第73話:最終決戦、始まっちゃうかもしれない
※いつもより文字数多めです
※痛そうな描写があります! 苦手な方は注意してください~!
「何だ……あれ……」
目の前に立ちはだかる金属製の扉をムルの力で周囲の石壁ごと押し倒し、シマノたち一行は魔王の間に突入した。
その第一声がこれである。
シマノの目に飛び込んだのは、次々と形を変えながら浮遊する、ソースコードを丸めたような黒い塊だった。
理解の範疇を軽く飛び越えたその物体に、シマノの思考回路は完全にフリーズしてしまった。
シマノに続いてその塊を目撃したユイやムルも、さらにセクィまでもが同様に言葉を失い呆然と宙を見上げている。
「うおーーーーなんかヘンなの浮いてるーーーー!? 怖えーーーー!!」
キャンの元気すぎる反応に、シマノは図らずも我に返った。ユイたちも冷静さを取り戻したようだ。
「シマノ、恐らくあれは何らかの記憶の塊。放っておいても実害を与えてくる可能性は低い。あれに構わずまずはニニィを探すべき」
「そうだな」
シマノは頷き、暗く見通しの悪い魔王の間を隈なく見渡す。
――その声は、黒い塊のすぐそばから聞こえてきた。
「おや……思っていたよりも早かったですね」
まるで漆黒の闇の中から浮かび上がってきたかのように、暗い部屋の奥からゼノの幹部エトルが姿を現した。
彼の纏う黒いフード付きローブは、闇に紛れてその輪郭を掻き消してしまう。見失わないように、シマノはユイに目線で合図した。パッ、と強い光がエトルを照らし出す。両目ライトだ。
ライトで照らした先、石造りの壁に凭れるようにニニィが座り込んでいた。左右それぞれの手に枷を嵌められ、高所から鎖で繋がれているようだ。
「ニニィ!!」
シマノの声に、ニニィはピクリとも反応しない。
ユイが素早く光線銃を抜き放ち、ニニィを繋ぎ留めている鎖を断ち切った。脱力したニニィの上体が、ぐらりと前方に倒れ込む。
「ニニィおねーさん!!」
素早さに定評のあるキャンがすぐさま駆け寄ろうとした。が、既にニニィの傍にはエトルが膝をつき、倒れ込んだ彼女の身体をそっと抱き支えていた。
「遅かったですね。ニニィは魔王様の贄となり、その力の全てを魔王様のために捧げるのです」
エトルの言葉にシマノは動揺する。さっきセクィから聞いた話では、ニニィの代わりにエトル自身が命を差し出すことになっていたはず。
「話が違うんだけどセクィ!?」
慌ててセクィに確認を取ろうとしたものの、残念ながらもうセクィの目にはエトルしか映っていないようだ。
「エトル様! もうやめてください! これ以上、魔王様のために自分を犠牲にしないで!」
セクィの目線では、あくまでも魔王の贄となるのはニニィではなくエトルのようだ。
シマノは何とか状況についていこうと頭を整理するが……情報が少なすぎてさっぱりわからない。ただ、このままではニニィが危ないことだけは間違いないだろう。
「ニニィを放せ!」
「それは出来ませんね」
エトルは冷たく言い放つと、抱きかかえたニニィを仰向けにさせ、彼女の小さな額に手を翳した。その手が闇の魔力を纏いだすと同時に、ニニィが苦しそうに呻き声を上げ始める。
「ニニィおねーさんっ!!」
堪らず駆けだそうとしたキャンの足を、黒い手がしっかりと掴んでいる。エトルの力で生み出された幾本もの黒い腕は、キャンの身体に纏わりつくように伸び、とうとう床に組み伏せてしまった。
「キャン!」
ムルが石造りの床を操作し、強制的に黒い腕をキャンから引き離そうとする。
「無駄です」
エトルはこちらを見もしないで二言三言呪文を呟いた。彼の魔力が赤黒く矢のような形を為す。その先端は真っ直ぐムルに向けられている。
「まずい!」
シマノは焦ってウインドウを開いた。しかし、今この状況で打てる手はほとんどない。
「避けろ、ムル!」
シマノの言葉を聞いてか聞かずか、ムルは咄嗟に石壁を作り、エトルの攻撃を防ごうとした。
だが、エトルの放った矢はその石壁を易々と貫き、失速することなくムルへと迫る。
「ムル!!」
シマノの声に、キャンの声が重なった。
その瞬間、ムルの身体を光のバリアが包み込んだ。
眩い光がエトルの邪悪な魔力を浄化する。赤黒い矢は影も形もなく消滅した。
突如光を放ちだしたムルの様子に違和感を覚えたのか、エトルが漸くこちらに目を向けた。
「光の加護だと? 馬鹿な……」
ムルの周囲は淡い光の球体で覆われている。それは王家の姫様が使う「光の加護」と全く同じものに見える。
しかし、光の加護は王家の血を引く者の固有スキルだったはず。
「何が起きてるんだ……?」
シマノがウインドウを確認すると、確かにムルには光属性の「加護」状態が付与されていた。それ以外のステータス値には特に変化が無さそうだ。
姫様から貰った指輪の効果だろうか。いや、加護の力は王家の者しか使えなかったはず。
……光といえば。うちのパーティには指輪の力で全身が発光する奴がいたな。シマノはウインドウをスワイプし、今朝聖騎士になったばかりのキャンのステータスを覗こうとした。
まさに、その時だった。
「うおおおお!? なんか光ってるぅっ!?」
当のキャン本人が驚愕の声を挙げている。その首元から強烈な光が漏れ出している。
その光はどうやらムルが贈った「聖なる護石」から発せられているようだ。護石はペンダント状に加工され、キャンの首から提げられている。
そのペンダントから放たれた光は、キャンに纏わりついていた黒い腕を根こそぎ浄化してしまった。
それだけではない。キャンの周囲に、突如として四枚の光の盾が出現したのだ。キャンの胴体をちょうど護れる程度の大きさの盾が、前後左右をガードするように浮遊し、ゆっくりとキャンの周囲を回っている。
パラディン固有のスキルだろうか。その現象は、獣の少年の心をガッチリと掴んだ。
「な、なんか……カッケー……!」
キャンは目を輝かせ、嬉しさのあまり上がる口角も揺れる尻尾も抑えきれずにいる。
何が起きたのかはよくわからないが、仮に聖騎士の力が覚醒したのだとすれば、シマノたちにとっては好都合だ。
「いいぞ、キャン! その力でみんなを守ってくれ!」
「もちろんだぜ! 極光聖騎士キャン様の大活躍、その目に焼き付けろ~~~~!」
完全に調子に乗りすぎている気がするが、大丈夫だろうか。
自ら調子に乗せておいて何だが、シマノはハラハラしながらキャンの様子を見守った。何せ相手はゼノの幹部最強格、エトルなのだ。
「生憎ですが、子どもの相手をしている暇はないのですよ」
エトルが地面から大量の黒い人影を召喚する。地底で戦った王都正規軍をシルエットにしたもののようだ。
黒の軍団とでも呼ぶべきだろうか。それらはふらふらと隊列を組み、よろめくように前進を開始した。
「我に任せろ」
ムルが範囲攻撃を仕掛ける。石の床に足を取られた黒の軍団は、為す術なく藻掻きながら見る見るうちに体力を失っていく。
ところが、せっかく召喚した軍団の体たらくを前にしても、エトルは一切動じていない。
「物量で押し続ければ、貴方はこちらに来られない」
その言葉通り、エトルは次から次へと人影を生み出し続ける。その度にムルが対処してはいるものの、キャンが前に出るための突破口は作れていない。このままでは、ニニィが危ない。
その様子を、ユイは冷静に観察していた。今、エトルはキャンとムルの相手をするので手一杯だ。この状況ならきっと、ニニィを避けてエトルだけを正確に撃ち抜くことが可能なはず。
ユイは静かに素早く光線銃を抜いた。その照準を寸分の狂いなくエトルの肩口に向け、引き金を引いた。
「……させないよッ!」
セクィだ。半分蜘蛛と化した巨体が、思いきりユイに衝突する。光線銃の狙いは大きく逸れ、その軌道はニニィへと向かっていく。
「っ……!」
放たれた光線は紛れもなくニニィの小さな身体を貫くはずだった。
ところが、そこには……ニニィに覆い被さるように庇うエトルの姿があった。ローブには焦げたような穴が開き、ぼた、ぼた、と血液の垂れる音が響く。
「エトルが……なんでだ……?」
眼前の状況に混乱し、シマノは呆然とエトルのローブに開いた穴を見つめていた。
その穴が、揺れる。エトルが動いたのだ。
「お怪我は、ありませんか……?」
「大丈夫よ……」
「……良かった」
ニニィの無事を確認し、エトルは安堵の溜息を洩らした。
いったい何が起きているというのか。シマノがユイの方を見ると、撃ったユイ自身も困惑しているようだ。
その隣で、エトルの負傷を目の当たりにしたセクィが悲痛な叫び声をあげる。
「いやああああ!! エトル様ああああ!!」
鉤爪のもげた脚をバタバタと動かし、セクィは無我夢中でエトルに駆け寄ろうとした。
その脚を、セクィの背丈ほどある黒い大棘が貫く。エトルの力で生み出されたそれは一本、また一本とセクィの足元から飛び出し、蜘蛛の脚を次々と串刺しにしていった。
大棘に貫かれるたび、セクィの喉から痛みに悶える悲鳴が絞り出されていく。
「オイ! 蜘蛛おねーさんにひでーことすんなよ!」
エトルの元に辿り着けないまま、せめて声を上げようとキャンが叫ぶ。それを気にかけることもなく、撃たれた傷もものともせず、エトルはいつも通りの調子でセクィに告げる。
「僕の邪魔をしないでください」
そんなつもりはなかった、とセクィは焦って口を開く。
「そ、そんなっ、アタシはただ……!」
慌てて言い訳を並べようとするセクィに、エトルは静かに呼びかけた。
「セクィ。僕は……貴女を、殺したくありません」
その言葉は、セクィを絶望の淵に突き落とすのに十分だった。穏やかな、そして明確な拒絶。エトルは、セクィが懸命に差し伸べようとしたその手を、振り払ったのだ。
「だったら、そいつを殺すわ」
怒りなのか悲しみなのか、セクィの声は震えていた。
「アタシの命がどうなったっていい。アナタが、魔王様を救うことを諦めてくれればそれでいい」
これはかなりまずい展開だ。何が何でもセクィを止めないと、ニニィの命が危ない。
セクィはとにかくエトルに魔王救済をさせたくないようだ。であれば、シマノの採るべき択は限られてくる。
「ちょーーーーっと待ったーーーー!!」
シマノは高々と右手を挙げながら、セクィとエトルの間に割って入った。最終決戦の場には些か相応しくない振る舞いな気がするが、気にしたら負けだ。
「エトル、聞いてくれ!」
とりあえず声を掛けてみたまではいいとして、この先どうするか、その策はまだシマノの脳内に存在していない。
果たすべき目的は二つ。セクィにニニィを殺させないこと。そのために、エトルに魔王を救わせないこと。
これを達成するためには「エトルを犠牲にせず魔王を救う方法を考え、提示する」ほかない。
今のシマノは魔王がいったい何者なのかも思い出せない。それでも、何とかするしかないのだ。
「俺にはこの世界のルールを書き換える力がある。それを使えば、魔王を救えるかもしれない」
デバッグモード。その力をエトルに開示する。シマノの静かな戦いが、今始まろうとしていた。
その頭上で、無秩序に変形し続ける黒い塊は、不気味な存在感を放ち続けていた。
今回の好きなゲーム【どうぶつの森e+】
カードeリーダー+めっちゃ懐かしい
このときで記憶が止まってるので、新作で知らん住民増えてたりシームレスにスクロールできたりするの衝撃すぎた




