第69話-2:今年のプレゼント係
「おい、貴様ら!」
高くよく通る鈴の音のような声。聞き覚えのありすぎるその声に、城を出たばかりのシマノたちは思わず声の主のいる前方に目を向けた。
そこに立っていたのは、紛れもなく地底で出会ったあの黒猫騎士だった。
今日は赤い鎧ではなく軽装のようだ。王都正規軍も全員ティロにやられてしまったものだと思っていたシマノにとって、彼女の生存は素直に嬉しいものだった。
「黒猫騎士! よかった、無事だったのか!」
「貴様らとの戦いで改めて己を見つめ直すことにしたのだ。一度獣の町に帰り、修行の旅に出るつもりだ。あの蜘蛛女にもよろしく伝えておいてくれ」
なるほど、とシマノは頷く。もしかすると、あの赤い鎧は自前でなく王家からの支給品だったのかもしれない。
喋るたび優雅に揺れ動く彼女の黒い尻尾を、ムルが興味津々といった様子で密かに見つめている。それに気づいているのかいないのか、黒猫騎士はきょろきょろと辺りを見回している。
「それはそうと、犬の子が貴様らを探し……なんだ、合流したのか」
黒猫騎士は明らかにキャンを見てそう言った。
「? 何言ってんだ? オレはずっとシマノたちと一緒だけど?」
キャンの言葉を聞くと、黒猫騎士はますますわからないといった様子でぱちぱちと瞬きをしてみせた。
「つい先ほど貴様にシマノがどこか聞かれたばかりなのだが……?」
キャンそっくりの偽物が出たとでもいうのだろうか? いや、もしかして……とシマノはある考えに思い至る。
「それって、キャンの……」
「あ~~~~いた~~~~!」
キャンの声……にしては随分のんびりとした話し方に、シマノたちと黒猫騎士は通りの方へと目をやった。
商店が立ち並ぶ通りの向こうから、キャンと瓜二つの人物がこちらに駆けてくる。といっても、その足取りは極端に遅くのんびりとしている。
「お~~~~~~~~い!」
「キョン!」
キャンが笑顔で手を振る。ゆっくり、ゆっくり、想像の倍ぐらいの時間をかけてこちらに辿り着いたのは、キャンの兄弟の一人、キョンだった。
「はい、これぇ~。お誕生日おめでと~」
「おー、そっか! すっかり忘れてたぜ! オレたちおめでとー!」
どうやら今日はキャンの誕生日ということらしい。確かキャンの兄弟は全員同じ誕生日だった。ということは、今ここにいるキョンも誕生日ということになる。
「キャン、おめでとう! キョンも!」
「おめでとう」
「ふむ、偶々居合わせた身ではあるが、私からも祝いの言葉を贈らせてもらうぞ」
「ヘヘッ、みんなありがとなー!」
「ありがと~」
和気藹々とした雰囲気の中、一人、ムルが戸惑いをみせていた。
「たんじょうび……?」
なるほど、地底民であるムルは誕生日というものを知らないらしい。
「誕生日は生まれた日のこと! その年の誕生日係がかーちゃんからプレゼントを貰って、他の兄弟に配るんだぜ!」
それはだいぶ特殊な事例だけど……とシマノは心の中でツッコむ。キャンの発言に黒猫騎士も頷いており、どうやら獣の町ではこのやり方がスタンダードなようだ。
「プレゼント……」
「そ~そ~あとはキェンだけなんだけどぉ~、ぜんぜん見つかんないよぉ~~~~」
困り顔で溜息を吐くキョンに、キャンは真面目くさった様子で答える。
「アイツはたぶん木の上とか穴の中とか崖の下とかにいる。間違いないぜ」
「だよねぇ~。なんとか探してみるよぉ~」
キョンはシマノたちに一礼すると、じゃあねぇ~と手を振ってまたゆっくりと駆け去って行った。
「私もお暇するとしよう。さらばだ、また会おう!」
黒猫騎士も去ると、キャンは待ちきれないといった様子で今受け取ったばかりのプレゼントの包みを眺めまわした。
「なーなーシマノ、開けていい? 開けていい?」
「なんで俺に聞くんだよ。とりあえず、宿に行ってからの方がいいんじゃないか?」
「えーっ!? まだ朝だぜ!? 宿に行くのなんか全然まだまだじゃん! いーから今すぐ開けよーぜーシマノー!」
厄介なキッズだ。シマノは頭を抱えた。すると、ユイがスッとシマノの前に立ち、ある提案を出してきた。
「シマノ、ゼノのアジトに行けば、戻ってくることは困難。やり残したことは今のうちにやっておくべき」
「……急にメタなこと言うなぁ」
あまりにも定番の「ラストダンジョン突入前の台詞」だ。とはいえ、もしこの言葉が正しければ、ゼノのアジトに行くとエトルや魔王を倒すまで帰ってこられないということになる。
だとすれば、シマノだけでなくムルとキャン、そしてユイにも、悔いのない時を過ごすための時間が必要なのではなかろうか。
「オレもオレも! 王都のまだ見てない店いっぱい見たい!」
「我も、行っておきたいところがある」
思った通り、キャンはプレゼントのことを忘れたかのようにはしゃぎ出し、ムルもなかなか乗り気である。
「あー……よし、じゃあ今日は自由時間にしよう! 明日の朝までに宿に戻ってくること!」
解散、と告げ、シマノたちは各々明日の決戦に備えて自由に過ごすこととなった。
「さて、どうしたものか」
シマノは腕を組み、自由時間の過ごし方について頭を悩ませていた。
こういうとき、例えば今まで行った街にもう一度訪れてみるというのは一つの定石だ。やり残していたイベントが発生するかもしれない。
「でも、俺一人じゃなぁ」
指輪があるため、街から街への移動自体は問題ない。気になるのは「戦闘必須のイベントが発生したらどうしよう」の一点だ。
「そうだ、ユイに来てもら……」
残念ながら、既に周囲にユイの姿は見えなくなっていた。
***
暗く深い、大地の底の底。フードを外したその銀糸のような髪が、澄んだ青色の輝きに満たされていく。指輪を装備したムルは、北方の山岳地帯の地底深くを訪れていた。
一歩、また一歩、石の声のより大きな方へ、ムルは歩を進める。不安にざわつく胸をぐっと抑え、ムルは目指す地点へと一歩ずつ近づいていった。
「……着いた」
無数の石の声が頭の中でぐわんぐわんと響き合っている。ムルの眼前には、海を思わせるほどの巨大な地底湖――石の涙が広がっていた。
ムルは右手を出し、広げた。掌には、試練の神殿で手に入れた乳白色の鉱石が乗っている。
「大丈夫だ、行こう」
小さな鉱石を握りしめ、ムルは石の涙へとゆっくり歩いていく。
今回の好きなゲーム【ファイナルファンタジーXII】
戦闘がスタイリッシュで楽しい! かけっこのミニゲームめっちゃやってた記憶




