの場所で。


指が、ぎゅっと掴まれた。


ルナだ。


見えないのに、そこにいる。


そしてその手は、少しだけ強い。


痛いくらいに。


---


### 放課後


「なんで?」


帰り道、ルナがぽつりと言った。


声は静か。


でも、少しだけ震えている。


「何が」


「さっきの女の人」


「あれは別に……ただの会話だろ」


「そう」


ルナはそれだけ言って、黙る。


でも、歩く速度が少し遅い。


いつもなら隣にぴったりついてくるのに、今日は半歩後ろ。


その距離が、やけに遠く感じる。


---


### その夜


家に戻っても、ルナはあまり喋らなかった。


ソファに座って、窓の外を見ている。


「怒ってるのか?」


「違う」


即答。


「じゃあなんだよ」


少しの沈黙。


ルナはゆっくり言った。


「怖かった」


その言葉に、少し驚く。


「怖い?」


「あなたが、私じゃない人に笑ったの」


「……それだけで?」


ルナはこっちを見ないまま続ける。


「私、たぶんおかしい」


「でも」


小さく息を吸う。


「あなたが他の人を見ると、いなくなる気がする」


その言葉が、重い。


嫉妬なんて言葉じゃ軽い。


これはもっと“根の深い不安”だ。


---


ルナが初めて、こっちを見る。


その目は、いつもより少しだけ濡れていた。


「私って、邪魔?」


その一言が、胸に刺さる。


「違う」


即答するしかなかった。


「じゃあ……」


ルナは少しだけ笑う。


でも、それは安心じゃない。


壊れそうな笑い方だった。


「私だけ見ててほしいって思うのは、変?」


---


## エピソードタイトル


**「見えないのに、誰よりも近くにいる」**


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