## 第12話 「安定したはずの世界が、少しずつ歪む」
---
## 第12話 「安定したはずの世界が、少しずつ歪む」
朝。
ルナは、そこにいた。
昨日までの“薄さ”が嘘みたいに、はっきりと存在している。
ソファに座る姿も、呼吸の揺れも、ちゃんと“人間”だった。
朔は一瞬だけ安心する。
――成功した。
そう思ってしまうくらいには。
---
「朔」
「ん」
「今日、普通に眠れた気がする」
ルナは少し笑う。
その笑顔は、今までで一番自然だった。
「お前、やっと安定したな」
「うん……たぶん」
ルナは自分の手を見て、小さく握る。
「ちゃんと、ここにいる」
---
### 学校
教室。
誰もルナを“見ている”。
昨日までの「空白」が消えている。
クラスメイトが普通に話しかける。
「ねえ、その子誰?」
「転校生?」
朔の胸が少し軽くなる。
成功だ。
そう思った。
---
でも。
---
### 違和感
昼休み。
朔は気づく。
ルナが“笑いすぎている”。
いや、正確には――
**周りに合わせすぎている。**
必要以上に明るい。
必要以上に“普通”。
---
「なあルナ」
「なに?」
「無理してないか?」
ルナは一瞬止まる。
そして笑う。
「無理ってなに?」
その一瞬の“間”が、引っかかる。
---
### 反動
放課後。
朔が荷物をまとめていると、教室の空気が一瞬だけ変わる。
ざわり、とした感覚。
ルナが――一瞬だけ“重なる”。
二人に見える。
同時に、別の場所にもいる気がする。
「……え?」
朔の視界が揺れる。
ルナが二人いる。
いや、違う。
**ルナが“増えている”。**
---
「朔」
ルナの声が複数重なる。
教室の中に、同じ声がいくつも響く。
「朔」
「朔」
「朔」
---
朔は立ち上がる。
「おい……何だよこれ」
ルナは困惑している。
でも、その“困惑”すらズレている。
---
一瞬。
ルナの輪郭が崩れる。
“固定されすぎた反動”みたいに。
---
朔は気づく。
「安定って……こういうことかよ」
---
図書室の言葉が頭に浮かぶ。
> 観測・呼称・感情で固定される
でも今起きているのはその逆だ。
**固定されすぎた存在が、複数の可能性に分裂し始めている。**
---
ルナが小さく言う。
「朔……私、なんかおかしい」
「わかってる」
朔は近づく。
手を伸ばす。
---
触れた瞬間。
ルナが一瞬だけ“重なる”。
元に戻る。
でも――完全じゃない。
---
「これ、ダメなやつだろ」
朔の声が低くなる。
ルナはうなずく。
「うん……私、増えてる気がする」
---
沈黙。
安定の代償は、“過剰な存在化”だった。
---
ルナは少しだけ笑う。
「朔のおかげで、ここにいすぎちゃったのかも」
「ふざけんな」
朔は即答する。
---
でもルナは、少しだけ嬉しそうだった。
「でもね」
「ん?」
「いなくなるよりは、まだいい」
---
その言葉が、逆に怖い。
---
## エピソードタイトル
**「安定は、存在を増やしすぎると歪みに変わる」**
---




