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1章8話 静かな夜
扉が閉まると、
部屋の中に再び静寂が戻った。
男はしばらく動かず、
兵士の残した気配が薄れていくのを
ただ感じていた。
手ぬぐいを置き、
寝台の縁に腰を下ろす。
窓の外では、
風がどこか遠くで木々を揺らしている。
その音さえ、やけに遠く聞こえた。
胸に手を当てる。
脈は弱い。
けれど、確かにある。
「……静かだな」
呟きは、
自分の声というより、
空気に溶ける音に近かった。
目を閉じると、
戦場の残響がほんのわずかに浮かんでは消える。
叫び声も、怒号も、
もうどこにもない。
ただ、静けさだけが残っていた。
男はゆっくりと横になり、
天井を見つめた。
この身体がどこまで自分で、
どこからが“借り物”なのか。
そんな問いが、
波紋のように胸の奥で広がっていく。
「……休め、か」
兵士の言葉を思い出し、
目を閉じた。
眠れるかどうかは分からない。
けれど、
今はただ、
この静けさに身を沈めるしかなかった。




