第68話-1:廃都の王は泡沫に踊る
朽ちた玉座の上から、操師の少年はこちらを見下ろしていた。まだ幼さの残る丸い瞳を静かに細め、口元を歪めながら吐き捨てるように告げる。
「ねえさまがいないなら、キミたちに用はないよ」
「お前に用が無くても、俺たちにはあるんだよ」
そう言ってシマノはユイに視線を送った。ユイは黙って頷くと、紐に提げられた小さな鈴を取り出し、微かに揺らす。
リン――と澄んだ冬の夜明けのような音が響く。決して大きくはないその音は、広間中にくまなく響き渡り、ティロの耳にも確かにはっきりと届いた。
「……何の真似?」
「『響きの鈴』。鳴らせば世界中に音が届く」
訝し気にこちらを睨むティロに、ユイが淡々と答えた。
「ふーん、で? その鈴でエトルでも呼ぶつもり?」
ティロの口からエトルの名が出たことに、シマノは少しばかり動揺した。まさにティロの言う通り、この鈴はティロかニニィを見つけた時エトルに知らせるため受け取ったものなのだ。
「よくわかったな。俺たちはエトルからお前を探すように頼まれてるんだ。つまり一時休戦、今の俺たちは仲間同士ってわけ」
この際隠しても仕方ない。シマノはエトルと共闘関係にあることを素直に開示した。
地底での戦闘でゼノ幹部の強さは痛いほど身に染みている。ここでティロと不用意に戦うことは可能な限り避けたい。さすがにエトルがついていると聞けば、滅多なことはしてこないだろう。
だが、その目論見はあっという間に崩れ去る。
「そうなんだ。ま、ボクには関係ないけどね。エトルに何か言われると面倒だし、キミたちを半殺しにして人質として使おうかなぁ」
「怖すぎぃ!」
思わず心の声が駄々洩れてしまったシマノ。一方仲間たちは各々身構え、戦闘態勢をとっている。
「ヘッ、光の勇者キャン様の力でオマエなんかけちょんけちょんだぜ!」
一人息巻くキャンに、ティロは気怠げな溜息を零す。
「相変わらず、愚かだね」
その言葉を聞いたキャンは暫しの沈黙の後、隣にいたムルにバレバレの耳打ちをする。
「オロカって何だっけ?」
「馬鹿」
「ハァ~~~~!? オロカって言う方がオロカだし~~~~!?」
愚かだ。シマノは心の底からティロに同意した。ティロはティロで、わめく獣キッズを完全にスルーしている。
「残念だけど、エトルを呼んでも無駄だよ。ボクはあいつを殺せるけど、あいつはボクを殺せない」
ティロは悠然と玉座から立ち上がった。その瞳の奥には昏い侮蔑の光が灯っている。
「だから勝つのはボクだ」
まずい、とシマノは冷や汗を浮かべる。これは今にも戦闘を開始しかねない流れだ。
もしこのまま戦闘に突入してしまえば、勝てる確率は限りなく低い。ティロは無駄だと言っていたが、とにかくエトルが来るまで戦わずやり過ごす他無いだろう。
「本当に勝てるのか? お前よりエトルの方がずっと強そうに見えるけど」
凡人に出来る唯一の抵抗。それはひたすら喋って時間を稼ぐことだ。プライドの高そうなこいつなら、きっとこの話題に乗ってくるだろう。
「ボクのかあさまはエトルの妹だ。いくらゼノの幹部でも、血の繋がった可愛い甥っ子を殺したりできないよね?」
「……んん?」
シマノは思わず首を捻った。今こいつ、しれっととんでもないことを口走らなかったか?
一旦ティロ周りの情報を整理してみよう。ティロは姫様の異母弟だ。金色の瞳を持っていることから、王家の血を継いでいることは間違いない。
しかしここでエトルの甥だという新情報が飛び出した。であるならば、推定ダークエルフであるエトルの妹と王家が婚姻関係を結んだということになる。
「待て。待て待て待ていろいろおかしい」
エトルは王家を「殺したいほど憎い相手」だと言っていた。恐らくダークエルフであろうエトル、その妹と王家が結ばれるとはとても考えづらい。
いや、もしかすると遥か昔、まだ友好関係にあった頃の話かも……いやいやそれもおかしい。そんなに昔の話であるなら、ティロが姫様の弟であるというのはあり得ない……。
「嘘、ついてます?」
「愚問だな。ボクにそんなことをするメリットがあると思うか?」
あからさまな苛立ちを見せるティロに、シマノの脳内はますます疑問符で埋め尽くされていく。
「あり得ぬ。姫は我らの主殺しを知らぬほど幼い。弟であるお前が、主殺しより前に生まれているはずがない」
まさにダークエルフ問題の当事者であるムルも、シマノと同じように困惑しているようだ。そんな二人を見て、ティロはやれやれと再び溜息を吐いた。
「可哀想に、凡人どもにはちょっと難しかったかな?」
その時、待ち侘びていた声がシマノの耳に届いた。
「誤解を招くような表現は慎んでいただきたいですね」
黒のゆったりとしたローブに、目深に被られたフード。ゼノの幹部エトルは、シマノたちとティロの間へ割って入るかのように、突如として姿を現した。
今回の好きなゲーム【コロコロパズル ハッピィパネッチュ!】
こちらも傾けて動かす系 大きいボム作るのが楽しかった




