1章3話 補給拠点ロウザ村
北へ向かう補給路は、戦場とは違う静けさをまとっていた。
血の匂いはまだ残っているが、風は少しだけ澄んでいる。
荷馬車の轍が深く刻まれた道を、主人公は淡々と歩いた。
腕の中には、先ほど息を引き取った兵士の身体。
「……重さは変わらないんだね。死んでも」
そんな独り言を漏らしながら歩いていると、
遠くに木柵と見張り台が見えてきた。
ロウザ村──
この戦場の補給拠点として軍が使っていた小さな村だ。
近づくと、見張りの兵士が慌てて槍を構えた。
「だ、誰だ! ……って、おい……その身体……!」
男は軽く手を振った。
「届け物。道に落ちてたから拾ってきたよ」
兵士は青ざめ、仲間を呼ぶ。
「おい! 負傷者だ! いや……これ……死んでる……?」
村の入口がざわつき始める。
治療師が駆け寄り、兵士の顔を見て息を呑んだ。
「この人……前線の第二隊の……! 奥さんが……!」
男は首を傾げた。
「奥さん、いるんだ。じゃあ渡した方がいいね」
その無造作な言葉に、周囲の兵士たちは顔をしかめた。
だが彼は気にしない。
「……おい、誰かマーヤさん呼んでこい!」
兵士の一人が駆け出し、残った者たちは主人公と距離を取った。
槍を構えたまま、しかし攻撃する気配はない。
ただ“どう扱えばいいのか分からない”という空気だけが漂っていた。
男は腕の中の遺体を見下ろし、ぽつりと呟く。
「人間って、死ぬと急に静かになるよね。
さっきまで喋ってたのに」
兵士たちは息を呑んだ。
そのとき、村の奥から女性が走ってきた。
髪は乱れ、目は涙で赤く腫れている。
「あなた……! あなたなの……?」
男は淡々と遺体を差し出した。
「はい、どうぞ」
女性は崩れ落ちるように遺体を抱きしめ、
嗚咽が村の入口に響いた。
兵士たちは目を伏せ、誰も主人公を見ようとしない。
「……お前、どこの隊の者だ?」
低い声がした。
振り向くと、鎧を着た中年の男が立っていた。
この村の指揮官らしい。
男は軽く手を挙げた。
「隊? ああ……知らない」
「知らない? 戦場にいたんだろう?」
「うん。でも“所属”とかはないよ」
指揮官は眉をひそめた。
「……傭兵か?」
「違うよ。ただ歩いてただけ」
「戦場のど真ん中をか?」
「うん。」
その瞬間、空気が凍りついた。
兵士たちは一歩、二歩と後ずさる。
女性の嗚咽だけが、村の入口に残った。
指揮官は慎重に言葉を選んだ。
「……お前は、何者だ?」
男は少し考え、曇った空を見上げた。
「何者でもないよ。
ただ、ここに落ちてきただけ」
「落ちて……?」
「うん。外側から」
指揮官は理解できず、兵士たちは怯えた目で主人公を見る。
男は気にせず、村の中を指差した。
「ねえ、水と食べ物と、寝る場所が欲しいんだけど」
指揮官はしばらく黙り込んだ後、
深く息を吐いて言った。
「……案内してやれ。ただし、目を離すな」
兵士たちは緊張したまま主人公を囲む。
男は飄々と笑った。
「大丈夫だよ。変なことはしない。 興味がないから」
その言葉が、村人たちには一番怖かった。




