第61話:沈め、石の底へ
操師ティロの力で黒い炎の壁に囲まれたウティリスとキャン。一刻も早く脱出しなくては、姫様たちが危ない。
「速攻で片付ける。足を引っ張るなよ」
「それはこっちの台詞だぜ!」
ウティリスとキャンはそれぞれ構えると、ティロを倒すべく同時に駆け出した。
相変わらず息が合っているとは言い難い二人だが、守るべき人を守るために難敵を倒すという利害は一致している。その拳が、聖剣が、絶え間ない波状攻撃となってティロに襲い掛かった。
「言っただろ? 直接手を下すのは趣味じゃないって」
ティロは再び闇の加護に身を包むと、ウティリスの背丈よりさらに高く浮遊する。ウティリスもキャンも手出しできずに下から黙って黒球を見上げる。
すると、その黒球の周囲に、地底の石が次々と吸い寄せられていく。
「どーなってんだよ……あれじゃあまるで……」
キャンが戸惑いを隠せず呟いた。まるでティロが、ムルたち地底民と同じく石を操っているように見えるのだ。
やがて闇の加護が解除され、中から細剣を真っ直ぐウティリスに向けたティロが姿を現した。
「彼の者を叩き潰せ」
ティロの周囲を漂っていた無数の石片が、ウティリスに狙いを定め、一斉に射出された。
「よけろオッサン!!」
キャンは無我夢中でウティリスの横っ腹に頭から突っ込んだ。地底の大ミミズを打ち倒したその頭突きは、鍛え上げられた歴戦の筋肉さえ物ともせずウティリスの身体を吹っ飛ばし、その場から緊急退避させることに成功した。
その代償としてウティリスはグゥッとくぐもった悲鳴を上げ、苦しそうに脇腹を押さえている。
また、キャン自身もウティリスの代わりに石片を浴び、無数の傷を負ってしまった。
「いっててて……なんでこいつがムルの術を使ってるんだよ……」
「簡単なことさ。お人形に出来ることがボクに出来ないわけないよね」
「ハッ……! もしかして、お前がムルたちを作ったのか!?」
「バカだなぁ。ボクはねえさまの弟だよ? お人形はボクが生まれる前からあるだろ?」
ティロの正論にキャンは何も言い返せず、人形じゃねーし、とただ悔しそうに歯を食いしばっている。
「でも、半分正解だ。ボクはお人形と同じ術が使える……というより、お人形はボクと同じ力を使えるように作られている、というべきかな」
ティロは口元に意味深な笑みを湛えながら、さらに強力な術を発動させた。
「沈め、石の底へ」
間違いない、王都正規軍相手にムルと地底民たちが放ったあの上級術だ。
「やべぇっ……!」
逃げる間もなくキャンもウティリスも身体を捉えられ、腰から下が完全に地中に埋まってしまった。
土の重みで容赦なく締め上げられ、土中の石片によって間断なく痛めつけられ、二人の身体は凄まじい苦痛に襲われた。
「うわああああ!」
「ぐっ……がああっ……!」
「ほらほら、頑張って抜け出してみせてよ。じゃないとねえさまが死んじゃうかもしれないよ?」
いくら煽られようと、上級術をまともに喰らっては身動き一つ取ることすら叶わない。もはや姫様とシマノのピンチに馳せ参じるどころではなく、キャンもウティリスも絶体絶命であった。
その頃、地底民たちはまた別の事象に悩まされていた。
「石が……怒っている……?」
ムルがぽつりと疑問をこぼす。石の声が、普段よりも激しく、明らかに攻撃的になっているのだ。ともに戦っている他の地底民たちも、声の機微を感じ取ったようで互いに顔を見合わせ戸惑っている。
次の瞬間、石片のいくつかが勝手に飛び出し、操られ状態の王都正規軍の皆様を攻撃し始めた。
「どういうことだ……!? 制御が、効かない……!」
なんと、石たちが地底民の意思を離れて勝手に行動しだしたようだ。その怒りの声のあまりの苛烈さに、長老たち他の地底民も怯え、懸命に石のコントロールを取り戻そうとしている。
「奴の操りの術に反応しているのか……?」
何はともあれ、まずは石のコントロールを取り戻すことだ。このままでは術の詠唱どころではない。
「すまぬ、シマノ。何とか耐えてくれ……!」
シマノへの声掛けもそこそこに、ムルは石の制御に全神経を集中させる。
「耐えてくれと言われましてもですね……!」
地底民たちが石の制御に手間取っている間にも、王都正規軍の皆様がじりじりと迫ってくる。
効果的な対策を思いつかずパニック寸前のシマノに、どこからか良く通る鈴の音のような声が語り掛けてきた。
「おいっ、貴様! 今すぐ私の糸を解け!」
声のする方へ振り向くと、セクィの小蜘蛛の糸でグルグル巻きにされた、あの赤い鎧の黒猫騎士が、なんとすぐ近くに転がっていた。
この黒猫騎士、つい先ほどまでキャンと戦っていた時の身のこなしは華麗なものだった。彼女がもし王都正規軍の皆様と戦ってくれるとしたら、まさに御の字である。
シマノは藁にも縋る気持ちで黒猫騎士の元へと駆け寄った。双剣を拝借し、蜘蛛の糸を少しずつ切り離していく。
「けど、いいのか? 軍と敵対することになっちゃうけど……」
「構うものか! 王都の正規軍でありながら無様にも操られ、王家の姫君に牙をむかんとする奴らが異常なのだ! 全員性根を叩き直してやる!」
黒猫騎士はシャーッと威嚇するような声を発している。この騎士、思ったよりも随分熱血タイプであるようだ。
本人がいいと言っているのであれば、ありがたく利用させていただこう。セクィが近くにいないからか、蜘蛛の糸は大した強度もなく、シマノの力でもさほど苦労せず全て切ることができた。
「感謝するぞ、凡人!」
高らかに礼を告げた高潔な騎士は、姫様を護衛すべくたった独りで王都正規軍の皆様に立ち向かっていく。
とにかくこれで多少の時間稼ぎは出来そうだ。あとはムルたちの術が発動するか、キャンたちがこちらに加勢してくれるか、ユイがニニィを連れて戻って来るかだ。
「ニニィ……ゼノのアジトにいてくれるといいんだけど……」
ニニィの行方を案じつつ、シマノは他に今できることがないか改めて状況を整理していった。
***
さて、その頃。ニニィはゼノのアジトではなく、王城の謁見の間に立っていた。
謁見の間はシマノたちが訪れた時と変わらず、玉座に王様が一人で腰かけ、周囲に衛兵たちが隠れ潜んでいるようだ。
「はぁい♡ こんにちは、王様♡」
ニニィは遠慮なく王様に近づいていく。が、王様も周囲の衛兵も微動だにしない。もうすぐにでも触れてしまえるほどの距離になっても、誰一人として微動だにしなかった。
「動けるわけないわよね。だってアナタたちは……」
ニニィはそのまま動かない王様と目を合わせてその頬に触れ、あっさりと情報を盗み出すことに成功する。
「…………こんなのって」
王様から盗み出した情報が、ニニィの表情に暗い影を落とす。王様の頬に触れたまま、ニニィは暫くの間、その場から動くことができなかった。
***
「これ、結構まずい状況だぞ……」
こちらは再び地底。シマノはウインドウを見つめ頭を抱えていた。
光の加護を使いまくった姫様のMPは残り僅か。キャンとウティリスは何やらティロの大技を喰らっているようで、HPが大きく削られて戦闘不能一歩手前。
ムルたちは石の制御がうまくいかず、赤い鎧の黒猫騎士も多勢に無勢でそろそろ限界が近い。
要するにピンチである。
「ああっ!」
黒猫騎士の声だ。溜まった疲労には抗えず、王都正規軍の兵士に自慢の双剣を弾き飛ばされ、大きく体勢を崩されてしまったようだ。
地面に落ちた剣を慌てて拾いに行こうとするも、続々と押し寄せる兵士たちに取り囲まれ、黒猫騎士はその場から動けなくなってしまった。
「くっ……またしても寄ってたかって私を辱めようとは……なんていやらしい……!」
勘違いは相変わらず健在のようだ。しかし、勘違いを抜きにしても黒猫騎士が窮地に立たされていることは変わりない。
シマノはスワップができないかとウインドウを確認する。ところが、黒猫騎士はまだ敵扱いなのか、スワップの対象として選ぶことはできなかった。
「私は姫君をお守りする! 貴様らのような破廉恥な輩には決して屈しないぞ!」
懸命に声を張り上げてはいるが、こうなってしまっては彼女にできることはもうない。兵士たちの剣が、丸腰の黒猫騎士に振り下ろされる。
「――伏せて」
待ち望んでいたその声に、シマノは思わず歓喜の声を上げた。
「ユイ!!」
と同時に、王都正規軍めがけて容赦ない爆撃が降り注ぐ。シマノと姫様は慌てて体勢を低くした。
黒猫騎士も訳が分からないといった様子で目を丸くしていたが、何とか無理矢理その場を離れ、シマノたちに倣って伏せることができたようだ。
「待たせてごめんなさい、シマノ」
そこに立っていたのは、ユイだけであった。残念ながらニニィとは合流できなかったようだ。
「ううん、大丈夫。おかえり、ユイ」
シマノのおかえりにユイは柔らかく微笑んでいる。そうだ、とシマノはもう一人について尋ねる。その問いに、ユイはしっかりと頷き、ティロたちのいる方へ視線を送る。
「あれあれ? もう終わり? ダメだよ、もっとボクを楽しませてくれなきゃ」
ティロの放った上級術で、ウティリスもキャンももう一歩も動くことができない状態まで追い込まれていた。
浮遊していたティロはゆっくりと地面に降り立ち、息も絶え絶えの二人にわざと近づいて愉快そうに見下ろしながら喋っている。
そのティロを目掛けて、一振りの巨斧が風を切り空を裂き黒い炎をかき消し飛び込んできた。
「誰だ」
石の盾で飛来するそれを弾くと、遊びを邪魔されたティロは不機嫌そうにその先を睨みつけた。
「お前ェがティロか。ルナーダの野郎が随分世話になったのォ」
ティロの前に姿を現したのは、かつての相棒ルナーダを喪った男、バルバルだった。
今回の好きなゲーム【す~ぱ~ぷよぷよ通リミックス】
連鎖の組み方が分からずカエル積みで通モードを乗り切った
セガぷよも可愛いけどやっぱり当時のキャラデザが好き ゲーム全体にどことなく漂うアーケード感も味があってよかった




