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第71話:気合の入ったムービー、ボタン連打でスキップしたい

「無力化……? 出来るのか、俺に?」


 シマノの疑問に、ユイは静かに力強く頷いた。


 それはまさに福音だった。能力を無力化さえしてしまえれば、たとえ相手がエトルであっても恐れることなどない。デバッグモードの真価を発揮すべき時が来たというわけだ。


「ただ、エトルもこの事実に気づいているはず。シマノ。エトルはほぼ確実に、初手で貴方を仕留めようとする」

「そ、そんな怖いこと言うなよ~」

「だからこそ、対策が必須。シマノを失えば、私たちに勝機はない」


 いつになく真剣なユイの表情にシマノは固唾を呑んだ。初期に負け確のイベント戦で戦った強敵と、今度は本気で戦う。これがただのゲームなら、所謂胸アツ展開にあたるのだが……。


 あの時とは違い、負ければきっとゲームオーバーだ。そうなれば、転移してしまっている以上、この身体がどうなるのかはわからない。最悪の場合、死ぬことだってあるだろう。


「でも、やるしかないってことだよな」


 シマノは両手で自分の頬を挟むように叩き、気合を入れた。


「……よし。ユイ、俺と一緒に作戦を考えてくれないか?」

「もちろん」


 途方もない強敵相手でも、ユイが知恵を貸してくれるなら乗り越えられそうな気がする。

 考えうる限りの策を練り、ユイが部屋を出るのを見送って、シマノは一人床に就いた。


 ***


「……」


 シマノの部屋を出たユイは、一人静かに目を閉じる。再び目を開けると、そこは完全な、僅かばかりの光点さえ侵入を許さない暗闇の中だった。


 まるで試練の神殿でカナミの記憶を集めた時のような漆黒の部屋。その中で、ユイの姿だけが仄白く浮かび上がっている。


 ユイの右手が、前方へと伸ばされる。その動作に合わせて、ウインドウが三つ。大きなものが一つと、下部に小さなものが並んで二つ。「はい」「いいえ」と記されているようだ。


 伸ばされた指先は、「はい」に触れた。ウインドウが煌めき、すぐに閉じる。


「……ごめんなさい、シマノ」


 躊躇うように右手を下ろしながら、ユイは悲しげに俯いている。


「報いなら、必ず受けるから」


 今にも消え入りそうな声が、ユイの足元に零れるように、闇へ溶けた。


 ***


 次の日。シマノたちは北方の山岳地帯の最奥に立ち、荒涼とした峡谷の果てに聳える闇の城を見上げていた。


 魔王を崇拝する教団ゼノの潜むその城は、暗く近寄りがたい雰囲気に満ち溢れている。身分の高い者が住むべき場所というよりは、まるで何かを幽閉するために造られた監獄のようだった。


 シマノたち一行は、その様子を真正面に捉え、この先待ち受けるであろう熾烈な戦いに思いを巡らせている。


「……って、なんで正面入口にワープした?」


 尤もな疑問である。昨晩シマノがユイから聞いていた話では、ゼノのアジト内にある一室にワープできるとされていたのだ。


 だが、今シマノたち一行が立っているのは完全に屋外。冷たい風の吹きすさぶ、アジト正面入口扉前だ。


「移動時に空間座標が再設定された模様。原因不明」


 ユイも何が起きたのかわからないようで首を傾げていた。まさか、エトルの仕業だろうか。

 ……いや、それよりも。シマノはふとある可能性に思い至った。


「アジトのムービー、見せたかっただけでは?」


 恐らく、制作者(シマノ)がせっかく作った闇の城のカッコいい外見を見せびらかしたくなったのだろう。強制的にこの場所にワープさせることで、城の外見をこれでもかと映したムービーをプレイヤーに見せつけることができるというわけだ。


 過去の自分の顕示欲にうんざりしつつ、ムービーなど無視して扉を開け先に進もうとしているキャンとムルに、シマノは慌てて駆け寄った。


 構成員がいきなり襲い掛かって来やしないかと気を張りながらアジトに突入したシマノたちであったが、その緊張は程なく解かれることとなった。


「何だよ~ゼノのやつら全然出てこねーじゃん」


 いかにも肩透かしを喰らったと言わんばかりにキャンが不満を垂らしている。確かにキャンの言う通り、アジトの中を探しても探しても、人っ子一人姿が見えないのだ。


「どうなってるんだ? 少なくともエトルとニニィ、あとセクィはいるはずなんだけど」


 探索ついでにレアなアイテムが落ちていないか目を光らせつつも、敵と一切エンカウントしないシマノたちはあれよあれよと上の階へ進んでしまった。


「上ではなく、下にいるのではないか?」


 ムルの言う通りかもしれない。なんとなく、こういうのは上の階に進んでいくものだろうと思い込んでいたシマノだったが、どうやら当てが外れたようだ。


 かといって、今さら引き返すにはもうだいぶ上りすぎてしまった。せっかくなので最上階まで行ってから下へ行こうと心に決め、無事最上階へ到達すると、仲間たちとともにそこにあった大扉を開いた。


「遅い! このアタシを待たせるなんて随分生意気なことしてくれるじゃない」


 扉の向こうで待ち構えていたのは、苛立たしげに踵を鳴らすゼノ幹部の蜘蛛女、セクィだった。


「げっ……セクィ……」

「おー、蜘蛛おねーさんじゃん! 無事だったんだな!」


 正反対なリアクションを返すシマノとキャンを前に、セクィはフンと鼻で笑ってみせる。


「残念ね、エトル様は地下よ。オマエたちはここでアタシの小蜘蛛ちゃんたちと遊んでおきなさい」


 高慢さたっぷりに言い放ち、セクィは左の踵を二度踏み鳴らした。途端、部屋のあちこちで小蜘蛛が次々と召喚されていく。一瞬のうちに、シマノたち一行は完全に包囲されてしまった。


 しかし、シマノはあくまでも冷静さを失わない。


「俺たち急いでるんで。じゃ!」


 そう言うが早いかシマノは即座に回れ右をし、入ってきたばかりの大扉に向かって一目散にダッシュした。


「お待ち!」


 当然セクィがそれを見逃すはずもない。扉の前に小蜘蛛を追加召喚したかと思えば、無数の糸で雁字搦めに封鎖してしまった。


 こうして、シマノの即逃げ作戦は何の成果も挙げられないまま終了したのである。


「やーい、シマノだっせ~」


 ここぞとばかりにキャンが煽り散らかしてくる。クソ生意気なキッズめ……とシマノが歯噛みしていると、突然ムルの真剣な声が耳に届いた。


「来るぞ、備えろ」


 その声とほぼ同時に、周囲の小蜘蛛たちが一斉に襲い掛かってきた。戦闘開始だ。扉を封じられてしまった以上、この窮地を脱するにはセクィを倒して開放させるしかない。


「こんなところで消耗してる場合じゃない。みんな、さっさと片づけてニニィを迎えに行こう!」


 シマノの脳内は、ニニィを連れ戻して共にエトルを倒すことで既にいっぱいだ。満身創痍だったセクィが回復してくれたことは嬉しいのだが、正直なところ現時点では戦うのが面倒臭いという気持ちしかないのである。


 もちろん、シマノのこの馬鹿正直な発言は、セクィを激昂させるのに十分すぎた。


「人間のガキが、このアタシを馬鹿にしてんじゃないよ!」


 セクィはなりふり構わず小蜘蛛を大量召喚し、さらに自らを大蜘蛛と一体化した姿に変えると、シマノたちに牙を剥いてきた。


「いくらなんでも投げやりすぎるだろっ!」


 シマノの言葉通り、セクィはまるで考えなしに次々と力を使っているように見える。仮にも彼女はゼノの幹部だ。ここまで力任せの、無策な戦いを仕掛けてくるだろうか。


 ユイもキャンも、同じように違和感を覚えているようだ。


「確かに変。以前の彼女の戦闘傾向とは異なっている」

「だな。どーしちゃったんだ、蜘蛛おねーさん」



 残念ながら、いくら心配してみたところで半分大蜘蛛と化したセクィにはこちらの言葉は届いていないだろう。

 虚ろな瞳で、セン……メツ……と呟きながら、小蜘蛛たちとは比較にならないほど大量の糸を吐くと、大蜘蛛セクィは部屋中を立体的な蜘蛛の巣へと作り変えてしまった。


 その糸の上を小蜘蛛たちが縦横無尽に伝い回り、うまく身動きの取れないシマノたちに波状攻撃を仕掛けてくる。


「皆、我の後ろへ下がれ」


 糸をかき分け必死の思いでムルの背に辿り着くと、ムルは周囲の柱や壁、床の一部を崩して再構成し、半球状の壁を作って蜘蛛たちの攻撃を防いだ。


「ありがとう、助かったよムル」

「案ずるな。奴の魔力がいくら無尽蔵とはいえ、こんな使い方をしていれば直に尽きる。そこを叩くぞ」


 皆ムルの作戦に頷き、岩壁の陰でじっとその時を待った。


「エト……ルサマ……」


 大蜘蛛セクィは譫言(うわごと)のように幾度も呟いていた。


 ***


 最上階がそんなことになっているとはつゆ知らず、エトルはニニィを率いて地下の魔王の間の扉を開こうとしていた。


「本当に、よろしいのですね?」


 ニニィの方を一瞥もすることなく、エトルが問う。ニニィはその問いに、黙ったまま小さく頷いた。


「……いいの、もう」


 その目に生気はなく、発せられた言葉も何の力も有していない。自らを取り巻くすべてを諦めてしまったかのような、痛々しい様子でニニィはただ呆然とそこに立っているようだった。


 そんな彼女の様子を一顧だにしないまま、エトルは何重にも施された封印を解き、重々しい扉をゆっくりと開いていく。


「では、お約束通りに」


 二人が足を踏み入れた後、魔王の間の重い金属扉は大きな音を立てて閉ざされた。

今回の好きなゲーム【ねこあつめ】

とにかく手軽でとにかく可愛い

あの頃流行った放置系ゲーム、どれも可愛くて集めたくなる味があって本当に良いものが多かった

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