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第56話:黒猫騎士と蜘蛛女

 シマノ、ユイ、そして先鋒隊を片付けたムルが前に出ると、キャンとセクィのすぐ目の前で、兜の取れた赤い鎧が尻餅をついていた。


「猫だ」

「うん、猫」

「……これがネコか」


 三人は各々納得した様子で頷いている。ムルは猫というものを見るのが初めてらしい。縦長の瞳孔やよく動く耳に興味を示している。


 赤い鎧の中の人こと黒猫の獣人は、細めていた瞳孔を真ん丸に開き、耳を平たく伏せ、怯えた様子でシマノたちの方を見上げながら口を開いた。


「きっ貴様ら、私に酷いことをするつもりなんだろう!?」


 高くよく通る鈴の音のような声。雌猫だろうか、とシマノは思う。

 そして何やらこの雌猫騎士は、この先の自らの処遇についてよからぬ勘違いをしているようだ。


「くっ……殺せ!」


 本当にこの台詞を言う人っているんだ、とシマノはどこか他人事のように考えた。


 ……いや、待てよ? そもそもこのゲームを作ったのは俺だ。つまり、この台詞を入力したのも……俺?


「やーだね! 負けたくせに命令すんなバーカ!」


 キャンの声でシマノは思考を止める。いけない、今は戦闘中だ。あくまでプレイヤーとしてこのゲーム世界(アルカナ)に集中しなくては。


 シマノは前方に意識を戻す。少しずつ聞こえてきた内容から察するに、キャンと雌猫騎士が言い合いをしているようだ。


「なんと粗野な発言……! 貴様、獣としての矜持は無いのか!」

「……キョージって何?」

「あっ頭も悪い! これだから粗野な子どもは嫌なんだ!」

「子どもじゃねーし! ……ソヤって何?」

「っ~~~~~~!!」


 アホだ。この勇者、アホすぎる。苛立ち全開の雌猫騎士にシマノは心の底から同情した。


 その同情が届いたのか、苛立ちの頂点で天を仰いだ雌猫騎士がハッと我に返り、キャンの後ろに控えるシマノたちに目を遣った。そして再び怯えたような様子を見せる。


「じっ、じろじろ見るな! そうやって寄ってたかって、私を辱しめようだなんて……いやらしいっ!」


 やはりこの雌猫騎士は大きな勘違いをしているようだ。一先ずこちらにそんな意思は無いと伝えておいた方がいいだろう。


「あー……俺たち別にそんなつもりじゃ」

「私は潔く死を選ぶ! さあ殺せ! 早く!」

「だから命令すんなって言ってるだろ! バーカ!」

「うん、キャンはちょっと黙ってようか」


 だんだん収拾がつかなくなりつつあるとシマノは感じていた。

 ところが助太刀を求めようにもユイは敵魔法部隊への攻撃で忙しく、ムルは雌猫騎士の発言意図がよくわかっていなさそう、そしてキャンはアホである。頼れるのは蜘蛛女セクィだけだ。


 すがるような目でセクィを見つめると、苦虫を瓶いっぱいに詰めて潰して一息に飲み干したような顔をしている。

 さすがに申し訳ない気持ちになるシマノであったが、ここで頼らないわけにはいかない。両手を顔の前で合わせ、何とか助力のお願いを伝えようとする。


 やがて、セクィは観念したかのように深く溜息を吐いた。シマノの粘り勝ちだ。

 尚も騒がしい言い争いを続けているキャンと雌猫騎士を前に、セクィは大きく一発踵を踏み鳴らした。


「おやめ! オマエみたいなメスガキはアタシらの好みじゃないんだよ!」


 そういう問題でもないんだが……とシマノは思う。一方、セクィの言葉に顔を向けた雌猫騎士は、その服装に驚き口をポカンと開けたまま数秒固まった。


「なっ……何だその……は、は、破廉恥な……」


 雌猫騎士の言葉にセクィはフンと鼻を鳴らす。


「着たいの? アタシの小蜘蛛ちゃんたちにお願いしてみたら?」


 赤い鎧の周りを小蜘蛛たちが取り囲む。雌猫騎士はヒッと短い悲鳴を上げ、恐ろしさのあまり震えだした。


「や……やめろ……」

「うるさい。黙って大人しくしな」


 小蜘蛛の吐く糸に巻かれ、雌猫騎士はあっという間に身動きがとれなくなった。ぐるぐるに巻かれて地面に転がされ、騎士は屈辱の表情を浮かべている。


「この私が……こんな酷い侮辱に……くっ……!」

「はい一丁上がり。さっさと行くよ」


 そう言うとセクィはどんどん前進していった。その横でキャンが、さすが蜘蛛おねーさん! とはしゃいでいる。


「ありがとー! セクィー!」


 シマノは離れていく背中に慌てて礼を告げ、こちらも遅れてはいけないと周囲のムルや地底民たちに声をかけ、前進を開始した。


 その道中、ムルが何度も名残惜しそうに後ろを振り返っている。


「ネコ……」


 どうやらムルは猫が気に入ったらしい。


 ***


 その後もシマノたちの快進撃は続いた。王都の軍は数こそ多いものの、たいした強さではなかった。蓋を開けてみれば、彼我の戦力差は個々のスペックで十分埋められてしまうものだったのである。


 もちろん、これは地底民たちによる範囲火力攻撃がよく効いていることも大きい。

 そして、セクィの小蜘蛛。無尽蔵に産出される蜘蛛の群れは敵の戦力も意欲も根こそぎ奪い取っていった。

 この調子なら、本当に王家の正規軍に勝つことができるかもしれない。


 ユイの爆撃でほぼ壊滅状態に追い込まれていたエルフの魔法部隊を突破し、シマノたちはとうとう敵の本陣に切り込んだ。


「やあ、待ってたよ」


 少年特有の澄んだ美しい声。敵陣の最奥で待っていたのは、金色の瞳を有するゼノ幹部。


操師(あやつりし)ティロ……!」


 厄介なことになった。ティロは王家を裏切りゼノについた身。まさかここで王家の正規軍として敵対することになるとは、完全に予想外だ。


 しかもこちらには同じくゼノの幹部であるセクィがいる。このままでは同士討ちになってしまうが、いいのだろうか。


「へぇ、やっぱりオマエが出てくるってわけね」


 セクィは何故かこの状況に疑問を抱いていないようだ。ゼノも一枚岩ではないということか? 情報が少なすぎて判断が難しい。


「ボクはこう見えて王家の一員だからね。王家の危機には馳せ参じる。当然のことだろ?」


 そう言いながらティロは腰に差した細剣を抜く。まずい、とシマノは顔に焦りの色を浮かべた。恐らくティロは、屍の峡谷で見せた操りの術を使う気だ。


「シマノ、ヤバいぜ! あいつまたムルたちを……!」


 キャンの危惧する通りだ。今、シマノのパーティにはムルだけでなく長老たち他の地底民もいる。

 もしも彼らが一斉に操られてしまったら……。ニニィのいない今、デバッグモードに使うソースコードを盗み取ることさえできないのだ。そうなってしまえば、確実に負ける。


 しかしこの状況でティロとの戦闘を回避できるとは考えにくい。


「フン、跡取りになれなくてこっちに来たくせに。いつまで王族気取りでいるつもり?」

「虫風情が。ボクにそんな口を利いていいと思っているのか?」


 シマノの心配をよそにセクィとティロがバチバチに煽り合っている。傍で聞いているシマノは既に胃の痛みが限界突破していた。


「エトル様のため。オマエにはここで死んでもらうよ!」

「あれあれ? そんなこと言っていいのかなぁ。ボクが死んだらエトルは悲しむと思うけど?」

「様をつけな!!」


 セクィの怒りが地面に紋様を描き出す。その紋様から、一匹の巨大な蜘蛛が這い出して来る。シマノたちが地底の採掘所で戦った大蜘蛛・アラクネと同じタイプのようだ。


 ティロは大蜘蛛を見ても一切動じない。それどころか、操りの術を発動させることもなく、やれやれと頭を振っている。


「そんなに焦るなよ。キミたちの相手をするのはボクじゃない」


 ティロの背後から二人の人影が姿を現す。その二人に、シマノだけでなくキャンもユイも、ムルまでもが息を呑んだ。

 小さな影と大きな影。少し考えればわかることなのに、何故かその可能性をここまで一切考えもしなかった。王家と敵対するということは、彼らとも敵対するということなのだ。


「ここからは、わたくしがお相手いたしますわ」


 王家の姫様と、その従者ウティリスがシマノたちの前に立ちはだかった。

今回の好きなゲーム【マリオカート64】

ミニターボ連発するのがめちゃくちゃ楽しかった ヨッシーバレーがお気に入り

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