1章12話 なんか怯えられてない?
まだまだ序章だしねーゆっくりやろー
扉を閉めると、廊下の空気がひどく澄んで感じられた。
(……なんか疲れたな。別に怒られたわけでもないのに、妙に疲れる)
ソルは軽く肩を回しながら歩き出した。
廊下には兵士たちが行き交っている。
だが、ソルに声をかけてくる者はいない。
ちらりと視線を向けては、すぐに逸らす。
(……まあ、知らないやつが司令官室から出てきたら気になるよな)
すれ違った兵士たちの小声が耳に入る。
「……あいつ、例の“村で拾われたやつ”だろ」
「そうらしい。治療師が“様子がおかしかった”って言ってたやつ」
「何があったんだっけ、あの村……?」
「知らん。報告書もぼかされてたしな」
ソルは聞こえないふりをして歩き続けた。
(ぼかされてた、ね……
まあ、俺もよく覚えてないし、説明しろって言われても困るよな)
窓から差し込む朝の光が眩しい。
外では荷車の軋む音と、補給班の怒鳴り声が響いている。
「おい、その箱は医療班だ! そっちじゃない!」
「す、すみません!」
補給基地らしい慌ただしさだ。
ソルはその横を通りながら、
自分だけが妙に浮いているような感覚を覚えた。
(……村で何があったか、か。
死体を運んだのは覚えてるけど……
あれ、そんなに変だったのかな)
角を曲がると、
兵士が一人、書類を抱えて走ってきた。
ソルに気づくと、わずかに足を緩める。
「あ……その……お前、あの……村の……」
ソルは軽く会釈した。
「どうも」
兵士は何か言いかけたが、
結局何も言わずに走り去っていった。
(……なんなんだろうな。
別に怖がられるようなことした覚えはないんだけど)
ソルはため息をひとつついた。
(さて……どうすっかな。
医務官のところ行けって言われたけど、
“今すぐ”とは言われてないし……
とりあえず腹減ったな)
そう思いながら歩き出したところで、
背後から声が飛んできた。
「おい、そこの! ちょっと待て!」
ソルは振り返る。
兵士が一人、息を切らしながら駆け寄ってきた。
「……お前だ。医務官が呼んでる。
“時間のあるときに来い”って言ってたが……
一応伝えとく」
ソルは軽く頷いた。
「分かりました。あとで行きます」
兵士は少しだけ眉をひそめたが、
何も言わずに去っていった。
ソルはその背中を見送り、
再び歩き出す。
(……よし、飯食って寝よ)
飄々とした足取りで、
ソルは補給基地の廊下を進んでいった。




