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第67話:砂漠ではあわてず騒がず体力を温存すべき

 シマノは知の書の真っ白なページに向かって、好感度の上げ方~とひたすらに念じ続けている。

 しかし、残念ながら知の書に反応は見られない。光ることも、文字が書き記されることも、何もないのであった。


 念のため「廃都ペリーレ」と書かれたページが書き換わっていないか確認してみたが、やはりこちらも「廃都ペリーレ」のままである。


 シマノはがっくりと肩を落とした。


「やっぱ何でも知り放題ってわけにはいかないか~」


 落ち込んでいても仕方がない。勝手に期待した方が悪いよな、とすぐに気持ちを切り替え、シマノは過酷な砂漠地帯の探索に備えて早々に眠りに就いた。


 ***


「あちぃ~~~~……」


 シマノたち一行は廃都ペリーレに向かうべく、朝一番で砂漠地帯に突入した……のだが、日が高くなるにつれ、上昇し続ける気温に早速キャンがバテてしまった。

 舌をだらりと垂らし、何とか体温を下げようとしているものの大した効果は得られていないようだ。


 これでは先が思いやられる。キャンは論外として、シマノも正直かなり限界に近い状態だった。というか、暑そうにしているキャンを見ているとますます暑く感じてしまうのである。


「キャン、今から『暑い』って言うの禁止な」


 とうとう我慢できずにそう告げたシマノに、キャンはまるでこの世の全ての希望が奪われたかのような表情を見せた。


「そんなぁ……オレはこれからどうやって生きていけば……」

「大袈裟すぎるだろ」


 駄目だ、とシマノはかぶりを振った。こうして言い合うことでさらに暑さが増してしまう。

 とにかく今は心を無にしてユイの案内に従い、最速でこの砂漠地帯を抜けてしまおう。そう考えたシマノはユイの方へ振り返る。


 ユイは暑さが苦にならないようで、その表情は冷静そのものであった。が、気のせいだろうか、頭の周囲の風景がうっすらぼやけ、ゆらゆらと歪んでいるように見える。


「……湯気!?」


 なんと、ユイの頭部はオーバーヒートを起こし、湯気が立ち昇ってしまっていた。


「ちょっ、待っ、どうしよ、水か!?」

「シマノ、落ち着いて。砂漠ではあわてず騒がず体力を温存すべき」


「いやそれどころじゃないよね!?」

「シマノ、落ち着いて。砂漠ではあわてず騒がず体力を温存すべき」


「同じこと言ってる!!」

「シマノ、落ち着いて。砂漠ではあわてず騒がず体力を温存すべき」


 まずいことになった。どうやら高すぎる気温がユイの思考回路にとても良くない影響を与えてしまったらしい。


「騒がしい、何事だ」


 ムルがシマノに声をかけてきた。人造の身体をもつムルにはこの暑さが全く効いていないようだ。


「ユイが暑すぎて壊れちゃった!」

「わかった。叩いて直すぞ」


 砂漠の上にも関わらず水を得た魚のように、ムルが張り切って詠唱を開始した。


「駄目駄目駄目駄目駄目駄目!!」


 シマノが全力で阻止する。するとムルは申し訳なさそうな顔で詠唱を中断した。わかってもらえてよかった、とシマノは胸を撫で下ろす。


「……この砂漠には砂はあれど石がない。すまぬ、シマノ。我の術もこれでは用をなさぬだろう」

「そっち!?」


 俺が止めたからじゃなかった、いやそんなことはどうでもいい。とにかくユイの頭を冷やさないと。

 シマノは焦る気持ちを何とか抑えつつウインドウを開き、出来ることがないかとスキル画面を次々捲っていく。そして、あるスキルを見つけた。


アルゲオ(凍えよ)、これだ!」


 それは、ユイが覚えている氷属性の初級魔法だった。シマノがこの世界に来て、ユイと出会ったばかりの頃、水に落としたバルバルを氷漬けにしたあの魔法だ。


「問題はこれをユイが使えるかどうか……」


 熱に浮かされた今のユイに、呪文の詠唱ができるだろうか。やってみる他ないだろう。


「ユイ、アルゲオだ! アルゲオで頭を冷やすんだ!」

「砂漠ではあわてず騒がず体力を温存すべき」


「違う、アルゲオ! ア・ル・ゲ・オ!」

「ア……わてず騒がず体力を温存すべき」


 どうしよう、無理かもしれない。かといって諦めるわけにはいかない。何か別の手段はないか、必死でウインドウを捲っていると、その向こうで何かが動いた。


「冷やせばよいのだな」


 ムルだ。その手には水の入った水筒を持っている。水筒の口は、開いている。……嫌な予感がする。


「ムルさんちょっと待って」

「えいっ」


 ムルは水筒の水を、勢いよく全てユイの頭にぶっかけた。


「待ってえええええええ!!」


 シマノの悲鳴を上書きするかのように水分の蒸発する音が響き、白くはっきりとした湯気が濛々と立ち昇る。


「うっせーぞシマノ~」


 バテバテのキャンが文句を垂れている。だが今そんなことには構っていられない。緊急事態だ。


「ユイ! 大丈夫か!? ユイ!」


 シマノはユイの両肩を掴み、大きく揺らしながら懸命に声をかけた。


「シ……マノ……?」


 奇跡だ。ユイが意識を取り戻した。視界の片隅でムルがほんの少し得意げにしている。

 ユイはシマノの姿を視認すると、申し訳なさそうに俯いた。


「回路が熱暴走を起こした模様。心配をかけてごめんなさい、シマノ」

「この砂漠じゃ無理ないよ。アルゲオで冷やせないかな?」

「やってみる」


 ユイは自身の頭部にアルゲオ(凍えよ)をかけた。冷静に考えるとそれはそれでいいのだろうか、と思わなくもないシマノであったが、とりあえず熱暴走の危機は去ったようだ。


「おっ、ユイの頭、ひんやりして気持ちい~~~~!」


 キャンがユイに飛びつき、おんぶのような姿勢になる。


「キャンは暑さに弱い。このまま進むことを推奨」


 ユイが言うならそうしようと思いつつも、これってムルの好感度下がらないか? とシマノは不安を覚えた。一応ムルの方を見ると、特に気にしていないようだった。


 ほっと一安心したシマノはふと視線を感じた。見ると、ユイがシマノの方をじっと見つめている。その言わんとするところがわかったシマノは、全力で首を横に振った。


「俺はいいです大丈夫です」


 どことなく残念そうなユイをスルーし、シマノは改めて廃都ペリーレを目指す。


 ***


「うわぁ暗……いかにも()()()って感じだな……」


 灼熱の砂漠地帯を越え、シマノたちが廃都ペリーレに足を踏み入れたころ、日は完全に暮れ、星々の微かな光だけが滅んだ都市を照らしていた。

 崩れかけた建築物、荒れ果てた大地、人気も灯りもない街――まさに肝試しにはうってつけといった様相である。


操師(あやつりし)にとっては、まさにうってつけの場所。シマノ、警戒を」


 ユイが目ライトを点灯しながらシマノに忠告する。


「肝試しで好感度上げるのはどうだろう(わかった、気をつけるよ)」


 ……やってしまった。ユイの話そっちのけでムルからキャンへの好感度を上げようと作戦を練っていた心の声が駄々洩れである。ユイの視線が痛い。


「奥へ向かう事を推奨。廃都ペリーレの最奥部には、死者を弔う『司祭の塔』が建っている。もしこの街にティロがいるとしたら、恐らくあの塔に潜伏しているはず」


 シマノのやらかしには特に触れず、ユイは淡々と目指すべき地点を説明してくれた。ありがたさ半分情けなさ半分、シマノは仲間たちとともに司祭の塔へと向かった。


 壊れた扉から塔内部へと侵入すると、中はアンデッド系モンスターたちの巣窟となっていた。

 やはりここにはティロがいるようだ。それにしても、これら全てをティロが操っているのか、もしくは何か別の要因で動いているのか……。


「なんか気味悪いダンジョンだな……」


 シマノはキャンに指輪を装備させ、出てくる魔物たちを光属性の攻撃で片っ端から撃破してもらった。おかげでムルやユイの力を温存したまま、一行は塔の最上階へと辿り着くことができたのである。


 最上階の大きな扉をキャンが勢いよく蹴破ると、そこはワンフロア全てを使った大広間になっていた。奥には朽ち果てた玉座が置かれ、誰かが腰かけている。


「キミたちか。ボクに何の用?」


 水色の髪に金色の瞳。白いローブを纏った少年は、脚を組み頬杖を突きながら不敵に微笑んでいる。

今回の好きなゲーム【コロコロカービィ】

当時流行ったソフトにセンサー付ける系 本体傾けて遊ぶのが新鮮で楽しかった

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