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第66話:段差に注意

「試練の神殿に来ましたよっと」


 アルカナ叡智王決定戦(サピのクイズ大会)で優勝し、知の宝珠を手に入れたシマノとユイは、早速台座に嵌めてみようと試練の神殿を訪れたのであった。


「台座を探索」


 ユイが目ライトを点灯させ、神殿の入り口付近を隈なく探している。やがてユイの目ライトが、ある一点を照射した。


「シマノ、あの辺りが怪しい」

「よし、俺に任せ……って、あれ……」


 それは、入り口の扉周辺の床面にある小さな段差だった。シマノにはとても良く見覚えがある。

 先日力の宝珠を持ってここに訪れた際、シマノが思いっきり躓き、その勢いで台座を召喚した、あの段差だ。


「またあれに躓けと……?」

「違う、シマノよく見て。あれは、別の段差」


 なるほど、確かによく見てみれば、以前シマノが躓いた段差は扉に向かって右手寄りの位置にあった。今ユイが照らしているのは左手寄りの位置である。


「いや、そういう問題か?」


 全くもってそういう問題ではない。だが、力の宝珠を嵌めた台座に、他の宝珠を嵌めるような余地はなかったように見える。

 となれば、別の段差で別の台座を出してみようというのは至極真っ当な考え方だ、と言えなくもない。


 仕方ない、とシマノは渋々ライトで煌々と照らされた小さな段差へと向かう。

 さすがにわざと躓くのは危ないから、せめてそっと踏むとか蹴るとかで発動させよう、と心に決めてシマノは段差のすぐそばまで近づいた。


「あ゛っ、やべっ!」


 細心の注意を払って近づいていたはずが、ライトに目が眩んだのか、シマノは思いっきり小さな段差に躓いてしまった。


「どぅわわあぁっ!?」


 今回も辛うじて転ばずに済みはしたものの、力の宝珠の時よりも情けない悲鳴が漏れてしまった。ユイが生温い目でこちらを見ている。


 案の定というか何というか、シマノの躓きによって見事台座が現れたのであった。


 台座に知の宝珠をはめ込むと、扉の脇に一枚の小さな隠し扉が現れた。開くと、その先は暗く狭く、一人ずつ縦列で進むしかなさそうだ。


「……行ってみますか」

「シマノ、ここは私が」


 目ライトを点けたユイの申し出に、シマノはありがたく甘えることにした。先頭ユイ、二番手シマノの順で細い通路を慎重に進んでいく。


「シマノ、段差に注意」


 どうやらこの通路は決して平坦ではないらしい。暗く見えづらい足元を、ユイが先んじて照らし、シマノに注意してくれている。


 そのこと自体はありがたい。ありがたいのだが……。


「シマノ、段差」

「シマノ、ここも段差」

「シマノ、見えにくいけれど、10時の方向に18ミリの段差あり」


「いくらなんでも多すぎる!!」


 シマノの心の叫びが容赦なく駄々洩れた。この道、とにかく細かな段差が多い。

 いや待てよ、本当に段差が多いのか? シマノは冷静に考える。段差が多いというより、寧ろ……。


「あのさ、ユイ。あんまり細かいのは、言わないで大丈夫だから」


 そう、ユイの指し示す段差の中に、取るに足らない些末なものまで含まれているような気がしてならないのだ。


 しかし、当のユイ本人はいたって真面目な顔で首を横に振っている。


「駄目。シマノは段差に躓きやすい。小さな危険も逃さず報告する必要あり」


 遠回しに「すぐ転ぶポンコツ」扱いされたような気がしなくもないが、ここは素直にユイの気遣いを受け取っておこう。

 シマノはそう判断し、段差のことはこれ以上深堀りせず話題の変更を試みる。


「そういえばさー、結局『カナミの記憶』最後まで見てないな」


 ちょうどこの場所、試練の神殿でユイに見せてもらった「カナミの記憶」は、キャンの騒々しすぎるくしゃみによって強制終了され、最後まで見ることができなかったのだ。


「……今はニニィたちの捜索を優先すべき。落ち着いたら、また共有する」

「ま、それもそうか。城でみんなを待たせてるしなー。ところで、ユイはあの記憶最後まで見たんだろ? 何か攻略のヒントになりそうなことなかった?」

「……特には」

「そっか。また何か気になることがあればいつでも言ってくれ」


 シマノはユイが見せた些末な違和感に首を傾げた。いつもの淡々とした口調とは違う、どこか引っかかるような、何かを隠しているかのような話し方。


「着いた」


 違和感について悶々と考えていたシマノは、ユイの声に思わずはっと顔を上げる。


 そこにあったのは、四畳半程度の小部屋だった。中央に電話台のような小机が設置され、その上に一冊の本が置かれている。


「茶色の部屋と一緒だ……」


 シマノの言葉にユイが反応する。


「茶色の部屋?」

「そう、俺の……たぶん試練の間。こんな感じの狭い部屋で、黒い本が置いてあったんだ」


「では、これもシマノの元の世界での記憶にまつわる可能性が高いと推測」

「だよな。でも……」


 シマノとユイは小机の上に置かれた本の表紙をじっと見る。


「白いな」

「白い」


 二人のつぶやき通り、そこに置かれていたのは真っ白な本だった。


 シマノはその本をためらわず手に取り、ページをめくる。黒い本と同様、白い本は中のページも真っ白だった。


「うーん……触っても何ともないし、中に何か書かれてるわけでもなさそうだし……」


 雑にページをめくるシマノの隣で、ユイはじっと黙ったまま本を見つめている。この本の正体をデータベースから検索してくれているのだろうか。


「知の書」


 ユイが口を開き、それを聞いたシマノの手が止まる。


「知の書?」


 やはりユイはデータベースで調べていてくれたようだ。知の書とはいったいどんなものなのか。神殿の隠し扉の先にあるようなものだから、きっとすごいものに違いない。


 すると、シマノが手を止めたおかげか、偶々開いていたページが(にわ)かに輝き始めた。


「なっ、なんだ!?」


 慌てふためくシマノをよそに、その光は急速に収まった。そして、真っ白だったページに、いつの間にか一行の文字が書き記されている。


「廃都ペリーレ……?」


 地名だろうか? 聞いたことのない名に、シマノは首をひねった。


「王都から遥か西、リーヴ川を越えた先に広がる砂漠地帯。その奥にある、滅んでしまった都市」


 ユイが解説してくれた。しかし、滅んでしまった都市の名前が急に何故この白い本に? それに、さっきの光は?


 次々と浮上する疑問を察したのか、ユイが声をかけてくれた。


「その本『知の書』には、手に取った者の『今知りたいこと』が書き記される」


 シマノは耳を疑った。知りたいことが書き記されるなんて、とんでもないチートアイテムではないか。


「じゃあ、ニニィがどこにいるか教えてって念じたらここに出るってこと?」

「そう。というより、恐らく今出ているのがニニィ、もしくはティロの居場所」


 なんて便利なんだ。シマノはここにきて急遽手に入ったチートアイテムの高性能ぶりに震えていた。これさえあれば、次の目的地に迷うことなく、ストーリーの流れに沿った最適な行動がとれるというわけだ。


 しかも、詳しく知りたいあれやこれやの裏設定もすべて知ることができるかもしれない。まさに「知の書」の名にふさわしい、全知全能の神気分が味わえる至高のアイテムだ。


「よし、行こう。廃都ペリーレへ!」

「まずは王都に戻ってみんなと合流」


 ユイはあくまでも冷静なようだが、正直なところシマノはテンションが上がって上がって仕方がない状態であった。


 ***


 王都アルボスから廃都ペリーレはかなりの距離があるようだ。おまけに辺り一帯の砂漠化が進んでおり、昼は灼熱、夜は極寒の地獄が待ち受けている。


 また、もし無事ペリーレまで辿り着けたとしても、廃都ゆえに店や宿の類は期待できない。王都にいるうちになるべく万全の準備をしていくべきだ。


 残念ながら姫様とウティリスは付いてきてくれないらしい。まあ、姫様には王様不在の間代理で国を治めるというとんでもない大仕事が待ち受けているのだから、仕方あるまい。


 代わりに、ペリーレへ向かう準備のための買い出し資金を支援してもらえることになった。


 こうして、シマノたち一行は姫様の出資を得て城下町で支度を整え、明日以降に向けて英気を養うべく、今日は王都の宿に泊まることにした。


 宿屋のベッドに一人寝転がり、シマノはウインドウを開いた。マップを確認すると、王都からリーヴ川を越えてさらに先、まだ雲で覆われているエリアの中に「廃都ペリーレ」の文字だけが記されている。


 シマノは続いてKOUKANDOのスキルを発動し、好感度専用のウインドウを呼び出した。それからキャンの好感度ページへと移動し、ムルからキャンへの好感度を確認する。


「さすがに2.8のままか」


 サピに行っている間に上がっているかと少し期待したが、当然ながらそんなことはなかった。


「できればティロと戦う前に上げときたいんだよなぁ」


 次の目的地廃都ペリーレにいるのがニニィかティロかはわからない。もしティロだった場合、高確率で戦闘になるだろう。その前に、できるだけ強化しておきたいのだ。


「ここは知の書に聞いてみますか~」


 シマノは先ほど手に入れたばかりの知の書を開き、好感度の上げ方を知りたいと一心に念じた。

今回の好きなゲーム【大乱闘スマッシュブラザーズDX】

ここでどせいさんに出会ったおかげでMOTHERシリーズに出会えたので感謝

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