第65話-1:アルカナ叡智王決定戦
「それを聞いて、どうする?」
あまりにも冷ややかなその答えに、さすがのムルも二の句が継げず黙り込んだ。いつもの穏やかな口調とは一線を画した、明確な拒絶。
一方でシマノは冷静にその返答を分析していた。……エトルは、ムルの問いを否定していない。もし、ムルの問いが正しいとするならば――エトルは地底民の主ということになる。
城で王様に聞いた話では、地底民を創ったのは王族たち光のエルフだとされていた。だが、先ほどエトルが姫様に向けた憎悪。とてもではないが、彼が王家の一員だとは考えにくい。
つまり、王様の言葉通りエトルはダークエルフの生き残りであり、王様の言葉と異なりエトルたちダークエルフこそが地底民の主である。これが現時点でのシマノの仮説だ。
ここまで考えたシマノに、新たな疑問が浮かぶ。エトルが救いたいと願う「魔王」とは何者か。何故、魔王の救済にニニィの力が必要なのか。
エトルと会話できる貴重なチャンスだ。今のうちにもっとストーリーの深堀りを進めておかなくては。
「エトル、聞い……」
「もし、お前が我らの主なら……いくら謝っても済むことではない。それは承知の上だ。だが、それでも我らはお前たちとともに在りたい……!」
ムルに思いきり話の腰を折られ、シマノはほんのり落ち込んだ。
ムルの言葉を聞いたエトルは黙ったまま一瞥し、次の瞬間、さもおかしいと言わんばかりに声を上げて笑い出した。
「ははっ……あっははっ……哀れな人形だ。今さら、お前たちの力など必要ありませんよ」
吐き捨てるように告げると、エトルは俯き、足元の魔法陣へと呑まれていくように姿を消した。
***
「で、ここまで来たわけですけども」
そう言ってシマノは辺りを見渡す。そこは、中心に巨大図書館を擁するアルカナの叡智の神髄、知の街サピだった。
「シマノ、情報収集のため図書館に向かうことを推奨」
シマノの隣でユイが淡々と告げる。エトルが去った後、二人はニニィとティロの行方を探るべく、アルカナ中の情報が集まっていそうなこの街にやって来たのだ。
王の不在を埋めねばならない姫様とウティリス、本が苦手なキャンとムルは城に残っている。
早速図書館に向かおうとしたシマノたちだが、何だか街の中がずいぶん騒がしい。
以前訪れた時とは異なり、街のいたるところに連なった三角旗が掲げられ、通りは人々で賑わい、出店のようなものまでズラリと立ち並んでいる。
おまけに花火も上がりだした。さながら運動会でも始まりそうな様相である。
「もしかして、何かイベント突入しちゃった?」
シマノの懸念通り、人の流れに沿って歩いていくと、広場のようなところに特設ステージが建てられていた。上部にはお手製の横断幕が掲げられている。
「アルカナ叡智王決定戦?」
横断幕をそのまま読み上げたシマノの隣で、ユイがデータベースを検索する。
「アルカナ中の知力自慢を集め、数々の難問に挑戦させ、最も優れた者を選定し称える儀式」
わかりそうでわからないユイの説明を半ば聞き流しつつ、シマノはステージ上に置かれた物体に注目する。
中央に横並びで設置された三つの解答席。向かって左手隅にある、いかにも司会者が立ちそうな席。どう見てもクイズ大会のセットである。
「なるほどな……このタイミングで始まるってことは、参加しろってことだよな」
得意のメタ読みを発揮し、シマノは暫し思案した。やがて、隣に立つユイの肩をポン、と叩く。
「ユイ、頼んだ」
「シマノは、参加しない?」
「この世界の情報に一番詳しいのはユイだろ?」
「……了解」
シマノとしては勝ち筋を狙って人選しただけなのだが、何だかユイの視線が痛い。もしかして、負けを恐れる意気地のない人間だと思われたのだろうか。
いや、せっかくイベントに挑戦するなら何としても勝ちたい。イベント限定のレア報酬だってあるかもしれない。勝つためなら、多少意気地なしに見られようがシマノは構わないのである。
「ゴーレムの参加は認められない模様」
エントリーに行ったユイが帰ってきた。まあ、落ち着いて考えれば尤もな条件だろう。
やむなくシマノがエントリーすると、ちょうど登録手続き完了直後に募集が締め切られた。
出来レースすぎるだろ、と苦笑しつつ、シマノはステージ上へと向かう。背後でユイの「がんばれー」の棒読みを聞きながら。
ステージには既に二人の参加者と司会者が席についていた。
三つ横並びの、向かって左側がピクシー族、右側が瓶底眼鏡の学者風の男だった。
この世界に眼鏡が存在していることに驚きつつ、いやカラコンもあるしと思い直しつつ、そもそも作ったのは俺なんだから文明レベルとか気にしてないだろなどと考えつつ、シマノは客席から集まる視線に緊張しながら開幕の瞬間を待つ。
「さ~あいよいよ始まりましたっ! アルカナ叡智王決定戦! 果たして優勝するのは誰なのか~!?」
司会者は黒いサングラスをかけた、やたらとテンションの高いリザードマンだった。森からの出稼ぎだろうか。彼らもなかなか大変である。
「今回の挑戦者は~! 我らがサピ中央図書館受付嬢、エリ! 王都アルボスでその名を知らぬものはいない超博識、生き字引シララ! そして! 凡人シマノ~!」
前二人の時は歓声が上がっていたのに、シマノが紹介された途端どっと笑い声が上がった。ユイだけが、「がんばれー」とマイペースに応援してくれている。
ユイの期待に応えるべく、そして何よりイベント限定報酬を逃さずゲットすべく、シマノの戦いが今、幕を開ける。
今回の好きなゲーム【I Wanna Be the Guy】
ニコ動の実況で存在を知ったゲーム
実際遊んでみると本当に理不尽に勢いよく死にまくる 楽しい




