表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れたひとり、世界を歩く  作者: ルーラ
第一章 王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

1章6話 確認

兵士が去り、扉が閉まると、 部屋の中に静けさが落ちた。


 男はしばらく動かなかった。

 まるで、自分の輪郭がどこまで続いているのか、 確かめるように。

 

 やがて、ゆっくりと右手を持ち上げる。

 指先を見つめ、一本ずつ曲げ伸ばしする。

 関節が鳴ることはない。

 滑らかすぎるほど滑らかに動く。


 「……問題ない」


 淡々とした声。

 しかし、その裏には微かな安堵があった。


 次に、手のひらを裏返す。

 皮膚の色、血管の浮き方、

 戦場で酷使したはずの手にしては、

 傷が少なすぎる。


 「治ってる……というより、 最初からなかったみたいだね」


 自分でも説明できない違和感。

 けれど、それを気にする様子はない。


 胸に手を当てる。

 脈は弱い。

 生きていると言うには頼りなく、 死んでいると言うには微かに温かい。


 「前より……少しだけ強い?」


 呼吸を深くしてみる。

 肺が動く感覚はある。

 だが、空気が身体のどこまで届いているのか、 自分でもよく分からない。


 「……まあ、動けばいいか」


 肩を回す。

 筋肉の張り具合を確かめるように、 ゆっくりと腕を振る。


 その動きは、 戦場で身体を整えていた兵士の癖そのものだった。


 次に、足を軽く踏みしめる。

 床板がわずかに軋む。

 重さはある。

 だが、重心がどこにあるのか曖昧だ。


「……まだ馴染んでない」


 そう呟く声は、 まるで他人の身体を借りていることを 当然のように受け入れている響きだった。


 袖をまくり、前腕を押す。

 皮膚の弾力は人間のそれに近い。

 しかし、押した指の跡が戻るまでに ほんの一瞬の“遅れ”がある。


 「……ふうん」


 興味があるのかないのか分からない声で、

 男は袖を戻した。


 最後に、首筋に触れる。

 体温は低い。

 けれど、冷たすぎるわけでもない。


 「このくらいなら、ばれないかな」


 その言葉は、

 誰に向けたものでもなかった。


 ちょうどそのとき、 扉がノックされた。


 「……入るぞ」


 先ほどの兵士が、 桶と手ぬぐいを持って戻ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ