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第74話-2:魔王の間に浮かぶもの

 はたして魔力で作られた盾に手応えがあるのか、その心配は杞憂に終わった。黒い盾はしっかりとシマノの打撃を受け、ごとりと床に落ちた。纏っていた炎も消えかかっている。


 もう、ニニィはすぐそこだ。


「くっ……」


 エトルが再び何かを召喚しようと短い呪文を唱えだした。


「させるかっっ!!」


 シマノが再び銃を振りかぶり、エトルのフード目掛けて振り下ろした。

 だがその一撃は空を切る。シマノは危うく前のめりに倒れ込みかけた。


「うおおっと!?」


 いつの間にか、そこにいたはずのエトルは姿を消し、ニニィだけが床にぐったりと横たわっていた。


「ニニィ!」


 無我夢中で駆け寄り、シマノはニニィを抱き起こした。幸い呼吸はしているようだったが、顔色は青褪め、シマノの呼びかけにも反応しない。


 とはいえ、ニニィの容体ばかりを気にしてもいられない。姿を消したエトルがどこへ行ったのか。どこから不意打ちを仕掛けてくるのか、わからないのだ。


「シマノ、上!」


 ユイの声にシマノはすかさず頭上を確認する。


 シマノとニニィがいる壁際から少し離れた、魔王の間の中央。その上部に漂う黒いデータの塊。


 そのすぐ傍に、エトルは浮遊していた。


 エトルの全身の輪郭は、バチバチと不穏な音を立てながらチラつきを起こしている。ニニィの上級職固有スキルを奪ったことで、身体が保存データの容量限界を超えてしまったのかもしれない。


(……あいつも相当無理してるんだな)


 シマノはニニィが目を覚ますよう声をかけ続けながらも、エトルの動向に注目した。エトルはシマノたちには目もくれず、黒いデータの塊をじっと見つめている。


「随分と長い間お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 エトルはデータの塊に向かって恭しく頭を垂れ、空中で(ひざまず)いている。まるで、崇拝する魔王に(かしず)くかのように。


「まさか、あの中に魔王が……?」

「ちがうの」


 すぐ傍で疑問に答えたその声に、シマノは喜びと安堵でいっぱいになった。ニニィが目を覚ましたのだ。


「ニニィ! よかった、大丈夫?」


 シマノの弾む声を聞き、ユイもこちらへ駆け寄ってきた。さらにエトルが黒い軍団での追撃を止めたのか、ムルとキャンもこちらに来ることができた。


 けれどニニィはユイたちに構うことなく、シマノに必死で何かを訴えかけている。


「あたしは大丈夫だから、だからお願い、エトルを止めて」


 シマノは面食らった。ニニィまでセクィと同じようなことを言うなんて。それほどまでにエトルはまずいことを企んでいるのだろうか。


「どういうことだ、ニニィ? あの中に魔王が隠れてるのか?」


 シマノの問いかけに、ニニィはふるふると首を横に振った。


「ちがう。あれが…………魔王()()()()よ」


 そう言うとニニィは天井を見上げた。皆もつられて視線を上げる。


 黒い塊。ぐちゃぐちゃに押し込まれたソースコード。そこから様々な()()が次々と産み出されては崩壊し、再び塊の中へと取り込まれていく。

 醜悪なモンスター、意味不明な形状のオブジェ、扉の取手だけが無数に並んだもの、か細く白い腕、脚。


 ()()こそが、エトルが命に代えても救おうとしている魔王だと、ニニィは本気でそう言っている。


 ニニィの発言に同調するかのように、エトルが口を開いた。


「魔王様は今も幾万年、幾億年にも匹敵する苦痛の最中(さなか)にいらっしゃいます」


 エトルはゆっくりと立ち上がり、シマノたちを見下ろしている。


「魔王様を蝕み続ける忌まわしい苦痛から解き放って差し上げる、それだけが今の僕の……」


 エトルの手が、目深に被っていたフードを外す。長くまっすぐ伸びた髪。切れ長に縁取られた瞳。そのいずれも、この世界の光を全て吸い取ってしまうかのような深い黒色を湛えていた。


この世界(アルカナ)でたった一人、ダークエルフの形を保ったまま生き残ってしまった僕の、果たすべき使命なのです」


(予想通り、か)


 シマノは一人小さく頷いた。キャンがぽかんと口を開けて驚いているようだが、正直、エトルの正体がダークエルフであったことは完全に予測済み、既定路線だ。


 問題は、あの魔王とされるものの正体である。


「嘘よッ!!」


 突然の悲痛な叫びに、シマノだけでなく仲間たちも一斉に振り向いた。


「あれが魔王様!? あんなもののために、エトル様が死ななきゃならないっていうの!?」


 セクィだ。蜘蛛の脚を深く貫いていた黒い棘が消えたようで、自立することもままならないセクィは床を嘗めるように這いつくばり、叫んでいる。


「こんなのおかしいじゃない! こんなの、だって、魔王様は、魔王様はエトル様の、」

「セクィ」


 エトルの落ち着いた声が、セクィを制した。セクィを見つめるその瞳はとても穏やかだった。

 セクィはそれ以上言葉を続けられず、俯いて涙を流している。続いてエトルはユイに視線を向ける。


「ユイ。先ほど僕の能力で『記憶』を盗めるのではないかと推測されていましたね。素晴らしい考察です」


 発言の意図を掴みかねているのか、ユイは眉間に皺を寄せている。構わずエトルは語り続けた。


「貴方の予測通り、僕たちダークエルフはそれぞれ固有の『記憶』にまつわる能力を有しています。僕の能力は『記憶の複製』。他人の記憶を複製し、自分のものにすることができます」


 とんでもないチート能力だ。自分のことは棚に上げ、シマノは思わず身震いした。


「ただ、残念なことに僕のこの力では記憶を()()()()ことができません。無生物や空間の記憶であれば別なのですが、人に対しては複製しかできないのです」


 そこでエトルはニニィに目を向ける。その黒く長い髪が、ゆったりと纏ったローブの裾が、激しく歪み、明滅する。保存データの容量限界だ。


「だからこそ、ニニィの力が必要だったのですよ。魔王様を苦しみから解放して差し上げるために」


 エトルの周囲に複数の魔法陣が出現し、複雑な術式が書き込まれていく。ニニィから複製した記憶(データ)を使うつもりなのだろう。


「終わりにしましょう、魔王様」


 エトルが、魔王とされるデータの塊にそっと手を差し伸べた。

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ゲーセンで遊んでたあのパズルボブルがご家庭で遊べる喜び、すごかった

ずっとキャッチ君使ってキャッチザハート言わせてた記憶

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