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第64話-2:もう一度ニニィと

「エトル……!」


 いったいいつからそこにいたというのか。黒いフードを目深に被ったゼノ幹部の男エトルは、身構えるシマノたちに臆することなく穏やかな声で語りかける。


「ニニィなら、アジトにはいませんよ。彼女がどこにいるのか、僕も探しているところでしてね」

「ええっ、そーなのか!?」


 大袈裟に反応したキャンを特に気に留めることもなく、エトルは言葉を続ける。


「ティロなら彼女の行方を知っているかと思ったのですが……どこかに出かけてしまったようで。セクィの蜘蛛も今は頼れませんし、どうしようかと思っていたところなのですよ」


「……で、俺たちを探りに来たってわけか」

「ご明察」


 エトルは一切悪びれる様子もなく答えた。一応は敵同士であるはずなのに全く緊張感のない態度のエトルに、シマノは何だか調子を狂わされてしまう。


「えっと……俺たち今ちょうどあんたらのアジトに行こうとしてたんだけど、行っても無駄ってことだよな」

「そういうことです。どうです? ここは一つ、一時休戦といきませんか?」


 エトルからの唐突な提案に、身構えていたシマノたちは困惑した。その発言の意図を掴めないまま、ユイが間を置かず問いかける。


「どういうこと?」

「僕たちの目的は『すべてのおわり』。ですが、ニニィの力があれば、すべてのおわりを起こさなくて済むかもしれません」


「それは本当?」

「ええ、本当です。魔王様は本来、世界の滅びを望まれるようなお方ではありません。僕だって、できれば穏便にと思ってはいるのですよ」


 何を言っているんだこの男は、とシマノは若干の焦りを覚える。

 ゼノがすべてのおわりを引き起こさないならば、魔王を討伐する理由もなくなる。

 だとすれば、俺がこの世界に来た理由は何だ? この世界(アルカナ)のクリア条件が消滅するなんてことが、本当にあり得るとでもいうのか。


「あんたの目的は何だ? それがわからないと、信用できない」


 シマノは率直に疑問を投げかけた。これは半分本音だが、半分はストーリーを深掘りし、新たなクリア条件を探るためのものである。


「王家を打倒することです。そのために僕たちは魔王様と共に在る」


 シマノの意図に気づいたのかそうでないのか、エトルはごく無難な答えを返してきた。……違う、欲しい答えはこんなものじゃない。


「俺は()()()()目的を聞いてるんだけど」


 シマノはさらに一歩踏み込んだ質問をしてみた。


「……変わりませんよ」


「嘘だ。じゃあなんでティロを仲間に入れた? なんでダークエルフを滅ぼしたティロの操りの力を野放しにしている? 王都の軍だって、全然大した強さじゃなかった。あんたらゼノは、その気になればいつだって簡単に王家を滅ぼすことができたはずだ」


 エトルは黙っている。もう一押しだ、とシマノは語気を強める。


「あんたらの建前は妥当王家なんだろ。でも、あんたの本当の目的は別にあるはずだ」

「なるほど、貴方は随分と油断ならない相手のようだ」


 突然、エトルが口を開いたかと思うと、彼の纏う気配が濃く、邪悪なものへとたちまち変化する。堪らずシマノはウインドウを開き、仲間たちも武器を手に、戦闘態勢をとった。


「そう敵視しないでください。貴方がたを今ここで始末するつもりはありません」


 口調こそ穏やかだが、その身に纏う禍々しい気配はむしろ強さを増している。


「僕の目的はただ一つ。魔王様をお救いすること。そのために、ニニィの力が必要なのです。でも今のままでは駄目だ。もっと、もっと、彼女には強くなっていただかないと」


 穏やかな口調の裏に隠された、へばりつくような執着。あまりのおぞましさに、シマノは足が竦み、立っていることさえも危うくなってくる。


「ですから今、彼女にいなくなられると困るんですよ。貴方がたも、世界を滅ぼされては困るでしょう? どうか、ニニィとティロの捜索にご協力いただけませんか?」


 (てい)のいい脅迫だ。だが、ニニィを探すという目的は一致している。


「わかった。ニニィを見つけたら、必ず伝えてくれ。俺たちも、そうする」


 ここは一旦エトルの言い分に従っておこう、とシマノは判断した。


 何はともあれ、これでエトルとは協力関係となった。肝心のニニィの行方については分からないままだが、エトルも知らないというのだから仕方ない。これから自力で調べるしかなさそうだ。


 話がひと段落したためか、エトルは自身の足元に魔法陣を出現させた。このまま立ち去るつもりらしい。


「お待ちなさい! お父様……王をどこへ攫ったのか、お答えなさい」


 すかさず姫様が前に出た。なるほど、確かにエトルはニニィについては知らないようだが、王様や側近たちのことは知っているかもしれない。


 しかし、エトルの反応は冷たいものだった。


「先ほどお伝えしましたよね? 今ここで貴方がたを始末するつもりはないと」


 感情の一切こもらない声。姫様は身の危険を感じ思わず後ずさった。ウティリスが咄嗟に前に出て姫様を庇うように立つ。


「僕たちゼノにとって、王家の人間は『殺したいほど憎い相手』なのですよ。そのことを、くれぐれもお忘れなく」


 もはやこれ以上口を挟める雰囲気ではない。エトルにはさっさとご退場願うとしよう。そう考えていたシマノを背後からぶん殴っていくかのように、また別の声がエトルを引き止める。


「待て……。お前から、凄まじい……石の声が聞こえる」


 ムルの苦しげな声に、エトルは一瞬身動きを止める。


 ムルはひと呼吸おき、隣で心配そうに眉をひそめているキャンに肩を支えられながら、一つの疑問を口にした。


「お前が、我らの主なのか?」


 ムルの問いかけに、エトルは暫し沈黙していたが、やがてその口を開いた。

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