第57話:無理絶対戦いたくないお願いします何でもします
薄暗い地の底で、王家の血を引く証である金色の髪と瞳が仄かにきらめく。その右手の中指には、同じく金色の石が光の魔力を湛えている。
シマノたちの前に立つ王家の姫君は、シャンと背筋を伸ばし、凛とした声でこちらに語りかけてきた。
「王家の一員として、逆賊を見逃すわけには参りませんの」
自ら率先して脱獄の手解きをしてた人がよく言うよ、とシマノは内心呆れていた。
いや、呆れている場合ではない。姫様と敵対するということは即ち、あの従者と戦わなければならないということだ。
従者ウティリスは姫様のすぐ後ろに控えていたが、一歩前に出るとバキバキと指を鳴らし、鼻息荒く筋肉を膨張させ、既に気合い十分の構えである。
「いやいやいや無理無理無理」
つい心の声が駄々洩れてしまったシマノ。まあ実際無理なものは無理なので、何とか戦闘を回避する必要がある。
「問答無用ですわ!」
この姫様、やる気満々である。姫様が指輪を装備した右手を前に出すと、金色の石から魔力が放たれ、ウティリスに光の加護が与えられた。
詳細な数値はわからないが、恐らく様々なステータスが向上したとみて間違いないだろう。長大なHPバーとMPバーが、姫様とウティリスの頭上に出現している。
事態は急を要する。仲間たちも姫様たちとの戦いに備えだした。だが、何としてもこのまま戦闘に突入するわけにはいかない。戦えば、その先に待つのは八つ裂きである。
まずはレンズだ。ウインドウを開き、慣れた手つきで画面をタップしレンズをかける。姫様とウティリスのバーの隣に顔マークが出現した。
怒り顔の従者と――今にも泣きそうな顔の姫。どうやらこの姫様、やる気満々なのは見かけだけで、内心戦いたくはないらしい。
これはチャンスだ。シマノは心の中でガッツポーズをした、つもりが実際に手も動いていた。ユイが訝し気にこちらを見ている。
しかしそんなことは気にしていられない。こうなったらあの手この手で姫様を説得し、従者との戦闘を回避するしかないのだ。
ところが、従者ウティリスは既に戦闘を開始していた。
「ヌゥウウウウウウンッ!」
従者の上腕二頭筋が、その重みの全てが載った強烈な拳が、大地に炸裂する。
拳は波動を生み、その波動が地表を捲り上げながらシマノを目掛けて一直線に迫ってきた。
「待ってぇえええええ~~~~!!」
情けない悲鳴を上げながらシマノが後ずさる。入れ替わるようにユイが前に出た。
「させない」
四基の小型射出機を合体させ、出力を一点に集中し、放つ。その攻撃は高出力のビーム砲となり、地を走る波動と真正面からぶつかると、見事食い止めることに成功した。
「シマノ、大丈夫?」
「助かった~。ありがとうユイ」
シマノたちの様子を見て、ムルたち地底民が前に出てきてくれた。
「力には力だ。あの従者は我らに任せろ」
なんとムルたちは自分たちが火力担当であるとわかっているらしい。ここはお言葉に甘えて、ユイとともに暫くの間従者の相手を務めておいてもらおう。
「ありがとう、ムル、みんな。俺はその間に姫様を説得してみる」
「ユウシェ……キヲッケ……」
長老の声に微笑ましさを覚えつつ、シマノはふと気になってキャンの姿を探す。
「オ……オレはちょっと休憩……するぜ……」
その声に背後を振り返ると、前方にいたはずのキャンはいつの間にかシマノの後ろまで下がり、地面に大の字に寝転がっていた。
どうやらスワップの効果が切れ、セクィと入れ替えていたMPが元に戻ったせいでMP切れを起こしているようだ。
まあ持ち前の回復力ですぐ復活するだろう。キャンは一旦無視するとして、ではそのセクィはどこに行ったのだろうか?
「アタシはコイツを引き受けるよ」
いた。先程までと変わらず、操師ティロと対峙しているようだ。ここ二人のパワーバランスは正直よくわからないが、ゼノの幹部同士仲良くやっといてもらうとしよう。
早速シマノはシマノ自身の為すべきことに集中する。
「姫様、待ってください! 確かに俺たちは王家の命令に逆らいました。でもあれは王様の言うことが滅茶苦茶すぎるからです!」
もしかすると、王様が地底民に何を求め、何を命じたか、姫様は知らされていないかもしれない。一縷の望みをかけ、シマノは姫様に訴えかける。
「お父様からは、地底民が鉱石をゼノに横流ししていると聞きましたわ」
残念ながら姫様の言ったことは概ね事実だ。厳密にいえばまだ横流しはしていないというだけで、やろうとしていることはそう変わらない。
思ったよりも事態は深刻なようだ。さて、ここからどう挽回するか。
「姫様も聞いたでしょう? 王様は地底民たちの扱い方が酷すぎます」
まずは情に訴える作戦だ。姫様は自ら地底に来ようとするぐらい地底民に興味がある。ここは一旦同情を誘って戦闘を中止してもらおう。
「だからって、ゼノに石を渡すのは到底許容できませんわ」
作戦失敗。姫様の仰ることはご尤もである。
さあめげずに次の作戦だ。
「俺たち、姫様には何の恨みもありません。出来れば戦いたくないんですけど」
名付けて泣き落とし作戦。潤んだ瞳で敵意がないことを示し、今度こそ戦闘を回避したいところだ。
「わたくしだって、あなた方と戦いたくなどありませんわ」
よし、姫様が乗ってきた。チャンス到来だ。
「じゃあここは見逃して……」
「それでも、わたくしは王家の一員として、あなた方を倒します」
作戦失敗だ。だがここで諦めるわけにはいかない。
「姫様、前に言ってましたよね。王家が犯した過ちを正さなくてはならないって。今こそその時なんじゃないですか?」
「うっ……」
姫様の顔マークが汗を浮かべている。これはかなり効いているようだ。手応えを感じたシマノはさらに続ける。
「確かに王様の言ったことは正しいかもしれません。地底民は最初からダークエルフに操られていただけだったのかもしれない。でも、一方だけの言い分で判断するのって、やっぱりおかしくないですか? また同じ過ちを繰り返すかもしれませんよ?」
王の言葉に疑いの余地を挟むなど、本来ならそれだけで処刑ものである。
しかし、姫様もやはり思うところがあるのか、このまま素直に王に従うことに疑問を抱き始めたようだ。
「わたくしは……ただ真実を知ることで、地底民の皆様に……」
姫様が迷っている。このまま押し切れるかもしれない。ラストスパートとばかりにシマノが口を開こうとすると、そこに突然従者の怒号が響き渡った。
「貴様ァ! 姫様を誑かす極悪人めがァ!」
従者ウティリスは怒りに任せてこちらに突進してくる。
ユイの射出機を素手で払いのけ、ムルたちが築く石壁を体当たりで粉砕し、飛来する石礫も全て筋肉の鎧ではじき返し、どんどんシマノに近づいてくる。
「待って待ってこの状況ヤバいんじゃないの!?」
猪突猛進の従者は地底民でもユイでも止められない。セクィはティロに夢中でこっちに来る気がないし、キャンはすっかり寝ている。
「シマノ、下がって」
焦るシマノの前にユイが立ち、光線銃を構えてくれた。だがそんなものでこの従者が止まるとは思えない。このままではユイも危険だ。
「だめだ、逃げろユイ! 俺のことはいいから!」
シマノはユイを押し退けて無理やり下がらせ、無我夢中で自らウティリスの前に立った。拳を振り上げたウティリスは、もうほんの数歩先まで迫っている。
「シマノ、だめ!」
ユイがこちらに手を伸ばしている。シマノはそれを横目に見つつ、迫る拳に思わず目を固くつぶった。
「おやめ、ウティリス!!」
姫様の声が響いた。地底の石に反響し、微かにこだましている。ウティリスの拳は、シマノに触れるか触れないかのところで、止まった。
離れた位置からちらちらと様子を窺っていたティロが短く驚きの口笛を鳴らす。その様子がセクィの神経を逆撫でした。
「余所見してんじゃないよッ!」
セクィの召喚した大蜘蛛がティロに糸を吐きかける。それをティロは細剣で跡形もなく切り刻んでいた。
「今、ねえさまがいいとこなんだから。邪魔しないでよね」
「お黙りこのシスコン! アタシのアラーニャちゃんに喰われておしまい!」
セクィがドンドンと踵を踏み鳴らす。ティロは眉間に皺を寄せ、不服そうに大蜘蛛アラーニャを睨みつけた。
「そんなに死に急ぐなよ」
ティロの足元に魔法陣が出現し、紫黒色の鈍い輝きを放つ。細剣の切っ先を天に向け、顔の前で祈るように掲げ持つと、ティロの全身が闇の魔力で満たされていく。
「たかが虫の分際で、王家の血を引く者に敵うはずないだろ」
漆黒の闇を纏った一閃が、アラーニャを貫いた。
今回の好きなゲーム【ファイナルファンタジーIV(DS版)】
昔やったSFC版がクリアできなかったのでこっちでリベンジできてよかった
あの頃お世話になりまくったバイオがとんでもなく弱体化したのは悲しかった




