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第60話-2:凡人なんか操ったりしないよね?

 ティロが放った強大な魔力は、真っ直ぐにシマノのいる方へ向かってくる。


「うっ、うわああああ!」


 情けない悲鳴を上げ、恐怖のあまり固く目を瞑ったシマノはせめて姿勢を低くしようとしゃがみ込んだ。


 その頭上を、ティロの魔力が通過していく。


「……あれ?」


 通過した魔力は、シマノたちの背後で戦闘不能に陥っていた王都正規軍の皆様へと注がれていった。さっき倒したばかりの魔法部隊や鎧の兵士たちがゆらりと身体を起こし、再び得物を手にして戦闘態勢を取る。


 自身が操られなかったことにただ安堵していたシマノだったが、よくよく考えるとこの状況は非常にまずい。背後を取られたことで、後衛にいたはずのシマノと姫様は、あっという間に最前線へと引きずり出された形になる。


「姫様ァ!!」


 従者が叫び、無我夢中でこちらに駆け出すのが見えた。だがそれを闇の力が阻む。


「行かせないよ。お前はボクと遊びたいんだろ?」


 ティロから発せられた闇の力は黒い炎の壁となり、ウティリスの行く手を阻んでしまった。


「姑息な真似を……!」

「ほらほら、早くしないとねえさまがやられちゃうよ?」

「良かろう……今すぐ八つ裂きにしてくれるわッ!」


 ずいぶんと威勢のいいことを言ってはいるものの、相手はゼノの幹部だ。間違いなく黒い炎の解除には時間がかかるだろう。


 つまり、ウティリスとキャンの二人はしばらくこちらへ来られないということだ。

 おまけに姫様は加護を使うので精いっぱい。頼みの綱のムルたちは、術の詠唱にどうしても時間がかかる。


 要するに、王都正規軍の皆様の対処はシマノ一人でしなくてはならないということになる。


「シマノ、時間を稼げ。我らの術が発動するまで耐えろ」


 ムルから実に端的な指示が飛んできた。


「それができたら苦労しないんだよぉ」


 凡人には重すぎる指示にシマノは半泣きである。だが、嘆いている場合ではない。兎にも角にも何とかしなければならないのだ。


 ***


「おや、珍しいお客様ですね」


 ゼノのアジトに着いたユイは、穏やかな男の声に思わず身を固くする。

 始まりの街イニから王都アルボスに向かう道中で襲撃されたときの嫌な記憶が、どうしても頭から離れなかった。


「……エトル」


 名を呼ばれた男は、ゆったりとした所作でこちらに向かっていたが、ユイに抱えられた仲間の姿を見ると一瞬その動きを止めた。

 目深に被られたフードでその表情はわからないものの、ひょっとすると傷ついた仲間の姿に動揺したのかもしれない。


「……こちらへ」


 エトルに促されるまま、ユイはセクィを抱えて隣の部屋へと移動し、置かれていた質素なベッドにそっと降ろした。


「ありがとうございます」


 エトルの声色は普段と何ら変わりないように聞こえる。この男にとって仲間の負傷など大したことではないのだろうか。

 いや、今そんなことを気にしても仕方がない。一先ずユイはここに来た目的を果たすべく、ニニィの行方を尋ねることにした。


「ニニィはどこ?」

「残念ですがここにはいませんよ。少し用事をお願いしていましてね」

「そう。わかった」


 ニニィの不在が判明した以上、ここに残る理由もない。すぐに移動しようとユイは指輪に念を込めた。


「ユイ、」


 エトルからの突然の呼びかけに驚いたユイは念を中断した。


「……何?」

「貴女は、まだご自分がこの世界で生まれたとお思いですか?」

「っ!」


 エトルの意味深な問いかけに、ユイは動揺を隠せず狼狽えてしまった。

 上級職となったユイが古びたメモリーチップからインストールした、カナミの記憶。シマノもまだ見ていない最後の1ピース。

 それが示す事実を、この男が、知っているとでもいうのだろうか。


 そういえば、とユイは直近の記憶を辿る。試練を終えた直後、セクィがチップを奪おうと現れ、結局奪わずに去っていった。

 あの時確かこう言っていた――()()を思い出してないんじゃ、エトル様を救えない――ということは、今カナミの記憶の全てを取り戻した私は、エトルを救うことができる……?


「私は……」

「それとも、()()()()()()()()()()()()()()?」


 エトルの声色にただならぬものを感じ取ったユイは、思わず後ずさり光線銃を構えた。

 口調こそ普段と変わらず穏やかなままだが、その語気には底知れぬ敵意が籠められている。救うどころではない、この男は明確にユイを敵視している。


「……思い出していたら、どうするつもり?」


 震える声で、ユイはエトルに尋ねた。真っ直ぐ向けたはずの銃口も、小刻みに震えて狙いが定まらない。


「別に、何も」


 事も無げに言い放ったその台詞は、普段通りこれといった敵意を感じさせない至極穏やかなものだった。

 ユイは恐る恐る光線銃を下ろす。先ほどまでの敵視は鳴りを潜め、今のエトルにはこの場でユイをどうこうするつもりはなさそうだ。


「お急ぎでしょう? お引き止めしてすみません」

「……」


 エトルの言動に空恐ろしさを感じつつも、ユイはワープ機能を使うべく、再び指輪に念を込める。その途中、今度はユイ自身がエトルに声をかけた。


「エトル、」

「何でしょう」


 ユイは暫し逡巡した後、エトルに告げた。


「貴方と私は、一度ゆっくり対話すべき」

「……ええ、僕もそう思います」

「……」


 いつか、必ず。そう頭の中で呟き、ユイはその場を後にした。

今回の好きなゲーム【ゼルダの伝説 知恵のかりもの】

2D作品でありながらもブレワイの自由さの系譜を継いでいて

一人で健気に頑張る姫様がとても良かった

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